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第1章 邪龍との邂逅
1ー7 邪龍の迷宮②
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迷宮は外観からは想像できないほどに内部は広大であり、数多くのモンスターが獲物を求めて徘徊している。
「バウンド・ボールか。初めてのモンスター戦には丁度いい相手だね。エルフェリオン君とゼイナス君だけで戦ってくれ。僕とルドアは後ろから見ているよ。もちろん危なくなったら助けに入るけど、可能な限り自分たちで対処してほしい。いいね?」
邪龍の迷宮に入って間もなくのことだった。華麗なる英雄の行く手に、単眼と口がついた直径30センチくらいの球形ボディのモンスターが群れで現れた。バウンド・ボールの名が表すようにピョンピョンと飛び跳ねている。
「おっしゃあ! やってやるぜ!!」
まずはゼイナスが大戦斧を正眼に構えてバウンド・ボールとの間合いをジリジリと詰める。
「いっくぜぇぇ!!」
ゼイナスは大戦斧を大きく振りかぶり、豪快に水平にスイングする。だが、それは見事に空振りしてしまう。
「ロロロロロロ……」
まるで嘲笑っているかのような鳴き声を発して跳ね回るバウンド・ボール。
「っきしょうが! 今度こそ!!」
ゼイナスは再び大戦斧を正面に構え直すと狙いを定める。
「らぁ!!……だらぁ!!……ぬりゃあ!!」
大戦斧が何度となく空を裂く。
(ちくしょう! すばしっこいやつらめ!!)
攻撃が当たらないことに苛立つゼイナス。
「うおっ!?」
バウンド・ボールが反撃にでる。空振りしたことで隙が生じたゼイナスに体当たりする。鍛えられた肉体を持つゼイナスにはそれほどのダメージはない。が、ノーダメージというわけでもなく徐々に体力を削っていく。
「なぁに、やってんだよ!」
見かねたエルフェリオンがロングソードを抜き放って駆ける。揮われた長剣が飛び跳ねているバウンド・ボールをあっさりと斬り捨てた。
「ムギィ!」
仲間を殺されたバウンド・ボールがエルフェリオンに体当たりを仕掛ける。エルフェリオンは素早く短剣を抜くと間近に迫っていたバウンド・ボールの単眼へと突き刺す。
「ギョアッ!」
短い奇声をあげて絶命したバウンド・ボールが黒い霧となって跡形もなく消え去り、小さなクリスタルのような石が遺された。
「今、出てきたその石は魔石っつうモンスターの体内にある魔力が結晶化した物だ。街に戻ったら換金するからな。残さず回収しろよ」
ルドアが指示をとばす。
(けっ、偉そうに!)
反感を抱きながらもエルフェリオンはダガーとロングソードを構える。
「ガガッ!」
エルフェリオンの身長よりも高く弾んだバウンド・ボールが大口を開けて牙をむき出しにする。それと同時に別のバウンド・ボールが正面からの体当たり攻撃をくり出す。
「動きが単調なんだよ!」
左手のダガーを頭上のバウンド・ボールに投げつけ、正面の個体をロングソードで斬る。
(へぇ……初めてのモンスター戦にしては随分と冷静だな。エルフェリオン君には冒険者としての素質があるようだ)
エルフェリオンの戦いぶりに感心するギゼム。
「どうしたよ、ゼイナス? まさか、こんなザコに本気で手こずってるんじゃねぇよな?……ん?」
床に落ちたダガーを拾い上げ、周囲の敵を斬り伏せたエルフェリオンは大戦斧を振りかざして必死の応戦をしているゼイナスに余裕の表情を向ける。だが、通路のさらに奥から近付いてくる物音に気付いて凝視する。
ゴロゴロゴロ……
「なんだ、ありゃ!?」
奥から現れた物にエルフェリオンは驚嘆の声をあげる。見た目はバウンド・ボールに似ているが直径50センチくらいあるだろうか。見るからに硬そうな外皮に覆われた球形のモンスターが勢いよく転がってくる。
エルフェリオンはサイドステップで躱し、ロングソードで反撃する。
キンッ
硬い外皮に覆われた球形のモンスターは、エルフェリオンが放った斬撃を弾き返してしまう。
(今度はローリング・ボールか。今のエルフェリオン君の斬撃では決定的なダメージを与えることは難しいだろうね。さて、どうするのかな?)
ギゼムは壁に背中をあずけて様子を伺う。が、まだ手助けしようとはしない。
「硬いな。となると、あの外皮以外の部位を攻撃するか、あるいは戦いを避けるかだな……」
「ギュロロ!」
ローリング・ボールは再び回転を始め、エルフェリオンに向かって転がる。
(ちっ!)
