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第4章 狙われた親子
4―7 捜査会議
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翌日。ホテルまで迎えにきた警備隊の馬車に乗り込み、詰所までやってきたエルフェリオンとアルナは、ラッケルの誘拐未遂事件の捜査会議に参加することとなった。
「魔術師の観点から何かあるかね?」
警備隊長デルマがアルナに意見を求める。
「昨日も申し上げたとおりです。今回の一件には十中八九は魔術師が関係しています」
「しかし、自我をしっかりと保たせたまま催眠術にかけるというのは可能なのかね?」
デルマが口にした疑問をアルナは首肯で返し、さらに続ける。
「催眠術というよりも洗脳といったほうがいいのかもしれませんが、結果的に言えば可能です。もちろん、だれにでもできるというものではありせんが……」
「それで、それは具体的にはどういった魔術なのかね?」
デルマがさらに掘り下げる。
「最も簡単なものは、魔力を持たない者や魔力に目覚めていない者に術をかけることです。この場合は、術をかけたい相手に直接触れて自分の魔力を流し込み、同時に命令したい内容を強く念じて相手の意識に刷り込むという方法です。しかし、口で言うのと実行するのとでは全く違います。対象の意識がはっきりした状態で、流し込む魔力は長時間にわたってごく微量ずつでなければなりません。それには並外れた集中力と魔力の制御が必要です」
「それでも最も容易だと言ったね?」
確認するように訊ねるデルマに首肯するアルナ。
「魔力に目覚めた者を洗脳するには、対象の魔力の数倍の魔力を流し込まなければなりません。しかも、それらを実行する際には、洗脳する側とされる側が同属性であることも必須条件です」
「んで、あいつらを洗脳したやつを探す手はあるんだろ?」
エルフェリオンに訊かれたアルナは胸を張る。
「当然よ。デルマ隊長、お願いしておいた物は用意していただけましたか?」
「ああ、ここに……」
デルマは、少量の赤いシミが付いた紙切れを取り出してアルナに差し出す。
「ありがとうございます」
アルナは礼を言って受け取る。
「なんだよ、それ?」
「洗脳されていた人の血液が付着した紙よ。洗脳するためには大量の魔力を相手に流し込む必要があるって説明したでしょ? つまり、洗脳された側には洗脳した魔術師の魔力が残っている可能性があるのよ。もちろん時間の経過とともに薄れてしまう。だから、昨日の間に採血しておいてもらったの」
「そんなのをどうするんだ?」
「いいから黙って見てなさい」
アルナは受け取った紙を机の上に置き、魔力を紙へと流す。
「ほぉ!」
アルナの行動を見守っていたデルマが声を漏らす。紙切れの中央に付着していた血痕が移動したのだ。
「この血痕にわずかに残った魔力の残滓が示す方角に洗脳した魔術師がいるはずよ」
「では、早速にも制圧部隊を編成して向かわせるとしましょう!」
有力な手がかりを得た警備隊員たちが勢いよく席を立つ。
「待て。敵の規模や戦力がわからないまま闇雲に突撃しても犠牲者が増える。ここはまずは少数で動くべきだろう。その後、状況によって制圧か制圧部隊を導入するかを決定する。決定が出るまでに制圧部隊を編成し、出撃準備を整えておけ!」
デルマが速やかに指示を飛ばす。
「向かわせる人選はいかがいたしますかな?」
デルマの隣に座っていた中年の男が警備隊長の判断をあおぐ。白髪交じりの黒髪からのぞく切れ長の目……その銀色の瞳が自分よりも若い隊長を見据える。警備隊副長ガージンである。
「その役目はあたしに任せてもらえませんか?」
デルマが口を開いた瞬間、アルナがいち早く名乗り出る。
「それはダメだ。民間人のアルナ君に危険を強いるわけにはいかん。メンバーは……」
「魔術を悪用して幼い子供を誘拐しようとするやつを魔術師として見過ごせません。それに、相手が魔術に長けた人物であるならあたしがいたほうが……」
デルマによって却下されたにもかかわらず、アルナは引き下がらない。
「これはこれは勇敢なお嬢さんだ。しかし、かの偉大なる大魔術師ヴァーミル殿の弟子で極めて優秀な君であっても、実戦経験が乏しいのでは荷が勝ちすぎるというもの。ここはおとなしく我々に任せなさい。これは遊びや訓練ではないのだよ」
アルナの意見を再び却下したのは副長ガージンだ。
「待てよ、おっさん。アルナや俺は邪龍の迷宮で実戦経験も積んでいる。俺の実力は知ってるだろ? あれでもまだ手加減してたんだぜ? 子供を守りながらあれだけの敵を撃退したんだ。能力の証明としては充分すぎるくらいだと思うんだがなぁ?」
「……小僧……」
不敵に笑ってみせるエルフェリオンをガージンは睨みつける。
「だとしてもだ。君たちはあくまでも民間人であって……」
「だったら、少なくとも俺は単独でも動くぜ? 巻き込まれたとはいえ、売られた喧嘩なら買ってやる」
作戦に参加することを認めようとしないデルマに対して、エルフェリオンは引き下がるつもりなど毛頭なかった。
「……やれやれ。どうやら本気のようだね。はっきり言って、君たちに勝手に動かれては迷惑だ。君たちが今回の作戦に参加することは認めよう。ただし、わたしの指示に従ってもらうぞ!」
