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第4話 洗濯場にて
しおりを挟む洗濯場は、朝から湿った空気がこもっている。
大釜で湯を沸かし、布を浸し、叩いて、絞る。
単純だが力の要る仕事だ。
雑務係の中でも、あまり好まれない持ち場でもある。
リリナは腕まくりをし、黙々と布を洗っていた。
王宮で使われる布は量が多く、質もまちまちだ。
貴族の衣装、使用人の制服、来客用のクロス。
混ざらないように、常に気を配る必要がある。
「それ、重くない?」
隣で洗っていたミーナが声をかけてきた。
「大丈夫」
「いつもそれ言うよね」
ミーナは苦笑しながら、布を叩く手を止めない。
彼女とは付き合いが長い。
私が親友と呼べるのは彼女くらいだろう。
だがミーナの性格は、私とはまるで正反対だ。
感情表現が豊かで、ミーハーで、噂話が大好き。
「最近さ、王宮、落ち着かないと思わない?」
「いつもじゃない?」
「そうなんだけど、ほら、最近は特に」
ミーナは声を少し落とした。
「中心地のほう、人が足りないって」
「そう」
「誰か行かされるかもよ」
「そうかもしれない」
関心がないわけではないが、反応するほどでもない。
布を絞る水音が、会話を一度遮った。
「王子様も忙しそうだし」
その名前だけで、空気がわずかに変わる。
「会議続きなんだって。見回りにも来なくなったらしいよ」
「そうなんだ」
「前はさ、たまに外縁まで来てたでしょ」
「……たまに」
「優しいっていうか、変わってるよね」
ミーナはそう言って、笑った。
「庶民の話、ちゃんと聞くし」
「それが仕事だからじゃない?」
「でも、聞かない人は聞かないよ」
それには返さなかった。
洗濯物を桶に移し、次の布を浸す。
「それより、干し場、空いてる?」
「北側なら」
「ありがとう」
噂話は、それ以上続かなかった。
洗濯場では、深く踏み込まないのが暗黙の了解だ。
下手なことを言えば、仕事が増えるかもしれない。
昼前、干し終えた布が風に揺れる。
規則正しく並んだ白布は、見ていて悪くない。
「終わったら、倉庫の鍵返してね」
「分かった」
ミーナは手を振り、別の桶へ向かっていった。
リリナは一人、干し場に残る。
王子の話も、王宮の噂も、洗濯物と一緒に風に流れる。
ここでは、それでいい。
仕事は、きちんと終わらせればいい。
そう思いながら、彼女は最後の布を干した。
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