【完結】コドクニアラズ ~淫らな『なんでも屋』~

ナツキ

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7・依頼人⑦向井絢斗

じじいなんて無視する

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「じじいに、未曾有の災害が起こると言われた」

「うん?」

「お前たちは蠱毒だ、これから未曾有の災害が起こる。世界は終わる」

「……そのじじい何者?」
どうも要領を得ず、涼くんも不思議そうな顔をしていた。

「わかんない。でも即神仏みたいな痩せこけたじじいだった」

「ある時、とある場所で、じじいに世界の命運はお前にかかっていると言われたわけね?」

「そうです」

「なんで黙ってたの?」

「涼くんなら、信じた?」

「いや……信じないね」

「だよね。でも、じじいに聞いたあと、実際に『もや』が視えはじめて、『もや』をまとった人が事件を起こして、そこでようやくじじいが言ったこと気になりはじめて。『孤独』じゃなくて『蠱毒』だと気づいた」
自分が孤独だから、俺はじじいの話を聞いた時、勘違いしていたのだ。

「蠱毒ってなに?」

「なんか、古代中国で行われた呪術の一つみたい。器に色んな虫を入れて、共食いさせて、最後の一匹がすんごい毒物になるとか」

「じゃあじじいの言うことがもし本当なら、人間同士の共食いが始まるってこと……?  こわー!!  なんかデスゲームみたい。それはないか……」

「ごめんね、言わなくて。『もや』が視えるのだけでも非現実的なのにさ」

「あまねが、言えなかったのもわかるよ。でも、もしこれがほんとのほんとに世界を救うロールプレイングゲームだったとしたら、なんで主人公のあまねがのらりくらりで旅に出ないんだって話だよね」




痛いところをついてくる。
そうなのだ。9月、10月くらいまでは俺は救おうと自分なりに『もや』と向き合って行動していた。蔑まれた自分が、なにか託されて誰かのためになれるのではないかと、そこに希望を見いだしていたのだ。

なのに、どうだ?

俺は今、自分とごく狭小の範囲のみに気を配り、満足している。世界全体なんてとんでもない。俺は今、ここで幸せを見つけたのだ。


「涼くん、大変申し訳ない。俺、色欲に溺れて、正直世界救うとかどうでもよくなってました……」
両手で顔を覆い、自分の低能さに消沈した。煩悩ありまくりのただの高校生だ。俺はケントさんとセックスできればそれだけで充分だった。快楽に負けた自分に嫌気がさす。


「ダメ勇者じゃん……」

「だいたい、こんな俺が勇者なわけないでしょっ」
開き直って反論してみたりする。

「そうだよなあ。勇者がこんなに淫乱で毎晩喘ぎ声出してないよなあ」

「涼ーくんッ!!」

「ケントさんに激しく抱かれて、あんあん言ってるんだろ?  メスイキ覚えて、どんな声出すの?」

「い、言わないっ」

「教えろよぉ、親友だろ~」

涼くんは悪ふざけして、俺を押し倒してきた。
ラグの上で馬乗りにされ、両手首を押さえつけられる。

はぁっ、と涼くんが熱い吐息をもらし、俺をいやらしい目つきで見下ろした。

「りょ、涼くん、通話!  ケントさん聞いてるんだよ」
小声で涼くんに知らせると、涼くんは耳元でささやいた。

「あまねが声出さなければいいだろ?」

涼くんは耳をペロリとなめ、舌先を尖らせて突っ込んできた。

「━━━ッ!!」

ピチャピチャと耳を舐める音がダイレクトに聞こえ、響く。

「あまねの喘ぎ声聞いて、オレやりたくなってたの我慢してたんだよ?  少しくらい、いいだろ?」

濡れた耳に息がかかり、ゾクゾクと快感が押し寄せた。

「で、電話切ってからに、してっ」

「淫乱~」
ニヤニヤしながら、俺のスマホをテーブルから取り、終了ボタンを押す。

「ケントさんに女性連れ込むのたしなめたくせに、あまねはオレとこんなことしちゃうんだね?」

「りょ、涼くんが始めたんでしょ」

「人のせい?  あまねだって目をとろんとさせて、物欲しそうに見つめてきたじゃん。どうする?  オレとキスする?」

「~~し、したいけど、我慢するっ」
くうー、ッと、自分の欲を抑えてなんとか涼くんの悪ふざけを断る。

「あらら~、残念。じゃあ、寮に戻ってからいっぱいしような?」
真っ赤な顔の俺を、涼くんはさらにからかってくる。なんて意地悪なんだッ。

「はは、この前のお返しでした~」

涼くんは両手の拘束をはずし、明るいトーンでおどけた。

残念、と思う気持ちと、ホッと安心した気持ちが入り雑じり、現実離れした『蠱毒』についての罪悪感が薄れた。俺はほんの小さな枠内で生きている人間なのだ。

「あまね、世界平和とか、そんな大きいことオレたちは気にしなくていいと思う。ただの高校生だしな。あまねと、ケント先生と、オレと、咲月学園とが平穏無事であればいいんじゃないかな」

「そうだよね、ありがとう」

俺は、勇者の看板を下ろした。気長に、『もや』の消し方を模索すれば良いのだ。
じじいには悪いけど、俺と涼くんははじまりの街に住むしがない子供だったのだ。冒険などしない。戦う気もない。


俺の顔を見下ろす涼くんは、ホッと安堵の表情を浮かべていた。








カチャッ

玄関の鍵が開く音がした。
ケントさんが戻ってきたので、俺は涼くんの下から這いだし、玄関へ向かった。

「おかえり、ケントさん」

「なんで通話切ったんだよ」

「なんか切れてたね?  ごめん♡」

「あやしいな……」
ぶつぶつとケントさんが不満げだったが、俺は一応キスを拒んだので強気でいけた。



「お帰りなさい、ケント先生。うわー!  すげーキレイな肉ッ♡」


「涼めちゃくちゃ食うからビックリしたわ。こんだけ肉あれば足りるだろ」

「肉うれしー♡」
俺とは正反対に、大量の肉で喜ぶ涼くん。今夜のメニューなんだろう?
 
「ケント先生、この肉牛肉ですよね?  もしかしてすき焼き?」


「正解。あと茶碗蒸しチャレンジしてみようと思ってる。あとはコールスローと、トマトのさっぱりしたなにか作るわ」

「すげーっ」

俺はケントさんの心遣いが嬉しくて、優しく微笑んだ。
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