スラム育ちの英雄譚

美山 鳥

文字の大きさ
141 / 224
第9章 森林モンスター合同討伐依頼

9―10 森林モンスター討伐⑤

しおりを挟む
 突如、現れたアルナを睨めつけたギャブだったが、不意に冷笑を浮かべる。

 「おまえ、魔術師だろ? バカなやつだ。魔術師が前線に出てきてどうするってんだ? この女はあてにできねぇぜ。なんせ半死半生って感じだからなぁ」

 勝ち誇ったように言うギャブをアルナはキッと睨む。

 「アルナ、さん。気をつけて……こいつは、モンスター使い、よ……」

 頭から血を流し、青白い顔のネティエが注意を促す。

 「それにしても情けねぇ。オレの手下のモンスターどもはなにをしてやがる?」
 「あんなの全滅させてやったわよ!」

 アルナはギャブが視線を移動させるよりも早く言い放つ。

 「なに!?」

 その言葉にギャブが明らかに動揺し、視線をほかの魔術師たちがいたほうへと向けて凝視する。

 「……おいおい、どうなってんだよ? 数の上じゃ冒険者どもよりオレの手下どものほうがかなり多かったはずだぜ!? それが、なぜこうも簡単に全滅するんだ!!?」

 狼狽うろたえたギャブが声を荒げた。そこにはモンスターたちの姿はなく、魔石の回収を進めている冒険者の姿があった。

 「当たり前じゃない。あの程度の数の差で、しかも指揮官もいない状態なら全滅させるのは難しくないわよ。あとはあなたひとりになったから、みんなに魔石の回収をお願いしたの。降参することをお勧めするけど?」

 聖杖を構えたまま、白い魔力を身にまとったアルナが勧告する。

 「調子にのるなぁ!」

 激昂げっこうしたギャブがアルナに向かっていく。

 「バーニング・ショット!」

 アルナは火炎弾を撃って迎撃にでる。が、それをサイドステップでかわし、さらに加速したギャブが鉄棍を振り上げる。

 「まとめて殺す!」

 ドガッ

 鉄棍が地面を叩く。

 「魔術師だって、接近戦くらいできるわよ」

 素早くギャブの背後をとったアルナが聖杖の先端部を差し向ける。

 「ちぃっ!」
 「エア・ショット!」

 ギャブがその場を飛び退こうとした直前、アルナが圧縮された空気弾を放つ。

 「ごふっ!」

 顔面に空気弾をくらったギャブが、ヨタヨタと後退する。

 「ライトニング・ウィップ!」

 たたみかけるように、アルナが魔力によって雷の鞭を発生させてふるう。だが、紫の魔力をまとったギャブは跳躍してかわし、鉄棍に闘気を帯びさせる。

 「くらいな! 闘気戦術・飛閃!!」

 振り抜いた鉄棍からくり出された、闘気をまとった真空波がアルナに迫る。

 「ぐっ!」

 聖杖で受け止めたアルナが声を漏らして体勢を崩す。

 「まだまだいくぞ! 闘気戦術・連舞!」

 闘気を活用して軽量化した鉄棍でアルナに打撃を次々にくり出すギャブ。白い魔力を身にまとって防御力を上げているとはいえ、ダメージは軽くない。

 (ネティエさんとの戦いでかなり消耗してるはずなのに、まだこれだけ戦えるというの!?)

 アルナはバックステップで間合いをとりながら聖杖を構え直す。

 「バーニング・ショット!」

 差し向けた聖杖の先端部から火炎弾が飛び出す。

 「くっ!!」

 火炎弾が命中したギャブが炎に包まれて唇を歪めるて片膝をつく。

 「ライトニング・ウィップ!」

 続け様に聖杖から生じた稲妻が電撃の鞭となってギャブに追い打ちをかける。

 「ぐうぉぉぉぉぉぉ!」

 全身に電撃が走ったギャブは叫び声をあげてバタリと倒れた。

 「……勝った……」

 安堵の表情を浮かべたアルナが構えをとき、急いでネティエの元に駆け寄る。

 「ネティエさん、大丈夫ですか!?」

 すぐにヒールを発動させたアルナが心配そうに声をかける。

 「ええ。アルナさんが来てくれたから大丈夫よ。本当にありがとうね」

 ネティエは微笑を浮かべて答えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

処理中です...