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第6章 新米冒険者の日々
6―11 母娘の護衛依頼
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『クハハハハハハ! ジャイアントモールの討伐にひと役買ったおぬしが、まさか人間の子守りをしていようとはのぉ!』
晴れ渡る昼下がりの公園。そのベンチに腰を下ろしているエルフェリオンの内で、邪龍レヴィジアルが愉快げに笑う。
「うっせぇよ。俺だってすきでこんな事をしてんじゃねぇ。たまに喋ったと思ったらそれかよ」
眉間にしわを寄せたエルフェリオンが不機嫌に返す。そして、つまらなそうに見つめる先には砂場で遊ぶ母娘の姿がある。午前中に2件の依頼を片付けたエルフェリオンが午後の仕事として引き受けたのが母娘の護衛だった。
(はぁ……なんだってこんな仕事を引き受けちまったんだか)
適当に依頼書を取った自分を恨めしく思いながらも、今さら投げ出すわけにはいかない。
「あの……」
近くまで来た母親が声をかける。彼女の名前はラナリ。シングルマザーとして愛娘のテシアを育てている。年齢は30代後半くらい。緑色のロングヘアにブラウンの瞳を持った、おとなしい印象を与える女性である。
娘のテシアは、母と同じく緑の髪をツインテールにしており、黄色の大きな瞳が特徴的だ。
「すみません。冒険者の方をこんな事に付き合わせてしまって……」
「これも仕事だ。気にしないでくれ。それより、どうしてまた護衛が必要なんだ?」
ラナリとテシアはどこにでもいるような普通の母娘のように思え、エルフェリオンは抱いていた疑問を言葉にする。だが、ラナリは無言で目を伏せるばかりだ。
「立ち入ったことを訊いてしまったようだな。すまない、忘れてくれ」
「いえ、充分な報酬も用意できないのに引き受けていただいて感謝してます」
謝罪するエルフェリオンにラナリは恐縮したように謝意を伝える。
「お兄ちゃん、これあげるね」
テシアが小さな手のひらに乗せた小石をエルフェリオンに小石を差し出す。
「これは?」
小石を受け取ったエルフェリオンはキョトンとした表情で観察する。だが、どこからどう見ても普通の石であった。
「すみません。さっき、そこで拾ったものです。この娘にとっては形がいいらしくて……」
ラナリが困ったように笑う。「要らねぇ」と言って返そうとしたエルフェリオンだったが、テシアの黄色のキラキラした瞳が自分を見つめているのに気付き、言葉を飲み込む。
「サンキュー」
泣き出されても面倒だと思い、素直に受け取ることにしたエルフェリオンは小石をポケットに入れる。すると、テシアは満面の笑顔となった。
「そろそろ帰ろうかと思います。家までの護衛をお願いします」
ラナリが頭を下げる。
「ああ。無事に自宅に送り届けるまでが依頼だか……と、そう簡単にはいかないか?」
エルフェリオンは、自分たちを囲むように四方からゆっくりと近付いてくる男たちから母娘を守るように立ちはだかる。
(どうする? この二人から離れすぎるのはまずい。かといって、接近され過ぎても思うように動けねぇか……)
一定の距離でじっくりと包囲を狭めてくる男たちにエルフェリオンは逡巡する。
「……あんたらは下手に動かないでくれよ」
母娘に指示を出したエルフェリオンは男のひとりに狙いをしぼって駆けだす。
ブンッ
迫るエルフェリオンに男は無言で迎撃の右拳を突き出す。
「げふっ!」
エルフェリオンは、それを躱しながらカウンターの拳を男の顔面にめり込ませた。男は鼻血をふきだして背中側に倒れていく。
(次!)
エルフェリオンは動きを止めるわけにはいかない。すぐさま母娘の元へと駆ける。予想どおりに他の男たちも同様に母娘に迫っている。
(ちっ! 思ったよりも速い!)
男たちのひとりが娘のテシアに手を伸ばす。エルフェリオンは咄嗟にポケットから小石を取り出して投げる。
「うっ!」
投げた小石は男の蟀谷に命中した。短く声をあげて動きを止めたところにエルフェリオンの蹴りが撃ち込まれた。
「げはっ!」
蹴り飛ばされて地面に倒れた男は気絶する。
「でやぁ!」
「ごふっ!」
エルフェリオンは体を勢いよく回転させて三人目の男の横顔に回し蹴りを入れる。三人目も二人目と同様の運命をたどることとなった。
「この野郎!」
最後のひとりは攻撃のターゲットをエルフェリオンに変えて拳を突き出してくる。が、エルフェリオンはそれを苦も無く受け流すと、隙だらけとなった敵の顎に掌底を撃つ。
「おげっ!」
男の体は宙を舞って落下する。
「ふぅ、危なかったぜ……」
全員を倒したエルフェリオンがため息を漏らした。
「すご~い!」
テシアはパチパチと拍手をする。
(ったく、状況がわかってんのかね?)
