悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき

文字の大きさ
6 / 125
本編

5(回想)

しおりを挟む

「アルベルト、セシリア嬢に庭園を案内してさしあげたら?」


お茶をしながら一通り会話を楽しんで満足した皇后の提案により、アルベルトとセシリアの二人は護衛騎士やお付きのメイドたちをを引き連れて庭園を散策することになった

天気の話や季節の花の話をアルベルトがふると、セシリアがそつなく答える
そんな子供らしくないやり取りを繰り返しながら歩いていると小さな湖にたどり着いた

「あ、こんなところまで来てしまったね
そろそろ戻ろうか」

そう言ってアルベルトが来た道を戻ろうとすると、それまで返答するだけだったセシリアが初めて自分から口を開いた

「あの・・・あれは噴水、ですか?」
「え…?」

話しかけられたことに若干驚きながら彼女の視線をおうと湖の中央
水がドーム型に流れている場所が目にうつる

あぁ・・・見慣れていなければ珍しいだろうな・・・

「あれは魔法で水を流して作っている東屋みたいなものだよ
中に簡単なテーブルセットが置いてあってお茶をしたり出来るようになってるんだ」

説明してやるとセシリアの瞳が僅かに見開かれ、より興味深そうにそれを眺める

「そうなのですね…
橋などは見あたりませんが、あそこまではどうやって?」
「魔法だよ
湖の一部を凍らして上を歩いたり、逆に水を遮って湖の底を歩いたりね
魔法の使えないメイド達はボートを使ったりもする」
「なるほど・・・」
「・・・」
「…えっと、よければ行ってみるかい?」

問いかけると、彼女がぱっとこちらを振り返る

「よろしいのですか?」
「うん、いいよ」
「ありがとうございます!」
「!あ、あぁ…」

照れたような、嬉しさを隠しきれないような笑みでお礼を言われて思わず口ごもる

…なんだ
子どもらしい顔も出来るんじゃないか…

ほんのりと熱をもった頬を隠すように顔をそらし口を開いた

「…なら、早速行こうか」
「はい!」
「じゃあ、向こうに渡れるように…」

大人の誰かにしてもらおう、という言葉は途中で止まる

パキッパキパキ
パキパキッ…!

「!?」

物音に驚いてそちらを振り向くと、セシリアが湖に向かって手を伸ばしていた
そして、その手の先は…

「できましたわ
殿下、参りましょう?」

水の東屋に向かって真っ直ぐ延びる、氷の道が出来ていた





ラピス皇国は、ラピスラズリを媒体にして水を操る魔法の使い手達が暮らす国だ

平民は魔力が弱いものが多く、ほとんどの者が桶にはった水に波紋をたたせる程度の魔法しか使うことが出来ない
身分が上がれば上がるほど使える魔法が多くなり、上級貴族や皇族になると水分を含むものなら血液なども含め、自由自在に操るほどの魔力を有する

しかし、魔力はあっても産まれながらに魔法が使えるものは殆んどいない
親や家庭教師から基礎を教えられ、13歳になると魔法学校に通って実技や応用を学ぶのが一般的である
従って、13歳以下の年齢で魔法を使えるものは殆んど居ない
使えたとしても平民と同じ程度で、下級魔法が使えると天才だと言われている
実際、7歳のアルベルトは空のグラスを水で満たすという下級魔法が使うことができ、それだけで天才だ、神童だと持て囃されているのだ

それなのに、セシリアは…

「殿下?」

事も無げに魔法を…しかも広範囲の水を綺麗に凍らせるという上級魔法を使いけろっとしている
魔力切れを起こすことも、得意になることもなく、当たり前の事のように…

「殿下…?どうなさいました?」
「ぁ…いや、なんでも…」

不思議そうにこちらを伺うセシリアに何とか返事を返しながらも、アルベルトは動揺を隠せない
ちらりと後ろを伺うと着いてきていた数人のメイドや護衛騎士達も唖然としている

「天才だ…」

護衛騎士の誰かの呟きが、彼の耳にはやけに大きく聞こえた


これがアルベルトとセシリアの初交流
そしてアルベルトが産まれて初めて敗北感を感じた瞬間であった
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

