スラム育ちの英雄譚

美山 鳥

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第5章 老翁との出会い

5―5 ゴブリン巣窟の攻略②

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 「じいさん、今の技は!?」

 我に返ったエルフェリオンがハオウの両肩を掴む。

 「待て待て。今の技というのは闘気戦術のことじゃな?」
 「そうだ、それだ。いったい闘気戦術ってなんなんだ?」

 エルフェリオンに問い返されたハオウは、口元に手を当てて「ふむ……」と漏らす。

 「闘気戦術か。べつに珍しいものでもないぞい。武具に闘気を宿して戦う術……それを闘気戦術と呼んでおるんじゃぞい。使い手の多くは魔術を不得手とする者が多い。各地に道場もあれば指南書も普通に売られておるぞい」
 「そうなのか。だったら、俺も修得できたりするのか?」

 エルフェリオンに質問され、ハオウは軽く頷く。

 「そうじゃな。おまえさんは戦士としての才能を秘めておるようじゃから、おそらくは可能じゃと思うぞい。むろん、このワシほどの使い手になるにはそれなりの鍛錬を……」
 「ちょっと、エルフェリオン! 喋ってないで魔石の回収を手伝ってよね」

 ハオウと話してばかりで魔石の回収を全く手伝わないエルフェリオンにアルナが文句を言う。

 「ちっ、わぁったよ! ったく、うるせぇ女だぜ」

 エルフェリオンは、頭をガリガリと乱暴に掻き、しかめっ面をしながらも周辺に落ちている魔石を拾い始めた。

◎★☆◎

 「えへへへ」

 巣窟の外で大量の魔石を手に入れたアルナはご満悦の様子で革袋の口を縛る。

 「はい、これ」
 「は?」

 パンパンに膨れた革袋を差し出されたエルフェリオンは間の抜けた声をだす。

 「だから、あなたの貯蔵鞄ストレージ・バッグに入れておいてって言ってるの」

 アルナは、エルフェリオンが腰から提げている鞄に視線を落とす。

 「俺は荷物持ちかよ」
 「ケチ臭いこと言わないの! それに、こうやって旅費を貯めてかなきゃ、どうするのよ?」
 「へいへい、わかったよ」

 アルナを論破することを諦め、預かった革袋を貯蔵鞄ストレージ・バッグへと入れるエルフェリオン。

 「カッカッカッカッ。ゴブリンどもの巣窟の外でこれだけ大暴れしたのでは奇襲は無理じゃぞい」

 ハオウが笑う。

 「そうだな。見つかった時点で正面突破一択だ」

 エルフェリオンも愉しげに笑みを浮かべる。

 「なんじゃい、口元が緩んでおるぞい。おまえさんも戦闘狂というやつか?」
 「エルフェリオンは戦闘狂じゃなくて戦闘バカなのよ」

 ハオウからの質問にエルフェリオンよりも先にアルナが答える。

 「なっ! おま……っと、新手か」

 反論しようとしたエルフェリオンは敵の接近に気付いて邪龍剣を構える。

 飛び出してきたのは、狼のような見た目の獣タイプのモンスターの群れだ。真っ赤な獣毛に覆われて、目は燃えるように赤い。

 「こいつは驚いたぞい。ブラッドウルフじゃな。ゴブリンなどよりも遥かに危険なモンスターじゃぞい。どうやってゴブリンが従えておるんじゃろうか?」

 短剣を構えたハオウが疑問を口にする。

 「教えてやろうか、老いぼれ。獰猛どうもうブラッドウルフこいつらも産まれたての時から世話し続ければ懐くってもんだ」

 ブラッドウルフのあとから現れたゴブリンが不敵な笑みを見せて説明する。スラリとした長身で、その手には鞭が握られている。

 『あれもコマンダー級じゃな。しかし、モンスター使いのゴブリンとは珍しい』
 「へぇ、あいつもコマンダー級かよ。おもしれぇじゃねぇか」

 レヴィジアルの言葉にエルフェリオンが口角を上げる。

 「おい、あのゴブリンは俺がる。手出しすんじゃねぇぞ?」

 エルフェリオンは、ギラつくような眼光をコマンダー級ゴブリンに向ける。

 「だったら、ブラッドウルフの相手はあたしに任せてもらうわよ!」

 エルフェリオンに触発されたのか、アルナも聖杖を構えて魔力を高める。

 「やれやれ。若人わこうどたちに任せてみようかのぉ」

 ハオウはエルフェリオンとアルナに任せて後方で待機することにした。
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