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5・④再び
法事で闇に落ちる
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翌週土曜日、神崎家で三回忌が行われた。親族だけのこじんまりとした法要で、施主は祖父だった。一応親父も来ていたが、すでに別の家庭を持った父はあまり故人を偲ぶ様子はなく、他人事のように涼しげな顔をしていた。
予想していたように、会食は苦境の極みだった。
ぞわぞわと内側から侵食され、自分の全てが汚物にまみれた廃棄物のように感じた。
今ここで自分が生きているのも、申し訳なく思い、呼吸がうまくできなくなった。
真っ青な俺を、父はかばうことなく、むしろ神崎家の説教が自分へ向けてでなくなったことに安堵しながら、のんびりと茶をすすっていた。
俺が生きて、なぜこの子は死んだのか。
この子は選ばれて、俺は選ばれなかった。
選ばれなかったから、今生きのびているのだ。
だが、それは誰も望んでいなかったのかもしれない。
親族の、悲痛が伝わる。
俺は神崎家の人間であるはずなのに、親父の子であるはずなのに、どちらにも必要とされていないのだ。
汚物にまみれた孤独な人間だと、突きつけられる時間だった。
俺は心を閉じ、静かに時が経つのを待つしかなかった。
夕方ようやく解放され、寮の近くのコンビニに下ろされた。
送迎してくれた父は、
「お前に矛先が向いて助かったよ」
と笑いながら去っていった。
━━━疲れ果てた。
HPも、MPも、空っぽだ。
声が聞きたいな、と思ってケントさんに連絡したが、つながらない。
会えないと伝えていたし、仕方ないかと思っていると、向こうから折り返しが来た。
慌てて出ると、
「もしもし、あまねちゃん? あ、これケントのなんだけど、酔っぱらっちゃてて出れないからあたしがかけた~♡ 何かなー?」
と、一方的に酔っぱらった女性がしゃべってきたので、俺は無言のまま終了ボタンを押した。
本当に、疲れた。
ふわふわと漂うクラゲに、不意に毒針を刺されたようだった。
寮に戻り、食堂に行くも食欲がなかったので牛乳だけ飲んで部屋に戻った。
気付くと、スマホに留守電が入っていた。
ベッドに寝転びながら聞くと、先ほどの女性からだった。
「━━あ、もしもし? あのさ、もう連絡しないでくれるかな? ケントも忙しいんだから、あんたなんかに構ってられないよ」
2人部屋で、1人は辛かった。
重い身体を起こして、なんとか風呂に入り、帰りに涼くんの部屋を訪ねた。
「おー、お帰り、あまね。ん?」
元気がないのを瞬時に察してくれ、涼くんは声のトーンを落とし、招き入れてくれた。
「髪、ビショビショじゃん」
涼くんが、手に持っていたタオルでごしごし拭いてくれる。
小さな優しさに、涙がつたった。
そのまま、俺は涼くんを抱きついてしまった。
「ど、どしたの? あまね?」
俺は涼くんに顔をうずめたまま、お願いする。
「今日、いっしょに、寝てほしい」
予想していたように、会食は苦境の極みだった。
ぞわぞわと内側から侵食され、自分の全てが汚物にまみれた廃棄物のように感じた。
今ここで自分が生きているのも、申し訳なく思い、呼吸がうまくできなくなった。
真っ青な俺を、父はかばうことなく、むしろ神崎家の説教が自分へ向けてでなくなったことに安堵しながら、のんびりと茶をすすっていた。
俺が生きて、なぜこの子は死んだのか。
この子は選ばれて、俺は選ばれなかった。
選ばれなかったから、今生きのびているのだ。
だが、それは誰も望んでいなかったのかもしれない。
親族の、悲痛が伝わる。
俺は神崎家の人間であるはずなのに、親父の子であるはずなのに、どちらにも必要とされていないのだ。
汚物にまみれた孤独な人間だと、突きつけられる時間だった。
俺は心を閉じ、静かに時が経つのを待つしかなかった。
夕方ようやく解放され、寮の近くのコンビニに下ろされた。
送迎してくれた父は、
「お前に矛先が向いて助かったよ」
と笑いながら去っていった。
━━━疲れ果てた。
HPも、MPも、空っぽだ。
声が聞きたいな、と思ってケントさんに連絡したが、つながらない。
会えないと伝えていたし、仕方ないかと思っていると、向こうから折り返しが来た。
慌てて出ると、
「もしもし、あまねちゃん? あ、これケントのなんだけど、酔っぱらっちゃてて出れないからあたしがかけた~♡ 何かなー?」
と、一方的に酔っぱらった女性がしゃべってきたので、俺は無言のまま終了ボタンを押した。
本当に、疲れた。
ふわふわと漂うクラゲに、不意に毒針を刺されたようだった。
寮に戻り、食堂に行くも食欲がなかったので牛乳だけ飲んで部屋に戻った。
気付くと、スマホに留守電が入っていた。
ベッドに寝転びながら聞くと、先ほどの女性からだった。
「━━あ、もしもし? あのさ、もう連絡しないでくれるかな? ケントも忙しいんだから、あんたなんかに構ってられないよ」
2人部屋で、1人は辛かった。
重い身体を起こして、なんとか風呂に入り、帰りに涼くんの部屋を訪ねた。
「おー、お帰り、あまね。ん?」
元気がないのを瞬時に察してくれ、涼くんは声のトーンを落とし、招き入れてくれた。
「髪、ビショビショじゃん」
涼くんが、手に持っていたタオルでごしごし拭いてくれる。
小さな優しさに、涙がつたった。
そのまま、俺は涼くんを抱きついてしまった。
「ど、どしたの? あまね?」
俺は涼くんに顔をうずめたまま、お願いする。
「今日、いっしょに、寝てほしい」
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