【完結】 悪役令嬢が死ぬまでにしたい10のこと

淡麗 マナ
恋愛
2022/04/07 小説ホットランキング女性向け1位に入ることができました。皆様の応援のおかげです。ありがとうございます。 第3回 一二三書房WEB小説大賞の最終選考作品です。(5,668作品のなかで45作品) ※コメント欄でネタバレしています。私のミスです。ネタバレしたくない方は読み終わったあとにコメントをご覧ください。 原因不明の病により、余命3ヶ月と診断された公爵令嬢のフェイト・アシュフォード。 よりによって今日は、王太子殿下とフェイトの婚約が発表されるパーティの日。 王太子殿下のことを考えれば、わたくしは身を引いたほうが良い。 どうやって婚約をお断りしようかと考えていると、王太子殿下の横には容姿端麗の女性が。逆に婚約破棄されて傷心するフェイト。 家に帰り、一冊の本をとりだす。それはフェイトが敬愛する、悪役令嬢とよばれた公爵令嬢ヴァイオレットが活躍する物語。そのなかに、【死ぬまでにしたい10のこと】を決める描写があり、フェイトはそれを真似してリストを作り、生きる指針とする。 1.余命のことは絶対にだれにも知られないこと。 2.悪役令嬢ヴァイオレットになりきる。あえて人から嫌われることで、自分が死んだ時の悲しみを減らす。(これは実行できなくて、後で変更することになる) 3.必ず病気の原因を突き止め、治療法を見つけだし、他の人が病気にならないようにする。 4.ノブレス・オブリージュ 公爵令嬢としての責務をいつもどおり果たす。 5.お父様と弟の問題を解決する。 それと、目に入れても痛くない、白蛇のイタムの新しい飼い主を探さねばなりませんし、恋……というものもしてみたいし、矛盾していますけれど、友達も欲しい。etc. リストに従い、持ち前の執務能力、するどい観察眼を持って、人々の問題や悩みを解決していくフェイト。 ただし、悪役令嬢の振りをして、人から嫌われることは上手くいかない。逆に好かれてしまう! では、リストを変更しよう。わたくしの身代わりを立て、遠くに嫁いでもらうのはどうでしょう? たとえ失敗しても10のリストを修正し、最善を尽くすフェイト。 これはフェイトが、余命3ヶ月で10のしたいことを実行する物語。皆を自らの死によって悲しませない為に足掻き、運命に立ち向かう、逆転劇。 【注意点】 恋愛要素は弱め。 設定はかなりゆるめに作っています。 1人か、2人、苛立つキャラクターが出てくると思いますが、爽快なざまぁはありません。 2章以降だいぶ殺伐として、不穏な感じになりますので、合わないと思ったら辞めることをお勧めします。

乙女ゲームの悪役令嬢になったから、ヒロインと距離を置いて破滅フラグを回避しようと思ったら……なぜか攻略対象が私に夢中なんですけど!?

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「イザベラ、お前との婚約を破棄する!」「はい?」悪役令嬢のイザベラは、婚約者のエドワード王子から婚約の破棄を言い渡されてしまった。男爵家令嬢のアリシアとの真実の愛に目覚めたという理由でだ。さらには義弟のフレッド、騎士見習いのカイン、氷魔法士のオスカーまでもがエドワード王子に同調し、イザベラを責める。そして正義感が暴走した彼らにより、イザベラは殺害されてしまった。「……はっ! ここは……」イザベラが次に目覚めたとき、彼女は七歳に若返っていた。そして、この世界が乙女ゲームだということに気づく。予知夢で見た十年後のバッドエンドを回避するため、七歳の彼女は動き出すのであった。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

【完結】転生したら少女漫画の悪役令嬢でした〜アホ王子との婚約フラグを壊したら義理の兄に溺愛されました〜

まほりろ
恋愛
ムーンライトノベルズで日間総合1位、週間総合2位になった作品です。 【完結】「ディアーナ・フォークト! 貴様との婚約を破棄する!!」見目麗しい第二王子にそう言い渡されたとき、ディアーナは騎士団長の子息に取り押さえられ膝をついていた。王子の側近により読み上げられるディアーナの罪状。第二王子の腕の中で幸せそうに微笑むヒロインのユリア。悪役令嬢のディアーナはユリアに斬りかかり、義理の兄で第二王子の近衛隊のフリードに斬り殺される。 三日月杏奈は漫画好きの普通の女の子、バナナの皮で滑って転んで死んだ。享年二十歳。 目を覚ました杏奈は少女漫画「クリンゲル学園の天使」悪役令嬢ディアーナ・フォークト転生していた。破滅フラグを壊す為に義理の兄と仲良くしようとしたら溺愛されました。 私の事を大切にしてくれるお義兄様と仲良く暮らします。王子殿下私のことは放っておいてください。 ムーンライトノベルズにも投稿しています。 「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

小説主人公の悪役令嬢の姉に転生しました〜モブのはずが第一王子に一途に愛されています〜

みかん桜
恋愛
第一王子と妹が並んでいる姿を見て前世を思い出したリリーナ。 ここは、乙女ゲームが舞台の小説の世界だった。 悪役令嬢が主役で、破滅を回避して幸せを掴む——そんな物語。 私はその主人公の姉。しかもゲームの妹が、悪役令嬢になった原因の1つが姉である私だったはず。 とはいえ私はただのモブ。 この世界のルールから逸脱せず、無難に生きていこうと決意したのに……なぜか第一王子に執着されている。 ……そういえば、元々『姉の婚約者を奪った』って設定だったような……? ※2025年5月に副題を追加しました。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。

三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*  公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。  どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。 ※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。 ※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。

処理中です...