横っ跳びに回避して側面から斬撃を叩き込もうとしたエルフェリオンに、バウンド・ボールが飛びかかる。やむなく、バウンド・ボールにダガーを突き立て、別角度から襲ってきたバウンド・ボールをロングソードで斬り倒す。
(……まずは飛び回ってるやつらを片付けるのが先決か)
ローリング・ボールへの攻撃を諦め、ひとまずバウンド・ボールだけを攻撃の対象に決めるエルフェリオン。だが、迷宮の奥からさらに複数体のローリング・ボールが現れる。
「ギュロッ!」
援軍のローリング・ボールがエルフェリオンに狙いをつけて転がる。次々に襲ってくるローリング・ボールを機敏な動きで避ける。が、回避の隙をついたバウンド・ボールの体当たり攻撃がエルフェリオンの左肩にヒットした。
「エルフェリオン! あの転がるやつはこのゼイナス様に任せろ。その代わり、飛び跳ねてるやつはてめぇの担当だからな!」
大戦斧を構えたゼイナスが叫ぶ。
「……おまえと共闘ってのは気に入らないが……まぁ、しかたない。乗ってやるよ」
「けっ、言ってろ!」
不本意ながらも了承の意を表すエルフェリオンに顔をしかめるゼイナス。
「ギュロロロロッ!」
ローリング・ボールが回転力をさらに上げてゼイナスに突撃する。
「どりゃあ!!」
直線的な攻撃を読んでゼイナスが上段に構えた大戦斧を力任せに振り下ろす。
「ギュバッ!」
一刀両断にされたローリング・ボールが短く声をあげて絶命する。
「へっへーん! どんなもんよ!? エルフェリオンが手こずっていたモンスターもゼイナス様にかかればこんなもんだぜ!」
得意げになってVサインをする茶色の短髪の青年ゼイナス。しかし、その周囲をバウンド・ボールに取り囲まれる。
「まったく、世話の焼けるやつだ」
エルフェリオンはやはり冷静だ。素早く正確にバウンド・ボールの動きと位置を把握し、ロングソードとダガーで幾筋もの剣閃を描く。
「はん! バウンド・ボールの相手はてめぇの役割だろうがよ!」
ゼイナスは負けじと言い返しつつも突進してくるローリング・ボールを外皮の上から切断していく。
◎★☆◎
バウンド・ボールとローリング・ボールを殲滅したエルフェリオンとゼイナスは、奥から何かが近付いてくる気配を察知する。
「気がついたようだね、二人とも。今度のはそこそこの相手のようだから僕とルドアが出よう。君たちはよく見ていたまえ。他者の戦いを見るのも強くなるための一環だよ」
「へへっ……だがまぁ、余所見してっと終わっちまうかもしんねぇぞ?」
ギゼムはハルバートを、ルドアは片手長剣を構えて臨戦態勢をとった。
「バウンド・ボールか。初めてのモンスター戦には丁度いい相手だね。エルフェリオン君とゼイナス君だけで戦ってくれ。僕とルドアは後ろから見ているよ。もちろん危なくなったら助けに入るけど、可能な限り自分たちで対処してほしい。いいね?」
邪龍の迷宮に入って間もなくのことだった。華麗なる英雄の行く手に、単眼と口がついた直径30センチくらいの球形ボディのモンスターが群れで現れた。バウンド・ボールの名が表すようにピョンピョンと飛び跳ねている。
「おっしゃあ! やってやるぜ!!」
まずはゼイナスが大戦斧を正眼に構えてバウンド・ボールとの間合いをジリジリと詰める。
「いっくぜぇぇ!!」
ゼイナスは大戦斧を大きく振りかぶり、豪快に水平にスイングする。だが、それは見事に空振りしてしまう。
「ロロロロロロ……」
まるで嘲笑っているかのような鳴き声を発して跳ね回るバウンド・ボール。
「っきしょうが! 今度こそ!!」
ゼイナスは再び大戦斧を正面に構え直すと狙いを定める。
「らぁ!!……だらぁ!!……ぬりゃあ!!」
大戦斧が何度となく空を裂く。
(ちくしょう! すばしっこいやつらめ!!)
攻撃が当たらないことに苛立つゼイナス。
「うおっ!?」
バウンド・ボールが反撃にでる。空振りしたことで隙が生じたゼイナスに体当たりする。鍛えられた肉体を持つゼイナスにはそれほどのダメージはない。が、ノーダメージというわけでもなく徐々に体力を削っていく。
「なぁに、やってんだよ!」
見かねたエルフェリオンがロングソードを抜き放って駆ける。揮われた長剣が飛び跳ねているバウンド・ボールをあっさりと斬り捨てた。
「ムギィ!」
仲間を殺されたバウンド・ボールがエルフェリオンに体当たりを仕掛ける。エルフェリオンは素早く短剣を抜くと間近に迫っていたバウンド・ボールの単眼へと突き刺す。
「ギョアッ!」
短い奇声をあげて絶命したバウンド・ボールが黒い霧となって跡形もなく消え去り、小さなクリスタルのような石が遺された。
「今、出てきたその石は魔石っつうモンスターの体内にある魔力が結晶化した物だ。街に戻ったら換金するからな。残さず回収しろよ」
ルドアが指示をとばす。
(けっ、偉そうに!)
