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1章 運命が動く建国祭

15話 眠りに落ちた少年

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 タハルジャは回想しながら、アルフォスに話して聞かせた。

 「…それは……真実…なの…か?……」

 フラフラと立ち上がったアルフォスは消え入りそうな声で訊く。

 「もちろん真実だよ。わたしがアルフォス君に嘘をついても意味がないだろう?」

 タハルジャは後悔などまるでないように笑顔で平然と答える。

 「うぁぁぁっ!」

 アルフォスはスモールソードを鞘から抜くと同時にタハルジャに斬りかかる。

 「ククククク……」

 余裕の笑みを浮かべるタハルジャは、アルフォスの斬撃をあっさりとかわし、素早く背後に回り込んだ。

 「雷属性初級魔術ライトニングボール

 「うぅっ!」

 近距離から放たれた雷球を避けることができず、アルフォスは短くうめき声を洩らし、床に倒れる。

 「落ち着きなさい。なにも今すぐにアルフォス君を殺そうとは思ってはいないよ」

 「うるさい!」

 再び立ち上がり、振り返ってスモールソードを構える。

 (なっ!?)

 アルフォスの視界からタハルジャの姿が消えた。

 「睡眠魔術スリープ

 背後からタハルジャが魔術名を詠唱する声が聞こえた。途端に強烈な眠気が襲ってくる。

 「く……そ…」

 アルフォスはどうにか眠りに落ちずにいるが、少しでも気を抜けば眠ってしまいそうだ。

 「ほほぉ。わたしの睡眠魔術スリープを受けても眠らないとは驚いたよ。それほどまでにわたしへの恨みが強いということなのかな?」

 「だま……れ…」

 今すぐにでも飛びかかりたいのに眠気が邪魔をして動けない。

 「フフフフフ……。なぁに、心配は要らないよ。アルフォス君には暫く眠っていてもらうだけだ。だから、安心して眠りたまえ」

 「眠る……もん…か……」

 スモールソードを構えてはいるが、どうにも瞼が重く感じる。

 「アルフォス君も案外強情なんだな。しかし、これでどうかな?」

 タハルジャは一瞬のうちにアルフォスの目の前まで移動すると、睡眠魔術スリープを重ねてかけた。

 「……く…………そ…………」

 「ゆっくり休むといい。わたしは一足早くアルスフェルト城に戻っているからね。起きたらアルフォス君も来たまえ。待っているよ」

 遠退く意識の中、アルフォスはタハルジャの言葉を聞いていた。復讐を誓いながら……。
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