スラム育ちの英雄譚

美山 鳥

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第7章 野盗集団レイゼジル討伐

7―13 VSダーズヴェル③

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 「さぁ、こいよ! こっからが本番だぜぇ? ケヒャヒャヒャヒャヒャ!!」

 挑発的な笑みと視線をぶつけるダーズヴェルに対して、ザラギスとエルフェリオンは即座に攻勢にでることはしない。

 「どうした? ビビったのかぁ? なっさけないねぇ……」

 なおも挑発を続けるダーズヴェルだが、二人は乗ってはこなかった。

 「来ねぇってんなら、オレサマからいかせてもらうぜぇ!!」

 地面を蹴って急加速したダーズヴェルが瞬時にエルフェリオンを攻撃範囲におさめる。

 「ちぃっ!」

 後方へと逃れるエルフェリオンに、ダーズヴェルは右手の短剣を突き出す。その刃がエルフェリオンの脇腹をかする。しかし、龍衣と魔力の恩恵によりダメージは思いのほか少ない。

 (ちっ、まぁたあの服かよ!)

 ダーズヴェルは龍衣の性能を苦々しく思い、内心で舌打ちする。

 「だったら、これでどうだぁ!?」

 ダーズヴェルの両手の短剣が幾筋もの剣閃を描き、エルフェリオンの鮮血を宙に舞わせる。

 (本当に何なんだぁ、あの服はよぉ? 斬り裂いたと思ったら即座に修復されちまうぜぇ? しかも、防具としての性能もかなりのもんだ……こいつをさっさと殺して、オレサマの物にするかぁ!!)

 物欲に駆られたダーズヴェルは攻撃速度をさらに加速させる。

 「調子にのるなよ、この野郎!」

 ザラギスは大戦鎚をダーズヴェルの頭目掛けて振り抜く。が、難なく回避されてしまう。

 「ケヒャヒャヒャ! あんたの攻撃は大振りすぎるんだよ、バ~カ!!……ん?」

 高笑いをするダーズヴェルだったが、ザラギスが攻撃と同時に投げたアイテムに気付き、目を見開く。

 「油断大敵だぜ?」

 ドォォンッ

 ザラギスが投げたアイテムは小型爆弾リトルボムと呼ばれる爆発系魔術が封じられた魔玉であった。

 「ちっきしょうが! ナメた真似しやがって!!」

 至近距離からの頭部への爆発攻撃には、さすがのダーズヴェルもかなりのダメージを受ける。それまで狩りに愉悦していた赤い瞳に憎悪が宿る。

 「くらえ!」

 今度はエルフェリオンが邪龍剣を突き出す。

 「ケヒャヒャ!」

 ダーズヴェルは笑い声をあげながら後方に飛び退いて切先をかわす。

 「これで、どうだ?」

 不敵に笑んだエルフェリオンが邪龍剣を邪龍槍へと変形させて水平にふるう。予測不能な攻撃に反応が遅れたダーズヴェルの腹部を邪龍槍の穂先がえぐった。

 「ぎゃあっ!」

 ここにきて、ようやくダーズヴェルが悲鳴をあげて膝をついた。

 「狩られる側の気分はどうだ!?」

 畳み掛けるように、ザラギスは掲げた大戦鎚をダーズヴェルの脳天目掛けて振り下ろす。

 ズゥンッ

 ダーズヴェルは間一髪のところで横っ跳びにかわし、目標物を失った大戦鎚は地面を叩く。

 「あがぁっ!」

 素早く体勢を立ち直したダーズヴェルがザラギスの右の太ももに短剣を突き刺す。激痛に声を漏らしたザラギスが傷口に手を当ててうずくまる。

 「くそったれめ!」

 毒づいたエルフェリオンが邪龍槍を横に一閃した。

 ブンッ

 しかし、ダーズヴェルの俊敏な動きを捉えられず空振りする。

 「バーニング・ショット!」

 紫色の魔力を練り上げたダーズヴェルが、右手の短剣をエルフェリオンに差し向けて魔術名を詠唱する。それに反応して短剣の切先から火炎弾が飛び出してエルフェリオンを直撃した。

 「ぐわぁぁっ!」

 魔力の炎に包まれたエルフェリオンが地面に崩れる。

 「エルフェリオン!?」

 ザラギスが叫ぶ。

 「ケヒャヒャヒャヒャヒャ! 他人ひとの心配してられる状況かよぉ!!」

 ダーズヴェルは獲物を狩る瞬間がおとずれたことに歓喜し、ザラギスの首筋に向けて右手の短剣をはしらせる。

 (ここまでか!)

 ザラギスが観念してまぶたを固く閉じる。

 バァンッ

 鼓膜を激しく刺激する音にザラギスは顔を上げる。

 「ぐっ!」

 邪龍槍からくり出された斬撃波により、ザラギスにとどめを刺すはずだった攻撃は弾かれた。ダーズヴェルは憤怒の形相でエルフェリオンをめつけている。

 「てめぇ、オレサマが獲物を狩る瞬間を邪魔しやがってぇ!!」

 激昂げっこうしたダーズヴェルが左右の短剣に闘気を宿す。

 「報いを受けろ!!」

 ダーズヴェルは叫び、左右の短剣から飛閃を同時に放つ。

 「ぐぁぁぁぁ!!」

 左手の短剣から放たれた斬撃波がザラギスを捉え、右手の短剣から放たれた斬撃波がエルフェリオンを襲う。ザラギスは悲鳴をあげる。一方、エルフェリオンは飛閃を邪龍槍で受け止めた。

 (こいつ、オレサマの飛閃を!?)

 ダーズヴェルは全力で放った飛閃が防がれたことに驚愕する。戦闘開始からのわずかな時間の中で青髪の青年は確実に強くなっていた。

 『ククククク……邪龍武具の使い手としての最低限の素質はあるようじゃのぉ。ならば、褒美に新たな力を授けてやろうかのぉ』
 「新たな力だと?」

 レヴィジアルに問い返した刹那、エルフェリオンの龍衣の上に黄金の鎧が装着された。

 「なんだ、これは?」
 『クハハハハハ! これこそが邪龍武具のひとつ邪龍鎧じゃ!!』

 得意げに説明するレヴィジアルに対して、エルフェリオンの反応は冷めていた。

 「こんなものがあるなら早く出せばいいだろうが。出し惜しみかよ?」
 『愚か者め。邪龍武具ふたつを同時に召喚するならば、それなりの実力が伴わねばならぬ』
 「……それにしても、これだけかよ? 全身じゃないのか」

 自身がまとう邪龍鎧を一瞥いちべつし、率直な感想を漏らすエルフェリオン。

 『どこまでも愚か者じゃのぉ。全身鎧をまとっては動きが鈍くなるじゃろうが。おぬしにはこの程度がちょうどよいわ』

 エルフェリオンはレヴィジアルの言葉に納得する。たしかに、自分には持ち前のスピードを活かした戦い方が向いている。ならば、防具を重くし過ぎるのはその長所を殺してしまうに違いように思われる。

 「どうなってやがるんだぁ!? いきなり鎧なんぞ出しやがってぇ!?」

 武器を召喚する者は極稀にだがいる。しかし、防具……それも鎧を召喚するなど聞いたこともなかった。理解不能な事態にダーズヴェルは声を荒げる。

 「どうなってるか、だと? んなこたぁ、どうだっていいだろ。それよりもそろそろ決着をつけさせてもらおうか!」

 邪龍槍を構えたエルフェリオンのエメラルドグリーンの瞳が、鋭い眼光を放ってダーズヴェルを見据えた。
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