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第8章 龍滅の戦神①
8―1 復讐の決意
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ダァンッ
ルクゼイン王国の王都ベルストラインの一角に建つ家屋のリビング。激怒した青年が木製のテーブルを力任せに叩く。オレンジ色の短髪の青年の紫の瞳には憎悪が宿っている。椅子に腰かけた若い娘は両手で顔をおおってすすり泣いていた。ブロンドの綺麗な長い髪をアップにしている。
「落ち着くのだ、レフィン君」
柱に背を預けた、50代後半と思しき男が青年をなだめる。茶色の瞳と黒い長髪で、がっしりとした体格で年齢を感じさせない力強さが全身からあふれ出している。レフィンと呼ばれた青年の怒りは収まる気配すらない。紫の瞳は憤怒から血走り、顔面にも血管が浮き出ていた。
「落ち着いてなんかいられません!!! やつは!……ギゼムの野郎は!!……オレの婚約者を……ミリーナを誘拐して辱めたんですよ!! あなたは、実の娘がこんな酷い目にあったというのに平気なんですか!!? オレの知っているS級冒険者ルガーダは、そんな腰抜けじゃなかったはずです!!!!」
レフィンは柱に背を預けた男に詰め寄る。
「言ってくれるじゃないか。むろん、わたしとてこのまますませるつもりなど毛頭ない。が、ギゼムを殺すのはわたしひとりに任せてもらおうという話だ。レフィン君とミリーナには遠く離れた地で幸せになってほしいと心から願っている。どうか、わかってくれ」
人を殺めるという大罪を負うのは自分だけで充分だと考えているルガーダを、レフィンは睨みつける。
「バカなことを言わないでください! いくらあなたがS級だからといっても、ギゼムもまたS級……しかも得体の知れない力を持っているんですよ!? 1対1で戦うのは危険すぎます! オレだってS級冒険者です。オレとルガーダさんの二人がかりなら必ずギゼムを討ち取れるはず!」
「しかしだな、レフィン君……」
ルガーダとレフィンは互いの主張を譲らない。
「待ってよ、二人とも! 復讐なんてやめて! 私は、こんな街は一刻も早く離れて、すべてを忘れたい!! 二人にもしものことがあったら、私は……」
金色の瞳から大粒の涙をこぼしながらミリーナは訴えかける。だが、ルガーダとレフィンの意思は曲がらない。
「この街から離れたとして、本当にそれですべてを忘れることなんてできるのか!? それに、龍滅の戦神の名前はどこにいたって耳にする。その度に今回の事を思い出さなければならないんだぞ!?」
レフィンは激情を抑えられずに声を荒げる。
「いいか、ミリーナ。龍滅の戦神の被害にあってるのはおまえだけではないのだ。多くの者たちが犠牲になっている。わたしはもう我慢の限界なのだ! 誰かがギゼムを倒さねばならない。わかるな?」
ルガーダは言いつつ、視線をレフィンへと流す。
「レフィン君。きみは……」
「オレも戦いますよ。S級冒険者が二人なら敗けるわけがない。ギゼムの片腕のルドアが迷宮に潜っていて不在の今がギゼムを討つ千載一遇のチャンスなんです!」
レフィンはルガーダの言葉を遮って説得する。
「……だが!……いや、君のことだ。たとえひとりでも行動を起こすのだろうな。……レフィン君の気持ちはわかった。ならば、この戦い、敗けるわけにはいかない。いいな?」
「もちろんです!」
レフィンは力強く頷き、愛するミリーナのほうを向く。
「オレたちは必ず戻る。信じて待っててくれるよな?」
「……レフィン……でも、やっぱり!……」
婚約者レフィンと実父ルガーダのことが心配なミリーナは、なおも引き留めようとする。が、レフィンはそんな彼女を抱きしめた。
「君がなんと言おうと、オレたちの意思は変わらない。それはミリーナだってわかってるだろ?」
レフィンの言うとおりだった。ルガーダとレフィンは確固たる決意を持って行動しようとしており、それを止める術などないことをミリーナは知っている。
