聖剣と魔剣の二刀流剣士物語【復讐編】

美山 鳥

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1章 運命が動く建国祭

2話 ウォレン、発つ

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 「アルフォス、アルフォスはいるか?」

 屋敷に戻ったウォレンは一人息子の名を呼ぶ。

 「ここだよ。どうかしたの?」

 答えたのはまだ幼さを色濃く残した少年だ。庭で剣術の鍛練をしていたのだろう。その腰には以前にウォレンから貰ったスモールソードが納められた鞘を提げており、薄く汗ばんでいる。

 「うむ。直ちに北のデルモス山に向かうこととなった。アルフォスには剣術の稽古をつけてやる約束であったが数日は戻れそうもない」

 「…うん、わかった。仕事なんだからしかたないよ」

 アルフォスは申し訳なさそうにするウォレンを気遣う。

 「だが、帰ったら約束は必ず果たす。それまで待っていてくれるな?」

 「うん! 気をつけて」

 アルフォスはニコリと笑む。

 「うむ。わたしの留守の間、母さんや皆のことは頼んだぞ」

 「わかってる。俺はラミーネル王国近衛騎士団長ウォレンの息子だよ。それくらいできるよ」

 「ふふ……。そうであったな。ならば、わたしも安心して出発することができるというものだ」

 我が子の成長に目を細めるウォレン。

 (素直に真っ直ぐ育ってくれて、父は嬉しく思うぞ)

 心の中でウォレンは愛する息子に語りかける。

 「あら、あなた。こんな時間に帰られるなんて珍しいわね。何かあったの?」

 ウォレンの声を聞き付けて妻ラーナが姿を現す。

 「おお、ラーナか。実はな、これより北のデルモス山に向かうことになった。すまないが、暫く家をあけることになりそうだ」

 「まぁ……。でも、どうして急に?」

 ラーナが訊く。

 「……今ははっきりしたことは言えぬ。だが、極めて重大な任務だ」

 「そう……。だったら、これ以上何も聞かないようにするわね。ただ、あなたの無事を祈ってます」

 ウォレンの様子から危険を伴う任務に赴くことを悟ったラーナがウォレンの手を握る。

 「ラーナ……」

 互いに見つめ会うウォレンとラーナ。

 ラーナはそっとウォレンの胸に体をあずけ、ウォレンは優しく抱く。

 (うーん、息子が目の前にいるのによくやるよねぇ……)

 その光景にアルフォスは苦笑する。

 「ではな。おまえたちの顔を見ることができてよかった。……行ってくる!」

 家族に暫しの別れを告げ、屋敷を出たウォレンの顔は峻厳たる騎士のものとなっていた。
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