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7・依頼人⑦向井絢斗
コドクニアラズ
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「お前、本当にあまねのとこ心配してるんだな」
とケントさんはあきれながら、寝転ぶ涼くんを起こした。
「お前を殴って悪かったよ」
「大丈夫ですよ~、あまねの、喘ぎ声聞けたし」
涼くん、一言多い。俺は脱がされた下着とスウェットを履いて、遅れて涼くんに近寄る。
「あとでもっとかわいい声聞かせてやろうか? メスイキ覚えて、何度も何度もおねだりしてイき……」
「ケ、ケントさんっ、やめてよっ!!」
慌てて俺はケントさんの言葉を遮る。
「涼に聞かれて、めちゃくちゃ勃起してたじゃないか。あまねは人前の方が感じるんじゃないか? 侑李の時もだったよな」
「ケーンートさーん!!」
俺は怒りと羞恥で顔を赤らめながら、ケントさんに拳をお見舞いした。ポスッとダメージのない音がなり、ケントさんはクク、とのどで笑った。
「涼、夕食まで食べていけよ。帰り送ってやる」
「え、いいんですか?」
「話終わってないだろ。夕食の材料買ってくるから、それまで話しとけ」
おおっと? いきなりの譲歩?
涼くんの人柄がわかってくれたのかな。
「ただし、あまねのスマホ通話状態にしとけ」
や、やっぱりね……。
ケントさんはよく食べる涼くんのために、夕食の買い出しに行った。
俺は通話状態のスマホのそばで、涼くんと話の続きをすることにした。
「んじゃ、『もや』の発現条件について、聞こうかな」
「うん」
土野恵美さんからの返事で、姉の牧村好恵さんがNo.13のブースを利用していたことがわかった。ケントさんからも、結城直哉さんがNo.13のブースを使ったという返事がきていた。
よって、このパソコンがなんらかの関係をしているということを、涼くんに説明した。
「じゃあ、今のところ強い殺意とか負の感情を持った人間が、No.13のブースのパソコンを使うと『もや』が発現する、ということだな。夏休みにあまり『もや』を見かけなかったのはパソコンの破損のせいだと」
「そうだね。他の条件もあるかもしれないけど」
「てか、防犯カメラの死角があるってなんだそりゃ。それ、壊した犯人は知ってたのかな」
「どうだろ」
「あやし~。なんでそんな配置にしたんだろ」
そうなのだ。cafeリコには不審な点がいくつもある。スタッフさんがいい人ばかりだから、疑いたくはなかった。だがおそらく、わざと映らないように防犯カメラを設置したのだ。1階に下りる階段にもカメラはついてないので、No.13を使った人は、ほとんど防犯カメラに映らない。透明人間になれるのだ。
「本社からの替えのパソコンが遅かったのは、なんか細工してたからかな」
「たぶん」
「本社ってことは、cafeリコってチェーン店だったの?」
「うん、直営店じゃなくて、フランチャイズ?かな。地域によって、名前違うはず」
「じゃあ、他の地域でも『もや』が発現してる……? この会社が、『もや』をばらまいてる?」
「だよね~、そうなるよね……」
やっぱりこれは大きな問題なのか。俺は頭を抱えた。
「ここで、じじいの話になるんだけど」
俺は、この話をするのは気が重かった。
「出た、じじい。あまねがそんな風に言うなんて、珍しい」
「いや……ほんとクソじじいと言いたい」
「うわー! なに? どうした?」
「はあ。実はね、cafeリコって今年の4月から6月は改装工事してて、スタッフの人数があぶれてたんだ。それで、少し他のバイトをかけ持ちしてたんだけど」
「え、そうだったんだ?」
