スラム育ちの英雄譚

美山 鳥

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第4章 狙われた親子

4―8 魔力の残滓が示す先

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 誘拐未遂事件に加担していると思われる魔術師の魔力の残滓ざんし反応を追ってきたデルマとエルフェリオンとアルナは、レバルフの郊外にやってきた。

 「魔力の反応はあそこからみたい」

 手元の紙に視線を落としたアルナが指し示した先には古ぼけた教会が建っていた。

 「見張りらしき者の姿が見受けられるな」

 物陰から双眼鏡を使って様子を伺っていたデルマが視線を逸らす。

 「君たちは本当にわかっているのだろうね? 絶対に無茶をしないこと、わたしの指示に従うことを条件に本作戦への参加を許可したのだ。約束は守ってもらわねば困る」

 「へいへい。そんなことより、どうするんだ、隊長さんよ? このまま乗り込むのか?」
 「……その判断を下すにはまだ早い。敵の人数も把握していないのだからな。夜まで監視して可能な限りの情報を集め、闇に紛れて精鋭部隊を投入して制圧するべきだろう」

 エルフェリオンに指示をあおがれたデルマが返答する。

 「それでは、あたしとエルフェリオンが見張りをしてます。デルマ隊長は一度戻って部隊編成をお願いします」
 「いや、君たちが詰所に戻ってこの場所を伝えてくれたまえ。部隊編成はガージン副長がしてくれるはずだ」

 アルナが見張り役を買って出るが、デルマは却下する。だが、エルフェリオンは口角を上げる。

 「そもそも敵さんにバレちまったみたいだぜ?」

 エルフェリオンの言葉にアルナとデルマが教会のほうへと視線を移す。教会から武装した数人の男がゾロゾロと近付いてくる。

 「くっ! 彼らも洗脳されているのか!?」

 デルマは言いつつ槍を構えて臨戦態勢をとる。

 「マジック・キャンセル!」

 頭上に聖杖を掲げたアルナが魔術名を詠唱する。刹那、聖杖から発せられた蒼白の光が武装した男たちを照らす。

 「くそ! なんだ!?」

 男たちはひるんて動きが止まる。

 「脅かしやがって! なめんじゃねぇぞ!!」

 何も起こらなかったことで、コケ威しだと判断した男たちは怒りをあらわにして襲いかかる。

 「洗脳されてたのなら今のマジック・キャンセルで解けているはずよ!」

 バキッ

 敵が動きを止めた隙にエルフェリオンが右拳で男のひとりを殴り飛ばす。

 「つまり、それでも向かってくるこいつらに遠慮は要らねぇってことだな?」
 「……せめて殴り飛ばす前に確認しなさいよ」

 ニヤリと笑みを浮かべるエルフェリオンに対してアルナはため息混じりに言う。

 「こうなってはしかたあるまい。あくまても正当防衛の範囲内で応戦するぞ!」

 デルマは立ち向かってくる数人の男たちを槍で薙ぎ払う。

 「くっそ!」

 デルマの背後に回り込んだ男が金属の棒を振り上げる。

 「バーニング・ショット!」

 アルナが魔力を変換して撃ち出した火炎弾がデルマの背後の男に命中する。

 「あちぃぃぃ!!」

 魔力を手加減しているため絶命にはいたっていないが、火炎弾の直撃を受けた男は地面を転げ回る。

 その間にもエルフェリオンは優れた格闘能力を存分に発揮して周りの敵を次々にノックアウトしていく。

 「あん?」

 古ぼけた教会出てきた3人の若い男女にいち早く気付いたエルフェリオンが敵意を含んだ視線を向ける。

 「おいおいおい。なんだよ、だらしねぇ連中だな」

 短い赤髪と赤い瞳で金属製の長い棒を持った青年が、エルフェリオンたちによって瞬く間に全滅させられて地面に転がっている連中を睥睨へいげいする。

 「つかえねぇこいつらは八つ裂き決定だな!」

 同じく赤い長髪と赤い瞳の青年が冷笑を浮かべた。こちらは腰に片手剣を提げている。

 「ダメよ。無能なやつを処刑すること自体はかまわないけど、このアジトがバレちゃったんだから早急に移動しなきゃね」

 魔杖を手にした、ウェーブのかかったブロンドの長い髪の若い女は、グレーの瞳でエルフェリオンたちを一瞥いちべつする。
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