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5・④再び
涼くんとベッドで
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「いいよ」
いっしょにいてほしい、と伝えると、涼くんは快く承諾してくれた。
涼くんの部屋は元俺の部屋で、現在1人で使っている。
マンガの散らばったベッドを片付けながら、
「上はマットレスないから、オレと同じ下で寝るってこと? だよね?」
と確認した。
椅子に座り、涼くんが片付けるのをボーっと見ながら、こくん、と頷いた。
「夕食食べた? 歯磨きした? あ、枕持ってくる?」
と矢継ぎ早に質問してきたが、俺は返事ができなかった。
「いっしょに部屋に取りに行こ」
と提案してくれ、とぼとぼと涼くんの後ろを付いていき、部屋から歯ブラシと枕だけ持った。
「あ、スマホは?」
と涼くんに聞かれたが、首を振って答えた。
深く沈む俺に、涼くんは静かに肩を貸してくれ、寄りかかる俺の頭を撫でてくれた。
二段ベッドの下はテントのようで、2人でキャンプに来ているようだ。
「……アラズ先生も言ってただろ。お前たちは、ヒトリニアラズ」
ぽつり、ぽつりと涼くんが声をかけてくれる。
「何があったか知らないけど、オレは、絶対に、あまねの味方だから」
「━━━ッ」
俺は、静かに涙を流した。
涼くんは、あたたかかった。
こぼれた涙が、涼くんの手に落ちた。
涼くんは、そっと俺のこめかみに唇を寄せた。
ピクッと身体が反応すると、俺の唇を親指で撫で、そのままキスをしてきた。
ベッドに倒れこむ。
お互いに確認するかのように見つめ合い、もう一度、唇を合わせた。
柔らかな唇が気持ちよく、俺の脳内は暗闇から抜け出せそうなような感覚になった。
違う。
一時は忘れられても、それは儚いもの。
事実は何も変わらないのだ。
もうなにも考えたくない。
俺は、涼くんの胸元に頭をうずめ、目を閉じた。
━━━ドンドンッ
不意に、ドアを激しめに叩く音がした。
涼くんが目をこすりながら、
「はぁい……」
と返事していた。
俺はベッドから動けないで、そのまま浅い眠りを続けていると、思いっきり腕を引っ張られ、ベッドから上体を起こされた。
「???」
何が起きたかわからず、捕まれた腕の先を見ると、小野寺だった。
「??? 小野寺? あ、えと、瑛二?」
見ると、ドア付近には、涼くんが倒れていた。廊下からの光が部屋に入り、かろうじてどんな状況かわかった。
「な、なに??」
「って━━━ッ」
「涼くん!!」
「あまねセンパイ、大丈夫ですか」
瑛二は涼くんを殴り、俺の心配をしている……?
俺は、状況がわからず混乱する。
「な、なにが」
「1時になっても、センパイが部屋から出てこないので」
「?? え、今1時なの?」
「はい」
「あー、泊まりに来たんだよ? 寝てたんだ」
「瑛二ぃ、お前何でいきなり殴るんだよッ!!」
涼くんはめちゃくちゃキレていた。
「あまねセンパイを襲ってるのかと思いました」
「な、……」
涼くんは呆気にとられ、開いた口がふさがらなかった。
「それは瑛二、お前だろうがッ!!」
涼くんは俺を握る瑛二の手を払い、ドアの方へ瑛二を引っ張って、廊下へ放り投げた。
「次確認せず殴ったら、もうサッカーやらないからな!!」
バタン!!
勢いよく扉を閉め、涼くんは小さな冷蔵庫からペットボトルを取りだし、ゴクゴクと飲んだ。
もう一つ冷蔵庫からお茶を取り出し、「ん」と俺に手渡してきた。
「はあー、瑛二、ここまでアホだったとは」
すっかり目が覚めたので、涼くんは机の明かりをつけた。
「でもさ、あまね、わかったろ。瑛二はお前のこと好きだよ」
「うん」
少し、嬉しかった。
今の俺には、その行為はありがたかった。
「……瑛二って、『もや』見えないんだよな?」
「見えない」
「じゃあオレが刺されることは、まだないか。なあ、ついでに聞くけど、土野さんとこって『もや』消えた?」
「あ、うん。水曜にお店で会った時、お姉さんも遊びに来てくれて、見たら消えてたよ」
「玲央のお兄ちゃんは消えてないよな?」
「消えて、なかった。今会ったらどうかわかんないけど」
「馬場園さんって人はたぶん消えてないよな?」
「消えてないかもね」
「馬場園さんは、なんか不起訴になりそうって瑛二が言ってたわ。いとこ情報ね。防犯カメラにも写ってなくて、証拠不十分らしい」
「そっか」
「今度からは、『もや』が確実に消えるように動こう。オレたち、もしかしたら逆に恨まれる可能性あるだろ」
「うん」
「オレ、あまねにいなくなられたら困るからなッ」
涼くんは拳で肩を小突いた。
「うん」
「さ、もう一回寝るか。……キスする?」
本気とも、冗談とも取れるような言い方をするので、俺は涼くんの胸ぐらをつかんで、唇を奪った。
「━━ッ! あまね、意外と強引~」
と涼くんはおどけた。
そして今度は、彼の方からとろけるほどに甘くて、うっとりするキスをわけてくれた。
