スラム育ちの英雄譚

美山 鳥

文字の大きさ
7 / 224
第1章 邪龍との邂逅

1ー5 メンバー確定

しおりを挟む
 「ゼイナスじゃねぇかよ。盗み聞きとは悪趣味だな。それとも俺にボコられたのが悔しくてリベンジにでもきたか?」

 姿を見せた茶色い短髪の青年にエルフェリオンが呆れたように言う。それは図星だったらしく、ゼイナスは苦虫を噛み潰したような顔をする。

 「るせぇよ! んなことよりも今は冒険の話だろうが!」

 ゼイナスは話題をらそうと強引に話を戻す。

 「……ったく……」

 エルフェリオンはため息をつきつつもギゼムたちに視線を向ける。

 「彼を仲間に加えるということでいいのかな?」

 ギゼムがエルフェリオンに確認するように問う。

 「そうだな。まぁ、俺に比べりゃ弱っちいのは確かだが、ほかの連中よりは使い物になるだろ」
 「んだとぉ、この野郎! このゼイナス様にまぐれで勝ったからって調子にのってんじゃねぇぞ!?」
 「ほぉ~……そのまぐれが何度続いてんだ? おまえの連戦連敗だってことを忘れちまったか?」
 「ぐぬっ……この!……」

 ゼイナスは悔しさと怒りに全身をワナワナと震わせる。

 「ま……まぁ、エルフェリオン君が彼を仲間に加えてもいいというなら僕たちはそれに従うよ。……えっと、ゼイナス君だっけ? 僕はギゼム、こっちは相棒のルドアだ。よろしくね」

 エルフェリオンとゼイナスのやりとりに苦笑しながらも金髪の青年が名乗る。

 「おぅ! このゼイナス様が仲間になりゃあ百人力だ!! 大船に乗ったつもりでいな!」

 ゼイナスは自信たっぷりといった様子で答える。

 「けっ、いつも俺にやられっぱなしのやつがよくも言えたものだぜ」
 「んだとぉ! 上等だ! 今、ここで決着をつけてやろうかよ!? その代わり、邪龍の迷宮へ行く前に死んじまっても化けて出るんじゃねぇぞ!? ゼイナス様を本気にさせたことを後悔させてやらぁ!!」

 そっぽを向くエルフェリオンにゼイナスは飛び掛からんばかりの勢いでまくし立てる。

 「いい加減にしねぇか! そんなふざけた調子で迷宮ラビリンスに潜れるのか!?」

 黙していたルドアが苛立ったように声を荒げた。ギゼムはその肩に手を置く。

 「まぁまぁ、いいじゃないか。僕は彼らを仲間と認めるよ。そして、認めたからには信用もする。冒険者とはそんなものだろ?」
 「……ちっ、わぁったよ!」

 頭をガリガリと掻きながら吐き捨てるように言うルドア。

 「決まりだね。邪龍の迷宮に潜るのは明後日あさってにして、ふたりには支度金として10万コルバずつ渡しておくから準備しておいてくれ」

 ギゼムはエルフェリオンとゼイナスに現金を手渡す。

 「気前がよすぎるんじゃないか?」

 これまで他人からの好意を受けてこなかったエルフェリオンにとってギゼムの行動はどうにも理解し難いものであった。

 「ハハハハハ……君も相当に疑り深いみたいだね。でも、冒険者ならそれくらい慎重なほうがいいかな。このお金は、いわば将来有望な君たちへの先行投資だよ」
 「へぇ……それで、俺たちが金を受け取ったままトンズラしたり、役に立たなかったりしたらどうする?」
 「先行投資にはリスクは付き物だよ。ただ、僕はこれが無駄にならないことを確信している。君たちは必ず華麗なる英雄スプレンデッド・ヒーローの大きな戦力になるはずだ。エルフェリオン君だって、冒険者として活躍する自信はあるんじゃないのかな?」

 ギゼムに訊かれ、エルフェリオンは「さぁな」と短く答える。

 「そんじゃあな! 明後日はこのゼイナス様の冒険者デビューってやつだ。大活躍を期待してろよ!!」

 将来有望と評されて先行投資までされたゼイナスはすっかり気をよくし、ギゼムとルドアに声をかけて意気揚々と帰っていく。

 「けっ、ヒヨッコが偉そうに!」

 ルドアは不機嫌そうに呟くが、その隣ではギゼムが微笑を浮かべる。

 「まぁまぁ、怒らない怒らない。彼だってきっと役に立ってくれるからさ」
 「……まっ、ギゼムがそう言うなら信じるしかねぇか」
 「ふふふふふ……それじゃ、僕たちも行こうか。それでは僕たちもこれで失礼させてもらうよ。明後日あさっての朝、迎えにくるからゼイナス君にも伝えておいてくれるかい?」
 「わかった」

 エルフェリオンを勧誘するという目的を果たしたギゼムとルドアは立ち去る。こうして、スラム街の夜は更けていくのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

処理中です...