反感を抱きながらもエルフェリオンはダガーとロングソードを構える。
「ガガッ!」
エルフェリオンの身長よりも高く弾んだバウンド・ボールが大口を開けて牙をむき出しにする。それと同時に別のバウンド・ボールが正面からの体当たり攻撃をくり出す。
「動きが単調なんだよ!」
左手のダガーを頭上のバウンド・ボールに投げつけ、正面の個体をロングソードで斬る。
(へぇ……初めてのモンスター戦にしては随分と冷静だな。エルフェリオン君には冒険者としての素質があるようだ)
エルフェリオンの戦いぶりに感心するギゼム。
「どうしたよ、ゼイナス? まさか、こんなザコに本気で手こずってるんじゃねぇよな?……ん?」
床に落ちたダガーを拾い上げ、周囲の敵を斬り伏せたエルフェリオンは大戦斧を振りかざして必死の応戦をしているゼイナスに余裕の表情を向ける。だが、通路のさらに奥から近付いてくる物音に気付いて凝視する。
ゴロゴロゴロ……
「なんだ、ありゃ!?」
奥から現れた物にエルフェリオンは驚嘆の声をあげる。見た目はバウンド・ボールに似ているが直径50センチくらいあるだろうか。見るからに硬そうな外皮に覆われた球形のモンスターが勢いよく転がってくる。
エルフェリオンはサイドステップで躱し、ロングソードで反撃する。
キンッ
硬い外皮に覆われた球形のモンスターは、エルフェリオンが放った斬撃を弾き返してしまう。
(今度はローリング・ボールか。今のエルフェリオン君の斬撃では決定的なダメージを与えることは難しいだろうね。さて、どうするのかな?)
ギゼムは壁に背中をあずけて様子を伺う。が、まだ手助けしようとはしない。
「硬いな。となると、あの外皮以外の部位を攻撃するか、あるいは戦いを避けるかだな……」
「ギュロロ!」
ローリング・ボールは再び回転を始め、エルフェリオンに向かって転がる。
(ちっ!)
横っ跳びに回避して側面から斬撃を叩き込もうとしたエルフェリオンに、バウンド・ボールが飛びかかる。やむなく、バウンド・ボールにダガーを突き立て、別角度から襲ってきたバウンド・ボールをロングソードで斬り倒す。
(……まずは飛び回ってるやつらを片付けるのが先決か)
ローリング・ボールへの攻撃を諦め、ひとまずバウンド・ボールだけを攻撃の対象に決めるエルフェリオン。だが、迷宮の奥からさらに複数体のローリング・ボールが現れる。
「ギュロッ!」
援軍のローリング・ボールがエルフェリオンに狙いをつけて転がる。次々に襲ってくるローリング・ボールを機敏な動きで避ける。が、回避の隙をついたバウンド・ボールの体当たり攻撃がエルフェリオンの左肩にヒットした。
「エルフェリオン! あの転がるやつはこのゼイナス様に任せろ。その代わり、飛び跳ねてるやつはてめぇの担当だからな!」
大戦斧を構えたゼイナスが叫ぶ。
「……おまえと共闘ってのは気に入らないが……まぁ、しかたない。乗ってやるよ」
「けっ、言ってろ!」
不本意ながらも了承の意を表すエルフェリオンに顔をしかめるゼイナス。
「ギュロロロロッ!」
ローリング・ボールが回転力をさらに上げてゼイナスに突撃する。
「どりゃあ!!」
直線的な攻撃を読んでゼイナスが上段に構えた大戦斧を力任せに振り下ろす。
「ギュバッ!」
一刀両断にされたローリング・ボールが短く声をあげて絶命する。
「へっへーん! どんなもんよ!? エルフェリオンが手こずっていたモンスターもゼイナス様にかかればこんなもんだぜ!」
得意げになってVサインをする茶色の短髪の青年ゼイナス。しかし、その周囲をバウンド・ボールに取り囲まれる。
「まったく、世話の焼けるやつだ」
エルフェリオンはやはり冷静だ。素早く正確にバウンド・ボールの動きと位置を把握し、ロングソードとダガーで幾筋もの剣閃を描く。
「はん! バウンド・ボールの相手はてめぇの役割だろうがよ!」
ゼイナスは負けじと言い返しつつも突進してくるローリング・ボールを外皮の上から切断していく。
◎★☆◎
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「気がついたようだね、二人とも。今度のはそこそこの相手のようだから僕とルドアが出よう。君たちはよく見ていたまえ。他者の戦いを見るのも強くなるための一環だよ」
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