海の向こう側

杠葉 縞

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16.就寝

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 サクラと共に玄関を通ってリビングに戻った。そこにはソファで寝ている新田と、部屋の片付けをしているクリスしかいなかった。他の皆はすでに解散したのだろう。
「あら二人とも、戻って来たのね。ところで望月さん、虫に刺された跡がすごいわよ」
「えっ」
 両腕のあちこちに、虫刺されの跡がはっきりと見えた。それと同時に両腕が痒くなっていくのを感じた。気付かないうちに蚊に刺されまくっていたのか。これは立派な無銭飲食だ。せめて金を払っていけ。
「私もそろそろ部屋に戻るから。ところで私のバスローブを知らない?」
「は? バスローブ?」
 お前が知らないお前の持ち物を、なぜ俺が知っていると思うんだ?
「ほら、カエデ。さっきクリスちゃんの洗濯物を干すのを手伝ったとき、バスローブも混ざっていたじゃん」
「あー。そういえば、そうだったような……」
 思い出した。そういえばバスローブを干した気がする。あのときはボンヤリしていたし、サクラに言われるまで忘れていた。
「ええ、お願いしたところまでは覚えているの。でも庭に干してあると思っていたけど、いつの間にかバスローブだけなくなっていたの」
 下着泥棒でなく、バスローブ泥棒か。なかなかマニアックなところをつくな。そもそも本当に泥棒なら、犯人はかなり限られてしまうが。
「それにしても、クリス。寝るときにバスローブを着ているのか。なんかこう、レースのネグリジェみたいなのを着ているイメージがあったわ」
「寝るときくらい、このゴスロリファッションから離れて、リラックスしたいじゃない」
 じゃあ普段からゴスロリファッションなんて着ていないで、仁美みたいな清楚なワンピース姿の方がいいんじゃないか? 黒髪だし、似合うと思うぞ。
「まあ、いいわ。何か理由があって、誰かが持って行ってしまったんでしょう。今日はネグリジェにするわ」
 結局、ネグリジェも持っているのかよ。
 クリスはそのままリビングを出て行った。彼女の部屋は一階の廊下の一番、奥にある。
「ねえ、カエデ。新田くん、このままじゃ、風邪ひいちゃうんじゃないかな。タオルケットかけてあげたら?」
「分かったよ」
 俺はリビングの収納ケースを開けて、タオルケットを一枚、取り出した。そして新田にかけてやった。タオルケットは大柄な新田をすっぽりと覆った。
 何だか、仕事で疲れて寝てしまった夫に優しく毛布をかけてあげる新妻になった気分だ。俺はかけられる側になりたい。
 微かな寝息が聞こえてくる。俺は新田の顔をぼんやりと眺めた。こいつも五年前の事故に関わっているんだよな。ひょっとして磯野の死を目の前にして、網姫の呪いに怯えているのか。
 安心しろよ。呪いなんてない。でもアーヤのことは大事にしないと、そっち方面からの呪いが飛んでくるぞ。
 俺はリビングを出て、クリスの部屋の隣の風呂場に向かった。今日は本当にいろんな汗をかいた。一時間どころか、二時間でも三時間でも風呂に浸かりたい気分だった。

 という訳で、俺はタオルと替えのTシャツを抱えて、風呂場に向かった。女性陣はすでに全員が風呂に入っているはずだし、おかしな事故は起こらないだろう。
 俺は脱衣所でTシャツを脱いで風呂場の扉を開けた。そこではピンク頭の大西が一人で風呂に浸かっていた。そして俺がそのまま浴槽に入ろうとすると、彼はとてつもなく嫌そうな顔を向けて急いで浴槽から出て行った。
「望月さんが最後なんで、お湯を抜くのと掃除はよろしくお願いします」
 大西はそう言うと、風呂場の扉をピシャっと閉めた。俺と裸の付き合いはしたくないってか? 別に野郎が二人で入っても余裕があるくらいの広さなのに。
 まあいいか。ここで一人でボイストレーニングでもするか。俺は前期の月九の主題歌を大声で歌い始めた。
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