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第6章 新米冒険者の日々
6―12 夕暮れの帰り道
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ラナリのサイン入りの依頼達成書を持って冒険者ギルドへと戻ってきたエルフェリオンだが、その表情は曇っていた。
「せっかく依頼を達成したのに元気ないね、 どうかしたの?」
達成報告をするためにカウンターに書類を提出したエルフェリオンにラフィカが訊く。
「べつに。ただ、ちょっと気になることがあっただけだ」
「気になることって?」
ラフィカはさらに掘り下げる。
「娘を連れて公園で遊ぶだけだってのに、なぜ護衛依頼を出す必要があったんだ? そのへん、ギルドでは把握してねぇのかよ?」
エルフェリオンから投げかけられた質問にラフィカは「あぁ~、それね……」と歯切れが悪い。
「なにか知ってるんだな?」
今度はエルフェリオンが掘り下げる。
「まぁ、ね。ギルドとしても一応は調査したんだけどさ、この母娘ってけっこう複雑な事情があるみたいなのよ。でも、依頼人の個人的な理由だからギルドとしては情報を流すことはできないの。ごめんね」
謝るラフィカにエルフェリオンはこれ以上何も聞き出せないことをさとる。
「いいさ。とにかくこれで依頼は完了だな?」
「うん。お疲れ様!」
報酬を受け取り、エルフェリオンはカウンターを離れる。
(アルナはまだか? それとも先に宿に戻ったか?)
ギルド内をグルリと見回し、相棒の姿がないことを確かめたエルフェリオンは、暫しの黙考のあとで宿屋に戻ることにする。
◎★☆◎
夕暮れの町をひとり帰路に着いたエルフェリオンを西の空から夕日が照らす。脳裏に浮かぶのはラナリとテシアの母娘のことだった。
「……ン……」
(公園では俺がいたから撃退できた。しかし、次に同じようなことがあればどうするつもりなんだ?)
「……オン!……」
(ラフィカは複雑な事情があると言っていたが……まぁ、これ以上は首を突っ込んでもいいことはない、か)
「もぉ! エルフェリオンってば!!!」
突然、耳元で発せられた大声にエルフェリオンは飛び退く。
「……なんだ、アルナか。おどかすなよな」
声の発生源へと視線を向けたエルフェリオンが脱力する。
「ボーッと歩いてるあんたが悪いんでしょ。それで、なにを考え込んでたのよ?」
アルナが青い瞳にエルフェリオンを映して訊く。
「……なんでもねぇよ」
一瞬の間を置き、エルフェリオンが答える。だが、明らかに何かを抱え込んでそうな様子に追及しようかと口を開いたアルナだったが、思いとどまったように口を閉じる。
「……まぁ、言いたくないならそれでもいいわ。だけど、あたしだって放浪者のメンバーなんだから、何かあれば相談にくらい乗るわよ?」
「あぁ」
エルフェリオンは短く答えると、つま先を定宿に向ける。
(まったく、ほんとに意地っ張りなんだから)
アルナは呆れたようにエルフェリオンの背中を見つめ「バ~カ」と囁いた。
「せっかく依頼を達成したのに元気ないね、 どうかしたの?」
達成報告をするためにカウンターに書類を提出したエルフェリオンにラフィカが訊く。
「べつに。ただ、ちょっと気になることがあっただけだ」
「気になることって?」
ラフィカはさらに掘り下げる。
「娘を連れて公園で遊ぶだけだってのに、なぜ護衛依頼を出す必要があったんだ? そのへん、ギルドでは把握してねぇのかよ?」
エルフェリオンから投げかけられた質問にラフィカは「あぁ~、それね……」と歯切れが悪い。
「なにか知ってるんだな?」
今度はエルフェリオンが掘り下げる。
「まぁ、ね。ギルドとしても一応は調査したんだけどさ、この母娘ってけっこう複雑な事情があるみたいなのよ。でも、依頼人の個人的な理由だからギルドとしては情報を流すことはできないの。ごめんね」
謝るラフィカにエルフェリオンはこれ以上何も聞き出せないことをさとる。
「いいさ。とにかくこれで依頼は完了だな?」
「うん。お疲れ様!」
報酬を受け取り、エルフェリオンはカウンターを離れる。
(アルナはまだか? それとも先に宿に戻ったか?)
ギルド内をグルリと見回し、相棒の姿がないことを確かめたエルフェリオンは、暫しの黙考のあとで宿屋に戻ることにする。
◎★☆◎
夕暮れの町をひとり帰路に着いたエルフェリオンを西の空から夕日が照らす。脳裏に浮かぶのはラナリとテシアの母娘のことだった。
「……ン……」
(公園では俺がいたから撃退できた。しかし、次に同じようなことがあればどうするつもりなんだ?)
「……オン!……」
(ラフィカは複雑な事情があると言っていたが……まぁ、これ以上は首を突っ込んでもいいことはない、か)
「もぉ! エルフェリオンってば!!!」
突然、耳元で発せられた大声にエルフェリオンは飛び退く。
「……なんだ、アルナか。おどかすなよな」
声の発生源へと視線を向けたエルフェリオンが脱力する。
「ボーッと歩いてるあんたが悪いんでしょ。それで、なにを考え込んでたのよ?」
アルナが青い瞳にエルフェリオンを映して訊く。
「……なんでもねぇよ」
一瞬の間を置き、エルフェリオンが答える。だが、明らかに何かを抱え込んでそうな様子に追及しようかと口を開いたアルナだったが、思いとどまったように口を閉じる。
「……まぁ、言いたくないならそれでもいいわ。だけど、あたしだって放浪者のメンバーなんだから、何かあれば相談にくらい乗るわよ?」
「あぁ」
エルフェリオンは短く答えると、つま先を定宿に向ける。
(まったく、ほんとに意地っ張りなんだから)
アルナは呆れたようにエルフェリオンの背中を見つめ「バ~カ」と囁いた。
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