「寮母さんにバレるのも面倒だから、誰にも言ってなかった」
「届け、出さなきゃいけないもんなあ」
「そう、それ。……でまあ、それで、じじいに出会ってしまったんだけど」
「え、身体売ったの?」
「ちげーわ」
「だよね」
「もー詳しくは、今ははしょるけど、かくかくしかじかで、このじじいになんかカプセルを飲まされた」
「こっわー!」
「あとじじいに手の甲を舐められた」
「キモッ!!」
「そんで、じじい殴って逃げた」
「あ、あまねにしてはがんばったね?」
「じじいが、カプセルを『抗体』だと言ったんだ」
「ははあ、なるほど……」
「それが、このパソコンからのなにかを防いだのかなと思ってる」
「そっか。まあ、あまねに負の感情がなかったかもしれないしな? それで『もや』が視えるようになったの?」
「たぶんね。あと……」
「うん」
「あと、これは涼くんにほんとーに謝らなきゃいけないことなんだけど、許してくれる?」
「え、それはわからないな」
「許してよ」
「まず話しなよ」
「やっぱやめる」
正直、言いたくない話なんだ。
「ここまで言ってるんだから話せよぉッ」
「怒んないでっ」
やっぱり言いたくない。
「怒んないから話せぇ~ッ」
涼くんは俺に襲いかかり、コチョコチョとくすぐり始めた。
「ぎゃっははっははっやめて、涼く、んっはは」
「言う気になった?」
涼くんはラグに転げた俺をニヤニヤしながら問う。
「はぁっ言います、すみません」
「よし」
涼くんは転げた俺を起こし、髪を撫でた。
「怒らないから」
「うん」
俺は、一度深呼吸した。
「……あのさ、コドクニアラズ、ていうプロジェクト名なんだけど」
「ん? うん」
「実はね、アラズ先生の口ぐせからつけたわけじゃない」
「え、お前たちは1人にあらず、からじゃないの?」
「じゃ、ない」
「じゃあ、なにから?」
「じじいから」
「なんだよー、そのじじい!! めっちゃ気になる。詳しく話してよ」
「いや詳しくって言ったって、俺もその時1回しか会ってないからなあ。まあとりあえずごめんね?」
「まじかー。オレ、アラズ先生好きなんだけどなあ」
「ちょうどアラズ先生の口ぐせがあったから、カモフラージュしてた」
「じゃあ、なんなわけ?」
「お前たちはコドクだ、からきてる」
「お前たちは孤独だ? 逆の意味?」
「涼くん、スマホでコドクって打ってみて」
「コドクね、待って」
涼くんは、テーブルに置いたスマホをポチポチと押し、検索画面でコドクと押した。
「え? 孤独じゃなくて、こっち?」
「そう、蠱毒」
「お前たちは蠱毒だ、を否定したくて、『コドクニアラズ』と名付けたんだ」
蠱毒、コドク。
古代中国において、呪術として使われた毒物である。
とケントさんはあきれながら、寝転ぶ涼くんを起こした。
「お前を殴って悪かったよ」
「大丈夫ですよ~、あまねの、喘ぎ声聞けたし」
涼くん、一言多い。俺は脱がされた下着とスウェットを履いて、遅れて涼くんに近寄る。
「あとでもっとかわいい声聞かせてやろうか? メスイキ覚えて、何度も何度もおねだりしてイき……」
「ケ、ケントさんっ、やめてよっ!!」
慌てて俺はケントさんの言葉を遮る。
「涼に聞かれて、めちゃくちゃ勃起してたじゃないか。あまねは人前の方が感じるんじゃないか? 侑李の時もだったよな」
「ケーンートさーん!!」
俺は怒りと羞恥で顔を赤らめながら、ケントさんに拳をお見舞いした。ポスッとダメージのない音がなり、ケントさんはクク、とのどで笑った。
「涼、夕食まで食べていけよ。帰り送ってやる」
「え、いいんですか?」
「話終わってないだろ。夕食の材料買ってくるから、それまで話しとけ」
おおっと? いきなりの譲歩?