エルフェリオンはクスリと笑うと、男に投げつけた小石を拾い上げて、テシアに握らせた。
「ほらよ。小石を気に入ってるんだろ? だったら、おまえが持っとけ。気持ちだけは受け取っておく」
「……うん!」
微笑するエルフェリオンにテシアは無邪気な笑顔を返す。
「んじゃ、新手が現れねぇうちに帰るか」
「はい、よろしくお願いします」
長居するのは得策ではないため、エルフェリオンは母娘を連れて帰路に着くのだった。
晴れ渡る昼下がりの公園。そのベンチに腰を下ろしているエルフェリオンの内で、邪龍レヴィジアルが愉快げに笑う。
「うっせぇよ。俺だってすきでこんな事をしてんじゃねぇ。たまに喋ったと思ったらそれかよ」
眉間にしわを寄せたエルフェリオンが不機嫌に返す。そして、つまらなそうに見つめる先には砂場で遊ぶ母娘の姿がある。午前中に2件の依頼を片付けたエルフェリオンが午後の仕事として引き受けたのが母娘の護衛だった。
(はぁ……なんだってこんな仕事を引き受けちまったんだか)
適当に依頼書を取った自分を恨めしく思いながらも、今さら投げ出すわけにはいかない。
「あの……」
近くまで来た母親が声をかける。彼女の名前はラナリ。シングルマザーとして愛娘のテシアを育てている。年齢は30代後半くらい。緑色のロングヘアにブラウンの瞳を持った、おとなしい印象を与える女性である。
娘のテシアは、母と同じく緑の髪をツインテールにしており、黄色の大きな瞳が特徴的だ。
「すみません。冒険者の方をこんな事に付き合わせてしまって……」
「これも仕事だ。気にしないでくれ。それより、どうしてまた護衛が必要なんだ?」
ラナリとテシアはどこにでもいるような普通の母娘のように思え、エルフェリオンは抱いていた疑問を言葉にする。だが、ラナリは無言で目を伏せるばかりだ。
「立ち入ったことを訊いてしまったようだな。すまない、忘れてくれ」
「いえ、充分な報酬も用意できないのに引き受けていただいて感謝してます」
謝罪するエルフェリオンにラナリは恐縮したように謝意を伝える。
「お兄ちゃん、これあげるね」
テシアが小さな手のひらに乗せた小石をエルフェリオンに小石を差し出す。
「これは?」
小石を受け取ったエルフェリオンはキョトンとした表情で観察する。だが、どこからどう見ても普通の石であった。
「すみません。さっき、そこで拾ったものです。この娘にとっては形がいいらしくて……」
ラナリが困ったように笑う。「要らねぇ」と言って返そうとしたエルフェリオンだったが、テシアの黄色のキラキラした瞳が自分を見つめているのに気付き、言葉を飲み込む。
「サンキュー」
泣き出されても面倒だと思い、素直に受け取ることにしたエルフェリオンは小石をポケットに入れる。すると、テシアは満面の笑顔となった。
「そろそろ帰ろうかと思います。家までの護衛をお願いします」
ラナリが頭を下げる。
「ああ。無事に自宅に送り届けるまでが依頼だか……と、そう簡単にはいかないか?」
エルフェリオンは、自分たちを囲むように四方からゆっくりと近付いてくる男たちから母娘を守るように立ちはだかる。
(どうする? この二人から離れすぎるのはまずい。かといって、接近され過ぎても思うように動けねぇか……)
一定の距離でじっくりと包囲を狭めてくる男たちにエルフェリオンは逡巡する。
「……あんたらは下手に動かないでくれよ」
母娘に指示を出したエルフェリオンは男のひとりに狙いをしぼって駆けだす。
ブンッ
迫るエルフェリオンに男は無言で迎撃の右拳を突き出す。
「げふっ!」
エルフェリオンは、それを躱しながらカウンターの拳を男の顔面にめり込ませた。男は鼻血をふきだして背中側に倒れていく。
(次!)
エルフェリオンは動きを止めるわけにはいかない。すぐさま母娘の元へと駆ける。予想どおりに他の男たちも同様に母娘に迫っている。
(ちっ! 思ったよりも速い!)
男たちのひとりが娘のテシアに手を伸ばす。エルフェリオンは咄嗟にポケットから小石を取り出して投げる。
「うっ!」
投げた小石は男の蟀谷に命中した。短く声をあげて動きを止めたところにエルフェリオンの蹴りが撃ち込まれた。
「げはっ!」
蹴り飛ばされて地面に倒れた男は気絶する。
「でやぁ!」
「ごふっ!」
エルフェリオンは体を勢いよく回転させて三人目の男の横顔に回し蹴りを入れる。三人目も二人目と同様の運命をたどることとなった。
「この野郎!」
最後のひとりは攻撃のターゲットをエルフェリオンに変えて拳を突き出してくる。が、エルフェリオンはそれを苦も無く受け流すと、隙だらけとなった敵の顎に掌底を撃つ。
「おげっ!」
男の体は宙を舞って落下する。
「ふぅ、危なかったぜ……」
全員を倒したエルフェリオンがため息を漏らした。
「すご~い!」
テシアはパチパチと拍手をする。
(ったく、状況がわかってんのかね?)
エルフェリオンはクスリと笑うと、男に投げつけた小石を拾い上げて、テシアに握らせた。
「ほらよ。小石を気に入ってるんだろ? だったら、おまえが持っとけ。気持ちだけは受け取っておく」
「……うん!」
微笑するエルフェリオンにテシアは無邪気な笑顔を返す。
「んじゃ、新手が現れねぇうちに帰るか」
「はい、よろしくお願いします」
長居するのは得策ではないため、エルフェリオンは母娘を連れて帰路に着くのだった。
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