スラム育ちの英雄譚

美山 鳥

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第1章 邪龍との邂逅

1ー16 VS邪龍レヴィジアル①

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 エルフェリオンはまばゆさに閉じていた瞼を開けた。先ほどまでの部屋とは明らかに違う場所だ。ただただ広いだけの空間に足場となる床だけがどこまでも広がっている。魔法陣は消失しており、自由に動くことができる。

 「くそが! あのカス野郎どもはどこに行きやがった!?」

 隣ではゼイナスが憎悪に宿した瞳で果てない闇の向こう側をめつける。

 「さぁな。あのゲス野郎どもに復讐するにしても、まずはどうやってここを脱出するか、だ」
 「ここはどこだ?」
 「知るかよ」

 ゼイナスがだれにとなく訊くとエルフェリオンが短く答えを返す。

 「ここはわしが創り出した領域。どこまでも続く無限空間じゃ」

 代わって答えたのは、ギゼムの呼びかけに応えた低く重々しい声だった。そして、遥か上空より眼前に降り立ったのは巨大な身体を黄金の鱗で覆われ、背中の両翼を雄々しく広げた翼龍だった。大きさの異なる蒼い3つの瞳がエルフェリオンとゼイナスを見下ろす。

 「で、でけぇっ!!」

 大戦斧を正眼に構えていたゼイナスが立ちすくむ。エルフェリオンもロングソードとダガーを構えてはいるが一歩も動けずにいた。

 「臆したか。それも当然の反応ではあるのぉ。だからといって命が助かるということではないのじゃがな」

 目の前の巨龍の蒼い瞳が獰猛どうもうな光を帯び、まるで笑んでいるかのように牙をむき出しにする。

 「……黙ってられてたまるかよ!」

 勇気を振り絞ったエルフェリオンが動く。床を強く蹴って全力で駆け、自分の背丈の何倍もある巨龍に立ち向かう。

 (ほぉ……わしを前にしてもなお立ち向かうことを選択するか。ならば、ここはえて受けてやるのもよかろう)

 邪龍レヴィジアルは身動きせず、青髪の青年の攻撃を待つ。

 キンッ

 エルフェリオンが振りかざしたロングソードは黄金の龍鱗によってあっさりと弾かれてしまう。

 「クハハハハハハハッ、どうした? その程度ではかすり傷のひとつも負わせられんぞ」

 レヴィジアルは高らかに笑う。

 「ちっ! 一回でダメなら何回でもやってやるまでだ!!」

 キンキンキンキンキンキンキンッ

 ロングソードとダガーの連続攻撃を邪龍にたたき込むエルフェリオンだったが、刃は全く通らない。

 (くっ……まるで刃が立たない!)

 予想以上の龍鱗の硬さに歯噛みするエルフェリオン。

 「どけ、エルフェリオン! このゼイナス様の一撃をくらいやがれ!!」

 高く跳躍したゼイナスが頭上に掲げた大戦斧をレヴィジアルの足に振り下ろす。

 キンッ

 しかし、やはり黄金の龍鱗には傷ひとつ付かない。

 「小さき者たちよ、そのか弱き力で強大なわしに抗い、絶望的な戦いに挑むか。クハハハハハハハッ……なかなかにおもしろい!! 生贄いけにえならばこれくらい活きがよくなくてはつまらぬわ。さぁ、もっと抵抗してみせよ。そして、やがては絶望のうちにその生涯を終えるがよい」

 邪龍は愉悦するように言う。

 「ちっきしょうが! 完っ全になめきってやがる! こっちはアルナを遺して死ぬわけにゃいかねぇってのによ!!」
 (アルナ?)

 ゼイナスの口から出た聞き覚えのない名を脳内で復唱するエルフェリオン。だが、すぐに意識を戦闘に引き戻す。

 「この、デカブツがぁ!!」

 ゼイナスは全身を勢いよく回転させ、遠心力を利用して大戦斧をレヴィジアルの足へと滑らせる。

 ガンッ

 だが、やはり黄金の龍鱗には全く刃が立たない。

 (闇雲に攻撃したところで無駄だな)

 エルフェリオンはいちど邪龍から距離をとり、蒼い眼球めがけてダガーを投げる。

 「ふん……」

 レヴィジアルは放たれたダガーを鼻息で吹き飛ばす。

 (……うそ、だろ!?……)

 これにはエルフェリオンも面食らう。倒せるとは考えてもいなかったが、だからといって鼻息でいなされるなど思いもよらなかった。

 「こんな、龍鱗ものなんか!!」

 振り上げた大戦斧を両手でしっかりと握りしめたゼイナスが渾身の力で振り下ろす。

 ガキッ

 しかし、やはり黄金の鱗は刃をとおさない。

 「なめんなよぉぉぉぉ!!!!」

 ゼイナスが裂帛れっぱくの気合を入れて大戦斧を押し込む。

 「無駄なことじゃ。ここまでくると哀れなものよ……いかに足掻こうとわしを倒すことなどできはせね。それでも生にしがみつくか。所詮は力なき者にわしを楽しませることなど不可能であったか」

 邪龍の蒼い瞳に失望の色がにじむ。

 「うるせぇよ。硬い鱗が邪魔だってんなら!!」

 両手で握ったロングソードを中段に構え、エルフェリオンがレヴィジアルの懐へと飛び込み、跳躍する。

 「せやぁぁぁっ!!」

 エルフェリオンのロングソードが軌跡を描き、龍鱗で覆われていないレヴィジアルの下腹部を斬り上げる。

 「ほぉ……」

 浅い傷跡をつけられたことに邪龍は目を細める。

 (なんてやつだ!……龍鱗のない部位なら攻撃がとおると思ったんだが……)

 鱗だけではなく皮膚への攻撃もレヴィジアルにはほとんど効果がない。エルフェリオンはバックステップで間合いをとる。

「卑小にして脆弱なる者たちよ。これでも受けてみよ」

 レヴィジアルの蒼い双眸そうぼうが鋭く光った。
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