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次に目が覚めた時、私はベッドの上に寝かされていた。
身体を起こすと、隣に東雲さんが座っていて、私の顔を覗き込んでいた。
「瀬戸さん……」
東雲さんは心配しているような、悲しげな表情を浮かべていた。
「うっ……。いてて……」
全身に痛みが走る。特にお尻が痛い。
「すみませんでした。手加減ができていなくて……大丈夫ですか?」
「うん……平気です……」
気まずい空気が流れる。
あたりを見回すと、先ほど訪れた東雲さんの部屋に戻っていたようだった。
「……その。通報するなら、今ですよ」
「へ……?」
「僕がしたことは立派な強姦ですから。……本当にすみませんでした」
東雲さんは頭を下げて謝罪する。
「いえ、通報しませんよ」
「え……?」
「確かに怖かったけど……。元凶は私だし……。気持ち良くなっちゃったし……。それに、東雲さんのこと好き、だから、捕まって欲しくないです……」
私がそう言うと、東雲さんは目を丸くした。そして、不意に泣きそうな顔をする。
私は両腕を東雲さんに突き出すと、彼は縋るように私を抱きついた。
「瀬戸さん……。好きです……。信頼していたあなたの本当の目的を知って、裏切られたようですごく悲しくなって、あんなことをしてしまいました……。あなたのしたことを考えると、僕はあなたを憎むべきですが、でも僕はどうしてもあなたを嫌いになれない……」
「私も東雲さんのことが好きです……。ごめんなさい、本当に、ごめんなさい……。もう、こんなことしません。動画だって全部消します……」
私たちはベッドに倒れて、抱き合いながら、お互いを慰めた。温かい、大きな東雲さんの身体に包まれていると、安心する。
それからしばらくして落ち着くと、東雲さんが口を開いた。
「僕も幸福の会をやめましょうかね……」
「え!?」
あんなに敬虔だった東雲さんが、急に信仰を捨てると宣言するものだから、私は大いに驚いた。
「正直もう、疲れていたんです。会社と集会や勧誘活動の往復で。先程あなたの動画を全て見ました。こんな風に世間の人から見られているのだと思うと、少し目が覚めて。それに……あなた、動画内で言っていたでしょう、この人が信者じゃなかったら付き合いたいって」
「あ、あわ、そ、それは……!」
そういえばそんなことを動画内で言っていたなと思い出す。
まさか東雲さんに見られてしまうとは思わなかったので、一気に恥ずかしさに襲われる。
居た堪れなくなって、起きあがろうとすると、更に強く抱き締められて身動きができなくなった。
「ほら、コメントでも、もうお前ら付き合えよ、とか結構言われていましたよね。あと僕、結構人気だったんですね。複雑な気分でしたが、少しだけ嬉しかったんです」
「う、うぅ。勝手に登場させてごめんなさい……」
「そうですか。じゃあ責任を取ってくれますよね?」
「は、はい……!」
「僕の恋人になってくれますか?」
「うん……! はい……! はい!」
私は涙声で二つ返事をする。東雲さんは私の額にキスをした。
こうして私たちの関係は変わった。
私と東雲さんは無事幸福の会を辞めることができた。東雲さんはかなり引き止められたようだけど、今ではすっかり音沙汰もないそうだ。
私は東雲さんの家に転がり込むようにして同棲を始めた。
フリーターだった私は東雲さんの説得により、無職となった。
なので今は完全に養われている状態である。それでも東雲さんは大手企業の社員なので、お金には困ってなさそうだ。この前ついに昇進したらしい。
その上東雲さんは私をめちゃくちゃ甘やかすようになった。
私に料理をさせようとしないし、洗濯物だって自分でやると言って聞かない。
仕事をするのはもってのほかだ。一度就職したいと言ったらなぜか「僕から逃げるつもりですか?」と激昂されてそのまま犯されてしまった。
これでは完全にダメ人間になってしまう。そう思ってなんとか懇願して家事だけはさせてもらえるようになった。
ちょっと営みの頻度が多いのと、愛が重すぎるのが玉に瑕だが、それ以外は夢に見るような幸せな生活だ。
動画投稿はあれ以来、すっかりやめてしまった。動画は全て消そうと思っていたのだが、東雲さんがたまに私の動画を見たいということでそのままにしている。
しかし視聴者からすれば私は失踪状態。それでまた私の動画が話題を呼んで再生回数が増えているらしい。
『宗教団体に潜入調査した女性、ある日を境に投稿が途絶える……。果たして彼女は無事なのか!?』
という記事を見かけて、思わず笑ってしまった。
元信者の方に溺愛されて養われてます、と誰が思うだろうか。
今日もお風呂上がりに彼が甲斐甲斐しく私の髪を乾かしてくれる。私は彼に頭を預けて、幸せを感じていた。
