上 下
27 / 102
5・④再び

涼くんとベッドで

しおりを挟む
「いいよ」

いっしょにいてほしい、と伝えると、涼くんは快く承諾してくれた。

涼くんの部屋は元俺の部屋で、現在1人で使っている。

マンガの散らばったベッドを片付けながら、
「上はマットレスないから、オレと同じ下で寝るってこと?  だよね?」
と確認した。

椅子に座り、涼くんが片付けるのをボーっと見ながら、こくん、と頷いた。


「夕食食べた?  歯磨きした?  あ、枕持ってくる?」
と矢継ぎ早に質問してきたが、俺は返事ができなかった。

「いっしょに部屋に取りに行こ」
と提案してくれ、とぼとぼと涼くんの後ろを付いていき、部屋から歯ブラシと枕だけ持った。

「あ、スマホは?」
と涼くんに聞かれたが、首を振って答えた。











深く沈む俺に、涼くんは静かに肩を貸してくれ、寄りかかる俺の頭を撫でてくれた。

二段ベッドの下はテントのようで、2人でキャンプに来ているようだ。

「……アラズ先生も言ってただろ。お前たちは、ヒトリニアラズ」

ぽつり、ぽつりと涼くんが声をかけてくれる。

「何があったか知らないけど、オレは、絶対に、あまねの味方だから」

「━━━ッ」
俺は、静かに涙を流した。


涼くんは、あたたかかった。

こぼれた涙が、涼くんの手に落ちた。

涼くんは、そっと俺のこめかみに唇を寄せた。

ピクッと身体が反応すると、俺の唇を親指で撫で、そのままキスをしてきた。



ベッドに倒れこむ。


お互いに確認するかのように見つめ合い、もう一度、唇を合わせた。

柔らかな唇が気持ちよく、俺の脳内は暗闇から抜け出せそうなような感覚になった。






違う。


一時は忘れられても、それは儚いもの。


事実は何も変わらないのだ。




もうなにも考えたくない。



俺は、涼くんの胸元に頭をうずめ、目を閉じた。











━━━ドンドンッ

不意に、ドアを激しめに叩く音がした。

涼くんが目をこすりながら、
「はぁい……」
と返事していた。

俺はベッドから動けないで、そのまま浅い眠りを続けていると、思いっきり腕を引っ張られ、ベッドから上体を起こされた。

「???」

何が起きたかわからず、捕まれた腕の先を見ると、小野寺だった。


「???  小野寺?  あ、えと、瑛二?」


見ると、ドア付近には、涼くんが倒れていた。廊下からの光が部屋に入り、かろうじてどんな状況かわかった。

「な、なに??」

「って━━━ッ」

「涼くん!!」

「あまねセンパイ、大丈夫ですか」
瑛二は涼くんを殴り、俺の心配をしている……?

俺は、状況がわからず混乱する。

「な、なにが」

「1時になっても、センパイが部屋から出てこないので」

「??   え、今1時なの?」

「はい」

「あー、泊まりに来たんだよ?  寝てたんだ」

「瑛二ぃ、お前何でいきなり殴るんだよッ!!」
涼くんはめちゃくちゃキレていた。

「あまねセンパイを襲ってるのかと思いました」

「な、……」
涼くんは呆気にとられ、開いた口がふさがらなかった。

「それは瑛二、お前だろうがッ!!」

涼くんは俺を握る瑛二の手を払い、ドアの方へ瑛二を引っ張って、廊下へ放り投げた。

「次確認せず殴ったら、もうサッカーやらないからな!!」

バタン!!


勢いよく扉を閉め、涼くんは小さな冷蔵庫からペットボトルを取りだし、ゴクゴクと飲んだ。


もう一つ冷蔵庫からお茶を取り出し、「ん」と俺に手渡してきた。

「はあー、瑛二、ここまでアホだったとは」

すっかり目が覚めたので、涼くんは机の明かりをつけた。

「でもさ、あまね、わかったろ。瑛二はお前のこと好きだよ」

「うん」



少し、嬉しかった。

今の俺には、その行為はありがたかった。

「……瑛二って、『もや』見えないんだよな?」

「見えない」

「じゃあオレが刺されることは、まだないか。なあ、ついでに聞くけど、土野さんとこって『もや』消えた?」

「あ、うん。水曜にお店で会った時、お姉さんも遊びに来てくれて、見たら消えてたよ」


「玲央のお兄ちゃんは消えてないよな?」

「消えて、なかった。今会ったらどうかわかんないけど」

「馬場園さんって人はたぶん消えてないよな?」


「消えてないかもね」

「馬場園さんは、なんか不起訴になりそうって瑛二が言ってたわ。いとこ情報ね。防犯カメラにも写ってなくて、証拠不十分らしい」

「そっか」

「今度からは、『もや』が確実に消えるように動こう。オレたち、もしかしたら逆に恨まれる可能性あるだろ」

「うん」

「オレ、あまねにいなくなられたら困るからなッ」
涼くんは拳で肩を小突いた。

「うん」

「さ、もう一回寝るか。……キスする?」

本気とも、冗談とも取れるような言い方をするので、俺は涼くんの胸ぐらをつかんで、唇を奪った。

「━━ッ!  あまね、意外と強引~」
と涼くんはおどけた。

そして今度は、彼の方からとろけるほどに甘くて、うっとりするキスをわけてくれた。









孤独の深淵から、ほんの少しだけ浮上した気がした。


しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

転生したら捨てられたが、拾われて楽しく生きています。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:11,310pt お気に入り:24,900

精霊国の至純

BL / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:930

毒花令嬢の逆襲 ~良い子のふりはもうやめました~

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:108,340pt お気に入り:3,058

異世界で子ども食堂始めました。

BL / 連載中 24h.ポイント:127pt お気に入り:1,099

四角い世界に赤を塗る

BL / 完結 24h.ポイント:85pt お気に入り:251

処理中です...