「……行きましょう、ルガーダさん」
ミリーナをそっと自分の身体から離しつつ言うレフィンに、ルガーダは無言で頷いた。
ルクゼイン王国の王都ベルストラインの一角に建つ家屋のリビング。激怒した青年が木製のテーブルを力任せに叩く。オレンジ色の短髪の青年の紫の瞳には憎悪が宿っている。椅子に腰かけた若い娘は両手で顔をおおってすすり泣いていた。ブロンドの綺麗な長い髪をアップにしている。
「落ち着くのだ、レフィン君」
柱に背を預けた、50代後半と思しき男が青年をなだめる。茶色の瞳と黒い長髪で、がっしりとした体格で年齢を感じさせない力強さが全身からあふれ出している。レフィンと呼ばれた青年の怒りは収まる気配すらない。紫の瞳は憤怒から血走り、顔面にも血管が浮き出ていた。
「落ち着いてなんかいられません!!! やつは!……ギゼムの野郎は!!……オレの婚約者を……ミリーナを誘拐して辱めたんですよ!! あなたは、実の娘がこんな酷い目にあったというのに平気なんですか!!? オレの知っているS級冒険者ルガーダは、そんな腰抜けじゃなかったはずです!!!!」
レフィンは柱に背を預けた男に詰め寄る。
「言ってくれるじゃないか。むろん、わたしとてこのまますませるつもりなど毛頭ない。が、ギゼムを殺すのはわたしひとりに任せてもらおうという話だ。レフィン君とミリーナには遠く離れた地で幸せになってほしいと心から願っている。どうか、わかってくれ」
人を殺めるという大罪を負うのは自分だけで充分だと考えているルガーダを、レフィンは睨みつける。
「バカなことを言わないでください! いくらあなたがS級だからといっても、ギゼムもまたS級……しかも得体の知れない力を持っているんですよ!? 1対1で戦うのは危険すぎます! オレだってS級冒険者です。オレとルガーダさんの二人がかりなら必ずギゼムを討ち取れるはず!」
「しかしだな、レフィン君……」
ルガーダとレフィンは互いの主張を譲らない。
「待ってよ、二人とも! 復讐なんてやめて! 私は、こんな街は一刻も早く離れて、すべてを忘れたい!! 二人にもしものことがあったら、私は……」
金色の瞳から大粒の涙をこぼしながらミリーナは訴えかける。だが、ルガーダとレフィンの意思は曲がらない。
「この街から離れたとして、本当にそれですべてを忘れることなんてできるのか!? それに、龍滅の戦神の名前はどこにいたって耳にする。その度に今回の事を思い出さなければならないんだぞ!?」
レフィンは激情を抑えられずに声を荒げる。
「いいか、ミリーナ。龍滅の戦神の被害にあってるのはおまえだけではないのだ。多くの者たちが犠牲になっている。わたしはもう我慢の限界なのだ! 誰かがギゼムを倒さねばならない。わかるな?」
ルガーダは言いつつ、視線をレフィンへと流す。
「レフィン君。きみは……」
「オレも戦いますよ。S級冒険者が二人なら敗けるわけがない。ギゼムの片腕のルドアが迷宮に潜っていて不在の今がギゼムを討つ千載一遇のチャンスなんです!」
レフィンはルガーダの言葉を遮って説得する。
「……だが!……いや、君のことだ。たとえひとりでも行動を起こすのだろうな。……レフィン君の気持ちはわかった。ならば、この戦い、敗けるわけにはいかない。いいな?」
「もちろんです!」
レフィンは力強く頷き、愛するミリーナのほうを向く。
「オレたちは必ず戻る。信じて待っててくれるよな?」
「……レフィン……でも、やっぱり!……」
婚約者レフィンと実父ルガーダのことが心配なミリーナは、なおも引き留めようとする。が、レフィンはそんな彼女を抱きしめた。
「君がなんと言おうと、オレたちの意思は変わらない。それはミリーナだってわかってるだろ?」
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「……行きましょう、ルガーダさん」
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