スラム育ちの英雄譚

美山 鳥

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第12章 アークデーモンとの死闘、そして旅立ち

12―3 封じられしアークデーモン

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 ゴゴゴゴゴゴ……

 重低音を響かせて扉が押し開けられる。

 「わぁぁぁぁ!……」

 アルナが青い瞳をキラキラと輝かせる。

 「湖の底、か?」

 エルフェリオンが周囲を見回してポツリと呟く。扉の奥は光の壁が巨大なドームを形成しており、上空から降り注いだ陽光が湖をとおり、湖底を照らしている。

 「まさか、湖の底にこんな場所があったなんて知りませんでしたわ」

 ネティエも幻想的で美しい風景に見とれている。

 「まぁ、たしかに綺麗といえばそうなんだけどよ。アレは相当ヤバいんじゃねぇのか?」

 ザラギスがドームの中央を指し示す。そこには魔法陣の上で立ったまま眠りについている悪魔がいた。

 体長は3メートルほど。上半身は人間のようではあるが肌は赤黒く、下半身は山羊やぎのようである。頭部には太い二本角、背中には巨大なコウモリのような翼が生えていた。

 「すごい……封印されているのに強大な魔力が漏れ出ているのを感じるわ」

 周りの風景に感動していたアルナだったが、今は一変して恐怖から青ざめている。

 「さて、アルナさんはあの魔法陣をどう見ますか?」

 ルアークが眠るアークデーモンの足元の魔法陣を指差す。

 「……そうですね……ここからではハッキリとは言えませんが、込められていた魔力はほとんど失われているように思います。あと、魔法陣そのものも薄くなっていますし、効果が完全に消失するのも時間の問題かと……おそらく、ひと月ともたないのではないでしょうか」

 アルナは離れた位置からわかる範囲内で見解を示す。

 「さすがですね。この位置からそれだけの事を見抜けるとは驚かされるばかりです」

 パチパチと拍手しながらルアークは感心する。

 「なんにしても、こっちから封印を解くんだよな? なら、さっさとやろうぜ」

 エルフェリオンは言いながら邪龍槍を召喚する。

 「……そう、ですね。皆さん、くれぐれも油断なきようお願いします」

 緊張して面持ちでゆっくりとアークデーモンに近付いていくルアーク。ほかのメンバーもそれに続く。

 「間近で見るとえげつねぇな、こりゃ……」

 ザラギスがアークデーモンの迫力に気圧されて息を呑む。

 「ギルドマスターが慎重になるのも頷けますわね。たしかに、並の冒険者では足手まといにしかなりませんわ」
 「ええ。こんなのが町の近くにいるとわかれば、ティクは大騒動になったはず。だから、ルアークさんは隠してたんですね?」

 ネティエとアルナの言葉をルアークは肯定するように頷く。

 「一応、確認しておきたいんだが、戦闘中に周りの壁が崩れるなんてことはないんだろうな?」

 光の壁に視線を走らせたエルフェリオンが訊く。

 「断言はできませんが、おそらくは大丈夫かと……調べたところ、ドームを形成している光の壁は非常に強力な魔力で作られていることが判明しましたから」
 「そうか」

 ルアークの答えにエルフェリオンは短く返す。

 「それでは、封印を解きます……」

 そう言ったルアークは一拍置いて、さらに深呼吸をする。広大はドーム内に緊迫した空気が漂う。そんな中、それぞれが武器を構えて臨戦態勢をとったのを確認したルアークが、静かに左手を魔法陣に向かってかざす。

 「……アンチ・シール!」

 ルアークが魔術を発動させた瞬間、アークデーモンの足元の魔法陣が眩い光を放つ。一同が目を細めていると、魔法陣は明滅を繰り返し、やがて跡形もなく消え去った。
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