涼くんの人柄がわかってくれたのかな。
「ただし、あまねのスマホ通話状態にしとけ」
や、やっぱりね……。
ケントさんはよく食べる涼くんのために、夕食の買い出しに行った。
俺は通話状態のスマホのそばで、涼くんと話の続きをすることにした。
「んじゃ、『もや』の発現条件について、聞こうかな」
「うん」
土野恵美さんからの返事で、姉の牧村好恵さんがNo.13のブースを利用していたことがわかった。ケントさんからも、結城直哉さんがNo.13のブースを使ったという返事がきていた。
よって、このパソコンがなんらかの関係をしているということを、涼くんに説明した。
「じゃあ、今のところ強い殺意とか負の感情を持った人間が、No.13のブースのパソコンを使うと『もや』が発現する、ということだな。夏休みにあまり『もや』を見かけなかったのはパソコンの破損のせいだと」
「そうだね。他の条件もあるかもしれないけど」
「てか、防犯カメラの死角があるってなんだそりゃ。それ、壊した犯人は知ってたのかな」
「どうだろ」
「あやし~。なんでそんな配置にしたんだろ」
そうなのだ。cafeリコには不審な点がいくつもある。スタッフさんがいい人ばかりだから、疑いたくはなかった。だがおそらく、わざと映らないように防犯カメラを設置したのだ。1階に下りる階段にもカメラはついてないので、No.13を使った人は、ほとんど防犯カメラに映らない。透明人間になれるのだ。
「本社からの替えのパソコンが遅かったのは、なんか細工してたからかな」
「たぶん」
「本社ってことは、cafeリコってチェーン店だったの?」
「うん、直営店じゃなくて、フランチャイズ?かな。地域によって、名前違うはず」
「じゃあ、他の地域でも『もや』が発現してる……? この会社が、『もや』をばらまいてる?」
「だよね~、そうなるよね……」
やっぱりこれは大きな問題なのか。俺は頭を抱えた。
「ここで、じじいの話になるんだけど」
俺は、この話をするのは気が重かった。
「出た、じじい。あまねがそんな風に言うなんて、珍しい」
「いや……ほんとクソじじいと言いたい」
「うわー! なに? どうした?」
「はあ。実はね、cafeリコって今年の4月から6月は改装工事してて、スタッフの人数があぶれてたんだ。それで、少し他のバイトをかけ持ちしてたんだけど」
「え、そうだったんだ?」
「寮母さんにバレるのも面倒だから、誰にも言ってなかった」
「届け、出さなきゃいけないもんなあ」
「そう、それ。……でまあ、それで、じじいに出会ってしまったんだけど」
「え、身体売ったの?」
「ちげーわ」
「だよね」
「もー詳しくは、今ははしょるけど、かくかくしかじかで、このじじいになんかカプセルを飲まされた」
「こっわー!」
「あとじじいに手の甲を舐められた」
「キモッ!!」
「そんで、じじい殴って逃げた」
「あ、あまねにしてはがんばったね?」
「じじいが、カプセルを『抗体』だと言ったんだ」
「ははあ、なるほど……」
「それが、このパソコンからのなにかを防いだのかなと思ってる」
「そっか。まあ、あまねに負の感情がなかったかもしれないしな? それで『もや』が視えるようになったの?」
「たぶんね。あと……」
「うん」
「あと、これは涼くんにほんとーに謝らなきゃいけないことなんだけど、許してくれる?」
「え、それはわからないな」
「許してよ」
「まず話しなよ」
「やっぱやめる」
正直、言いたくない話なんだ。
「ここまで言ってるんだから話せよぉッ」
「怒んないでっ」
やっぱり言いたくない。
「怒んないから話せぇ~ッ」
涼くんは俺に襲いかかり、コチョコチョとくすぐり始めた。
「ぎゃっははっははっやめて、涼く、んっはは」
「言う気になった?」
涼くんはラグに転げた俺をニヤニヤしながら問う。
「はぁっ言います、すみません」
「よし」
涼くんは転げた俺を起こし、髪を撫でた。
「怒らないから」
「うん」
俺は、一度深呼吸した。
「……あのさ、コドクニアラズ、ていうプロジェクト名なんだけど」
「ん? うん」
「実はね、アラズ先生の口ぐせからつけたわけじゃない」
「え、お前たちは1人にあらず、からじゃないの?」
「じゃ、ない」
「じゃあ、なにから?」
「じじいから」
「なんだよー、そのじじい!! めっちゃ気になる。詳しく話してよ」
「いや詳しくって言ったって、俺もその時1回しか会ってないからなあ。まあとりあえずごめんね?」
「まじかー。オレ、アラズ先生好きなんだけどなあ」
「ちょうどアラズ先生の口ぐせがあったから、カモフラージュしてた」
「じゃあ、なんなわけ?」
「お前たちはコドクだ、からきてる」
「お前たちは孤独だ? 逆の意味?」
「涼くん、スマホでコドクって打ってみて」
「コドクね、待って」
涼くんは、テーブルに置いたスマホをポチポチと押し、検索画面でコドクと押した。
「え? 孤独じゃなくて、こっち?」
「そう、蠱毒」
「お前たちは蠱毒だ、を否定したくて、『コドクニアラズ』と名付けたんだ」
蠱毒、コドク。
古代中国において、呪術として使われた毒物である。
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