身体を起こすと、隣に東雲さんが座っていて、私の顔を覗き込んでいた。
「瀬戸さん……」
東雲さんは心配しているような、悲しげな表情を浮かべていた。
「うっ……。いてて……」
全身に痛みが走る。特にお尻が痛い。
「すみませんでした。手加減ができていなくて……大丈夫ですか?」
「うん……平気です……」
気まずい空気が流れる。
あたりを見回すと、先ほど訪れた東雲さんの部屋に戻っていたようだった。
「……その。通報するなら、今ですよ」
「へ……?」
「僕がしたことは立派な強姦ですから。……本当にすみませんでした」
東雲さんは頭を下げて謝罪する。
「いえ、通報しませんよ」
「え……?」
「確かに怖かったけど……。元凶は私だし……。気持ち良くなっちゃったし……。それに、東雲さんのこと好き、だから、捕まって欲しくないです……」
私がそう言うと、東雲さんは目を丸くした。そして、不意に泣きそうな顔をする。
私は両腕を東雲さんに突き出すと、彼は縋るように私を抱きついた。
「瀬戸さん……。好きです……。信頼していたあなたの本当の目的を知って、裏切られたようですごく悲しくなって、あんなことをしてしまいました……。あなたのしたことを考えると、僕はあなたを憎むべきですが、でも僕はどうしてもあなたを嫌いになれない……」
「私も東雲さんのことが好きです……。ごめんなさい、本当に、ごめんなさい……。もう、こんなことしません。動画だって全部消します……」
私たちはベッドに倒れて、抱き合いながら、お互いを慰めた。温かい、大きな東雲さんの身体に包まれていると、安心する。
それからしばらくして落ち着くと、東雲さんが口を開いた。
「僕も幸福の会をやめましょうかね……」
「え!?」
あんなに敬虔だった東雲さんが、急に信仰を捨てると宣言するものだから、私は大いに驚いた。
「正直もう、疲れていたんです。会社と集会や勧誘活動の往復で。先程あなたの動画を全て見ました。こんな風に世間の人から見られているのだと思うと、少し目が覚めて。それに……あなた、動画内で言っていたでしょう、この人が信者じゃなかったら付き合いたいって」
「あ、あわ、そ、それは……!」
そういえばそんなことを動画内で言っていたなと思い出す。
まさか東雲さんに見られてしまうとは思わなかったので、一気に恥ずかしさに襲われる。
居た堪れなくなって、起きあがろうとすると、更に強く抱き締められて身動きができなくなった。
「ほら、コメントでも、もうお前ら付き合えよ、とか結構言われていましたよね。あと僕、結構人気だったんですね。複雑な気分でしたが、少しだけ嬉しかったんです」
「う、うぅ。勝手に登場させてごめんなさい……」
「そうですか。じゃあ責任を取ってくれますよね?」
「は、はい……!」
「僕の恋人になってくれますか?」
「うん……! はい……! はい!」
私は涙声で二つ返事をする。東雲さんは私の額にキスをした。
こうして私たちの関係は変わった。
私と東雲さんは無事幸福の会を辞めることができた。東雲さんはかなり引き止められたようだけど、今ではすっかり音沙汰もないそうだ。
私は東雲さんの家に転がり込むようにして同棲を始めた。
フリーターだった私は東雲さんの説得により、無職となった。
なので今は完全に養われている状態である。それでも東雲さんは大手企業の社員なので、お金には困ってなさそうだ。この前ついに昇進したらしい。
その上東雲さんは私をめちゃくちゃ甘やかすようになった。
私に料理をさせようとしないし、洗濯物だって自分でやると言って聞かない。
仕事をするのはもってのほかだ。一度就職したいと言ったらなぜか「僕から逃げるつもりですか?」と激昂されてそのまま犯されてしまった。
これでは完全にダメ人間になってしまう。そう思ってなんとか懇願して家事だけはさせてもらえるようになった。
ちょっと営みの頻度が多いのと、愛が重すぎるのが玉に瑕だが、それ以外は夢に見るような幸せな生活だ。
動画投稿はあれ以来、すっかりやめてしまった。動画は全て消そうと思っていたのだが、東雲さんがたまに私の動画を見たいということでそのままにしている。
しかし視聴者からすれば私は失踪状態。それでまた私の動画が話題を呼んで再生回数が増えているらしい。
『宗教団体に潜入調査した女性、ある日を境に投稿が途絶える……。果たして彼女は無事なのか!?』
という記事を見かけて、思わず笑ってしまった。
元信者の方に溺愛されて養われてます、と誰が思うだろうか。
今日もお風呂上がりに彼が甲斐甲斐しく私の髪を乾かしてくれる。私は彼に頭を預けて、幸せを感じていた。
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