孤独の深淵から、ほんの少しだけ浮上した気がした。
いっしょにいてほしい、と伝えると、涼くんは快く承諾してくれた。
涼くんの部屋は元俺の部屋で、現在1人で使っている。
マンガの散らばったベッドを片付けながら、
「上はマットレスないから、オレと同じ下で寝るってこと? だよね?」
と確認した。
椅子に座り、涼くんが片付けるのをボーっと見ながら、こくん、と頷いた。
「夕食食べた? 歯磨きした? あ、枕持ってくる?」
と矢継ぎ早に質問してきたが、俺は返事ができなかった。
「いっしょに部屋に取りに行こ」
と提案してくれ、とぼとぼと涼くんの後ろを付いていき、部屋から歯ブラシと枕だけ持った。
「あ、スマホは?」
と涼くんに聞かれたが、首を振って答えた。
深く沈む俺に、涼くんは静かに肩を貸してくれ、寄りかかる俺の頭を撫でてくれた。
二段ベッドの下はテントのようで、2人でキャンプに来ているようだ。
「……アラズ先生も言ってただろ。お前たちは、ヒトリニアラズ」
ぽつり、ぽつりと涼くんが声をかけてくれる。
「何があったか知らないけど、オレは、絶対に、あまねの味方だから」
「━━━ッ」
俺は、静かに涙を流した。
涼くんは、あたたかかった。
こぼれた涙が、涼くんの手に落ちた。
涼くんは、そっと俺のこめかみに唇を寄せた。
ピクッと身体が反応すると、俺の唇を親指で撫で、そのままキスをしてきた。
ベッドに倒れこむ。
お互いに確認するかのように見つめ合い、もう一度、唇を合わせた。
柔らかな唇が気持ちよく、俺の脳内は暗闇から抜け出せそうなような感覚になった。
違う。
一時は忘れられても、それは儚いもの。
事実は何も変わらないのだ。
もうなにも考えたくない。
俺は、涼くんの胸元に頭をうずめ、目を閉じた。
━━━ドンドンッ
不意に、ドアを激しめに叩く音がした。
涼くんが目をこすりながら、
「はぁい……」
と返事していた。
俺はベッドから動けないで、そのまま浅い眠りを続けていると、思いっきり腕を引っ張られ、ベッドから上体を起こされた。
「???」
何が起きたかわからず、捕まれた腕の先を見ると、小野寺だった。
「??? 小野寺? あ、えと、瑛二?」
見ると、ドア付近には、涼くんが倒れていた。廊下からの光が部屋に入り、かろうじてどんな状況かわかった。
「な、なに??」
「って━━━ッ」
「涼くん!!」
「あまねセンパイ、大丈夫ですか」
瑛二は涼くんを殴り、俺の心配をしている……?
俺は、状況がわからず混乱する。
「な、なにが」
「1時になっても、センパイが部屋から出てこないので」
「?? え、今1時なの?」
「はい」
「あー、泊まりに来たんだよ? 寝てたんだ」
「瑛二ぃ、お前何でいきなり殴るんだよッ!!」
涼くんはめちゃくちゃキレていた。
「あまねセンパイを襲ってるのかと思いました」
「な、……」
涼くんは呆気にとられ、開いた口がふさがらなかった。
「それは瑛二、お前だろうがッ!!」
涼くんは俺を握る瑛二の手を払い、ドアの方へ瑛二を引っ張って、廊下へ放り投げた。
「次確認せず殴ったら、もうサッカーやらないからな!!」
バタン!!
勢いよく扉を閉め、涼くんは小さな冷蔵庫からペットボトルを取りだし、ゴクゴクと飲んだ。
もう一つ冷蔵庫からお茶を取り出し、「ん」と俺に手渡してきた。
「はあー、瑛二、ここまでアホだったとは」
すっかり目が覚めたので、涼くんは机の明かりをつけた。
「でもさ、あまね、わかったろ。瑛二はお前のこと好きだよ」
「うん」
少し、嬉しかった。
今の俺には、その行為はありがたかった。
「……瑛二って、『もや』見えないんだよな?」
「見えない」
「じゃあオレが刺されることは、まだないか。なあ、ついでに聞くけど、土野さんとこって『もや』消えた?」
「あ、うん。水曜にお店で会った時、お姉さんも遊びに来てくれて、見たら消えてたよ」
「玲央のお兄ちゃんは消えてないよな?」
「消えて、なかった。今会ったらどうかわかんないけど」
「馬場園さんって人はたぶん消えてないよな?」
「消えてないかもね」
「馬場園さんは、なんか不起訴になりそうって瑛二が言ってたわ。いとこ情報ね。防犯カメラにも写ってなくて、証拠不十分らしい」
「そっか」
「今度からは、『もや』が確実に消えるように動こう。オレたち、もしかしたら逆に恨まれる可能性あるだろ」
「うん」
「オレ、あまねにいなくなられたら困るからなッ」
涼くんは拳で肩を小突いた。
「うん」
「さ、もう一回寝るか。……キスする?」
本気とも、冗談とも取れるような言い方をするので、俺は涼くんの胸ぐらをつかんで、唇を奪った。
「━━ッ! あまね、意外と強引~」
と涼くんはおどけた。
そして今度は、彼の方からとろけるほどに甘くて、うっとりするキスをわけてくれた。
孤独の深淵から、ほんの少しだけ浮上した気がした。
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