物理的破壊で済むと思うな!

井之四花 頂

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1 県立日輪高校

転校初日③

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「はい」
「あなたから見てどう? 連中はうちの学校の関係者とみて間違いないんだろうか? いや、今言われても分からんかもしれんけど」

 不可解なことを聞くと思った。来たばかりの俺に分からないのは当然だ。返答に窮していると、校長は眉間に皺を寄せて語気を強めた。

「開校以来35年、世間を騒がすような事件はここで起きていない。自殺を含めて変死案件はゼロ、事故死もゼロだ。疾病による死亡は2件あっても、当然、人に恨みを買うような案件じゃない。どういうことか分かりますか」
「つまり、部外者ということですか?」
「違いますかね? それに卒業後にどんなご不幸があったにしろ、それは本校と無関係だからここに化けて出る筋合いでもないでしょう。となると、『よその かた』じゃないかと思うんです」

 校長の説に対して、俺は死霊ではなく生霊いきりょうの可能性を指摘しようと思ったが、苛立たしげな校長の顔を見ているうちに何となく憚られた。

「僕には、今のところ何とも言えないです。……ところでまだ開校して35年なんですか?」
「それが何か?」
「校舎が随分古いように見えたので。なんかもう、50年は経ってるような」
「ほう。君はいくつ?」

 やっと「あなた」が「君」に変わり、校長の眼差しに微かな警戒の色が混じってきた。俺が「16歳です」と答えると、校長は「そうか。ふむ」と横を向いてから、「そうそう。一応は転校生だから」と言って立ち上がった。

「編入先のクラスは2年2組ってことで。そろそろ2時間目も始まるし、教室に行くのはそれからにしよう。あと、制服はね」

 校長は部屋の隅に立ててあった衣装掛けから黒い詰襟の上着を取り、「これ着て行って」と俺に渡した。金ボタンで止めるその種の制服は、中高一貫の聖往学園でブレザーを着慣れていた俺の初めて目にする代物だった。

「サイズは問題ないでしょう? 新品ってわけにもいかないがクリーニングはしてあるんで、気にしないで」

 着てみると、確かにサイズに問題はなかった。ボタンを一番上まで留めた俺が、ここまで着て来た聖往のブレザーを示して「これどうしましょう?」と言うと、校長は「こちらで預かる」と言った。

「心配無用だ。隠したりしないよ。後で責任を持って返す」

 それで俺が安心するとでも思ったのか、校長は露骨な作り笑顔を見せて頷く。

 さて、「後で」がいつになることやら。

「担任は所用があって出てるから、戻って来たら紹介する。それまではここでお茶でも飲んでて」

 こうして1時間目が終わるまでの20分ほど、俺は三田村校長との雑談に付き合わされた。7割方は校長の問いに俺が答えていたのだが、滅霊師の仕事に関する際どい質問を容赦もなく掛けられたのには閉口した。

 転校生の身上を洗いざらい知ることが学校の責任者として必須の業務なのかどうか。俺も「そういうことは答えられません」と露骨に言いたくなかったから、なるべく日輪高校の成り立ちや現状について情報収集も兼ねて話題を逸らそうと努力した。そうやって壁掛け時計に時折目をやりながら、1時間目が終わるのを待った。

 チャイムが鳴り、教員室に人の戻ってきた気配を感じて校長が立ち上がった。開けたドアの先に顔だけ出して教員室に声を掛ける。

「別所先生いる? ああ、座光寺さんが来てるよ」

 校長に呼ばれて、ノーネクタイの水色のシャツに草色のチェック柄ジャケット姿という、かなりくたびれた感じの中年男性が入ってきた。新装開店日のパチンコ屋の前に早朝から並んでいるおっさん──そんな印象を受けるが、一般的に男性教師はこのくらいの年配になると、かなりの率でこういう雰囲気を身に纏い始めるような気がする。

「君が座光寺さん……いや座光寺君か。私が2年2組担任の別所功べっしょいさおです。専門教科は化学。面倒掛けてすまないね。これもやむにやまれぬ事情があってのことだから、頼りにしてるよ。じゃあ教室に行こうか?」
「はい」
「では別所先生よろしく……座光寺さん、頼んだよ」

 別所先生と俺を見送る校長の目は笑っていなかった。


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