スラム育ちの英雄譚

美山 鳥

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第13章 龍滅の戦神②

13―8 ルドアの帰還

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 「ふむ。正直なところ、デュージャ君には失望させられてしまったよ」

 地下水路から戻ったデュージャから報告を聞いたギゼムが嘆息を漏らす。

 「も、申し訳ございません!」

 デュージャは額を床につけて土下座する。

 「この僕がだよ、グレーターベアをプレゼントしてやったというのに、成果を出せないというのはどういうことなのかな?」

 ギゼムは椅子に腰かけたまま凍てつくような視線をデュージャに向ける。

 「それは、その……」

 上手く説明できないデュージャの額からは冷や汗が止まらない。死への恐怖心から全身がガタガタと震えだす。

 「君のような無能はすぐに処分してもいいんだけど、僕は寛大な心の持ち主だ。今回に限り、失態は許してあげようじゃないか」
 「あ、ありがとうございます!!」

 許されたことへの安堵からデュージャの瞳から大粒の涙がこぼれる。ここでようやく震えが止まった。

 「ただし、今後は二度と失敗は許されないと思うんだね。君には何一つ期待していないけど、せめて、英雄たる僕の機嫌を損ねるのだけはやめておくほうがいい。長生きしたくなければ話は別だけどさ」

 ギゼムの手がデュージャの肩に置かれる。瞬間、デュージャは湧き上がる恐怖に抗えず、再び震えが止まらない。

 「も、もちろん今後、このような失敗はいたしません! お誓い申し上げます!!」

 デュージャの誓いの言葉を聞き、ギゼムはニコリと笑う。

 「そうか。わかってくれればそれでいいんだ。もう、行っていいよ」
 「はっ、失礼いたします!」

 ようやく退場の許しが出たことでデュージャは逃げるように部屋を出ていく。

 「まったく、愚かな部下を持ってしまうと苦労するね……」

 デュージャの背中を見送ったギゼムが愚痴る。

 ガチャ

 「やぁ、ルドア。もう片付けて帰還したのか。いつものことながら仕事が早いね」

 デュージャと入れ違いに入ってきた隻眼の男を、ギゼムは笑顔で迎える。

 「ったりめぇだろうが。山賊討伐ごときに時間をかけてられるかよ。まぁ、よえぇやつをなぶり殺しにするのは気分がいいがな」

 ルドアは、山賊を虐殺した時を思い出して愉悦の笑みを浮かべる。

 「アハハハハハ! ルドアはそれでこそルドアらしいよ」
 「んだよ、そりゃ。……そんなことよりも、オレがいねぇ間におもしれぇことが起きたそうだな?」

 ルドアがニヤリと笑む。

 「あぁ、僕の屋敷に乗り込んでくるなんてバカなやつらだよ。もっとも、返り討ちにするのは楽しかったけどね。ただ、ひとりに逃げられたのは気にくわないよ」
 「べつにいいだろ。それとも、逃げたやつはそれほど脅威になる可能性のあるやつだったのか?」

 怪訝けげんな表情で訊いてくるルドアにギゼムは「まさか」と笑いながら答える。

 「龍滅の戦神の脅威になり得るものなど存在しないよ。だけど、僕の予想どおりに動かないのが気に入らないのさ。デュージャにその追撃を命じたんだけど、失敗してきたようでね」

 ここでギゼムはため息を吐く。

 「なるほど。しっかし、おまえが失敗して帰ってきたやつを生かしておくなんて珍しいじゃないか?」
 「まぁね。彼にはもう少し役に立ってもらおうと思ってるんだ。猛獣使いビーストマスターはわりとレアだし。それで使えなければ、その時に処分すればいいだけさ」
 「ちげぇねぇな」

 ギゼム邸の応接室から二人の笑い声が漏れていた。
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