デルマは語気を強くする。
「ありがとうございます!」
礼を言うアルナの隣ではエルフェリオンが「ふん……」と鼻を鳴らしていた。
「魔術師の観点から何かあるかね?」
警備隊長デルマがアルナに意見を求める。
「昨日も申し上げたとおりです。今回の一件には十中八九は魔術師が関係しています」
「しかし、自我をしっかりと保たせたまま催眠術にかけるというのは可能なのかね?」
デルマが口にした疑問をアルナは首肯で返し、さらに続ける。
「催眠術というよりも洗脳といったほうがいいのかもしれませんが、結果的に言えば可能です。もちろん、だれにでもできるというものではありせんが……」
「それで、それは具体的にはどういった魔術なのかね?」
デルマがさらに掘り下げる。
「最も簡単なものは、魔力を持たない者や魔力に目覚めていない者に術をかけることです。この場合は、術をかけたい相手に直接触れて自分の魔力を流し込み、同時に命令したい内容を強く念じて相手の意識に刷り込むという方法です。しかし、口で言うのと実行するのとでは全く違います。対象の意識がはっきりした状態で、流し込む魔力は長時間にわたってごく微量ずつでなければなりません。それには並外れた集中力と魔力の制御が必要です」
「それでも最も容易だと言ったね?」
確認するように訊ねるデルマに首肯するアルナ。
「魔力に目覚めた者を洗脳するには、対象の魔力の数倍の魔力を流し込まなければなりません。しかも、それらを実行する際には、洗脳する側とされる側が同属性であることも必須条件です」
「んで、あいつらを洗脳したやつを探す手はあるんだろ?」
エルフェリオンに訊かれたアルナは胸を張る。
「当然よ。デルマ隊長、お願いしておいた物は用意していただけましたか?」
「ああ、ここに……」
デルマは、少量の赤いシミが付いた紙切れを取り出してアルナに差し出す。
「ありがとうございます」
アルナは礼を言って受け取る。
「なんだよ、それ?」
「洗脳されていた人の血液が付着した紙よ。洗脳するためには大量の魔力を相手に流し込む必要があるって説明したでしょ? つまり、洗脳された側には洗脳した魔術師の魔力が残っている可能性があるのよ。もちろん時間の経過とともに薄れてしまう。だから、昨日の間に採血しておいてもらったの」
「そんなのをどうするんだ?」
「いいから黙って見てなさい」
アルナは受け取った紙を机の上に置き、魔力を紙へと流す。
「ほぉ!」
アルナの行動を見守っていたデルマが声を漏らす。紙切れの中央に付着していた血痕が移動したのだ。
「この血痕にわずかに残った魔力の残滓が示す方角に洗脳した魔術師がいるはずよ」
「では、早速にも制圧部隊を編成して向かわせるとしましょう!」
有力な手がかりを得た警備隊員たちが勢いよく席を立つ。
「待て。敵の規模や戦力がわからないまま闇雲に突撃しても犠牲者が増える。ここはまずは少数で動くべきだろう。その後、状況によって制圧か制圧部隊を導入するかを決定する。決定が出るまでに制圧部隊を編成し、出撃準備を整えておけ!」
デルマが速やかに指示を飛ばす。
「向かわせる人選はいかがいたしますかな?」
デルマの隣に座っていた中年の男が警備隊長の判断をあおぐ。白髪交じりの黒髪からのぞく切れ長の目……その銀色の瞳が自分よりも若い隊長を見据える。警備隊副長ガージンである。
「その役目はあたしに任せてもらえませんか?」
デルマが口を開いた瞬間、アルナがいち早く名乗り出る。
「それはダメだ。民間人のアルナ君に危険を強いるわけにはいかん。メンバーは……」
「魔術を悪用して幼い子供を誘拐しようとするやつを魔術師として見過ごせません。それに、相手が魔術に長けた人物であるならあたしがいたほうが……」
デルマによって却下されたにもかかわらず、アルナは引き下がらない。
「これはこれは勇敢なお嬢さんだ。しかし、かの偉大なる大魔術師ヴァーミル殿の弟子で極めて優秀な君であっても、実戦経験が乏しいのでは荷が勝ちすぎるというもの。ここはおとなしく我々に任せなさい。これは遊びや訓練ではないのだよ」
アルナの意見を再び却下したのは副長ガージンだ。
「待てよ、おっさん。アルナや俺は邪龍の迷宮で実戦経験も積んでいる。俺の実力は知ってるだろ? あれでもまだ手加減してたんだぜ? 子供を守りながらあれだけの敵を撃退したんだ。能力の証明としては充分すぎるくらいだと思うんだがなぁ?」
「……小僧……」
不敵に笑ってみせるエルフェリオンをガージンは睨みつける。
「だとしてもだ。君たちはあくまでも民間人であって……」
「だったら、少なくとも俺は単独でも動くぜ? 巻き込まれたとはいえ、売られた喧嘩なら買ってやる」
作戦に参加することを認めようとしないデルマに対して、エルフェリオンは引き下がるつもりなど毛頭なかった。
「……やれやれ。どうやら本気のようだね。はっきり言って、君たちに勝手に動かれては迷惑だ。君たちが今回の作戦に参加することは認めよう。ただし、わたしの指示に従ってもらうぞ!」
デルマは語気を強くする。
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