物理的破壊で済むと思うな!

井之四花 頂

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2 移り来たる者たち

2日目の朝

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 その直後、駄目押しのLINEが着信した。

 「任務完了迄帰ルニ及バズ」だと? なぜそこにカタカナを? 俺は先輩女子に対する精いっぱいの嫌味を込めて「リ・ョ・ウ・カ・イ」と返信し、スマホの電源を切った。

 とにかく、自分の置かれた状況は理解した。

 ミッション未達成なら俺は聖往学園に戻れないばかりか、女子高生のスカートの内側を狙って湿度計を持ち歩く空前絶後の変態男として、末永く語り継がれるのだろう。聖往学園の外からいくら無実を叫んでも学園内には届かない。俺の濡れ衣は決して晴らされることなく、陰口を媒体としていつまでも語り草となるのだ。

 良からぬ想像が暗雲のように湧き上がる。もしこれが、俺を聖往から追放するために仕組まれた陰謀だとしたら? だが俺が何をした?

 ……案外、松田美根子の一件かもしれない。悪霊退治の名目で女子トイレに入ったことが、学園理事会の老人たちの妬みでも買ったのかも。そして当事者不在をいいことに、松田さんの件も「スケベ男子の女子トイレ侵入→発覚→学園追放」というデタラメに仕立て上げるつもりだったら?

 冗談じゃねえぞ。

 くそ、やれるならやってみろ。いざとなったら、大人がよく言う「出るところへ出て」でも、自分の身分を取り戻すまでだ。

 それまで、日輪にいる間は怨霊相手にひと暴れしてやろう。ものは考えようだ。今は雑魚敵相手に無双するステージだろうし、俺にはその手段もある。

 ただ、そのために必要な「あれ」は親父の許しがないと使えない。そこをどうしたものか……。

 こんなふうに、寝室の壁に吊るした日輪高校の制服を眺めつつ暗黒面への崖っぷちを行きつ戻りつしていた時だった。制服の胸ポケットからほんのわずかに紙切れのようなものがはみ出ているのに気付いた。それも、目を凝らして見ればピンク色だ。

 発条ばね仕掛けの勢いで立ち上がった俺は、そそくさと胸ポケットからそれを抜いた。

 転げ落ちつつあったダークサイドに光明が差し込んだ。紙片にはボールペンで「登校後直ちにオカルト研究部の部室まで来られたし。場所は体育館2階のステージ裏側。1時間目の授業はDon't worry 可成谷鈴」と書かれていた。部室の位置を示す手書きのイラストも添えてあった。


 翌朝俺は、校門をくぐるなり校舎には目もくれずオカルト研究部に直行した。

 体育館まで校庭を一直線に突っ切り、階段を駆け上がって息を切らしながらドアをノックする。室内から椅子をずらす音が聞こえ、足音に続いてドアが開いた。

「おはよう、走ってきたの?」

 俺がどんな顔に見えたのか知らないが、髪をポニーテールにしてドアの内側に立つ可成谷先輩は目を丸くしていた。

「あ、おはようございます。走りはしませんけど、『ゲスト』の皆さんに足止めされるかと思って、ちょっと早足に」
「じゃあ誰にも絡まれなかった?」
「はい」

 可成谷さんは「よかった!」とドアを大きく開き、俺が中に入ると自分の手で閉めた。

 部室は、ざっと見て俺の寝室より少し狭い程度。壁際には分厚いバインダーや古本や漫画本が押し込まれたスチール製の書棚が3つ並んで、かなりのスペースを占有している。床には事務机とパイプ椅子2つをあてがった丸テーブルが所狭しと置かれ、慎重にそれらの間を通らないと何かを倒してしまいそうだった。

 まあ、部室はどこも似たようなものだ。「お茶入れるからそこ座ってて」と言われ、俺は足元に注意しながらテーブル際にたどり着き、椅子の一つをこわごわと引いて腰を下ろした。

「1時間目の授業、本当に大丈夫なんですか?」
「気になるの? 昨日みたいに5人そろってたのが珍しいくらいよ。最近は先生も教室に1人か2人だとすぐ自習にしちゃうのよね」
「西塔君から聞いたんですが、3年の皆さんは昨晩帰らなかったとか」

 可成谷さんは「うん、みんないろいろと雑用があるの」と言いながら俺に背を向け、戸棚の方へ歩いていく。どういう雑用なのか興味があったが、新参者の自分がしつこく尋ねるのは憚られた。可成谷さんの声や表情からは、いかにも「徹夜明け」といった疲労の様子は感じられなかった。


 やがて、目の前のテーブルに高価そうな皿付きのティーカップが並べられた。別の皿にはクッキーが山盛りになっている。ポットから紅茶が注がれ、埃っぽい空気の中に湯気が立ち昇る。椀の横には角砂糖を二つ載せたティースプーンとレモンスライスが添えられている。

 ウィークデーの朝に似つかわしくない、西欧貴族を出迎えるような完璧な接遇。だが今は授業中だ。

 これほどのもてなしに値する期待に俺は応えられるのか──むら雲のように湧き上がる小市民的な煩悶にあらがっていると、可成谷さんが正面に座り、右手を伸ばして微笑んだ。

「どうぞ。ご遠慮なく」
「御馳走になります」

 緊張気味にカップを手に取った俺の顔を、可成谷さんがじっと見ている。頬杖を突いていかにも興味津々という表情だ。
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