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1章 運命が動く建国祭
17話 魔神リュカリオン
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「…アルフォス……」
ルットは沈痛な面持ちでアルフォスを見ていた。
「ルット、俺は…」
「言い訳は見苦しいのではないかね、アルフォス君」
アルフォスの言葉を遮ってタハルジャが言う。
「タハルジャ!」
憎き相手を前にして怒りの感情を抑えきれず、飛び掛かる。
「火属性中級魔術!」
タハルジャを守るように立ちはだかったルットが放った炎の矢がアルフォスの右腕に命中する。
「うぁぁぁぁぁっ!!」
アルフォスの右腕はたちまち炎に包まれる。皮膚は焼けただれて激痛に襲われた。たまらずスモールソードを床に落とす。
フロア中にアルフォスの絶叫が響く。
「ルット……どうして!?」
苦痛に堪えながら親友を見る。ルットは哀しみをたたえた目でアルフォスを睨む。
「アルフォスよ、そなたら父子の陰謀ももはやこれまでだ。おとなしく極刑を受けるがいい」
ジルバーナは諭すように語りかける。
「俺は何もしてません!」
痛みに堪えながら懸命に無実を訴える。
「アルフォス君、もう諦めるんだ。この国に君の言うことに耳を傾ける者も、君の味方になる者もいない。君とウォレンは罪人なんだからね」
「俺と…父さんが……罪人?」
タハルジャの言っている意味がわからない。逆賊は目の前にいる宮廷魔術師だ。
「白々しいのではないかね?」
タハルジャが吐き捨てるように言った。
「黙れ! 俺も父さんも…何もしちゃいないんだ」
感覚が鈍くなり、動かなくなった右腕をダラリと垂らしながら立ち上がる。
「……メルティナ…」
最後の救いを求めるように、フラフラとした足取りでメルティナに歩み寄っていく。
「いや…来ないで……」
か細い声でメルティナが拒絶する。
「こっちに来ないで! お姉ちゃんに近づかないで!!」
ピファが片方の靴を投げつける。それにかまわず、アルフォスはメルティナに歩み寄る。
「来ないで…来ないで!!」
恐怖に抑えきれず、メルティナは隠し持っていたナイフを夢中で投げた。
「ぬぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
メルティナの手を離れたナイフはアルフォスの左目に刺さる。アルフォスは床を転げ回る。
信頼していた者たちから一斉に拒否され、完全に孤立してしまう。痛みと苦しみと悔しさが込み上げ、右目から涙が溢れ出す。タハルジャのみならず全ての者に対しての憎悪が止めどなく湧き上がってくる。
(もういい! もう、たくさんだ!! こんな国なんかどうなろうとかまわない。みんな、死んでしまえばいいんだ!!! もう…こんな世界で生きていたくない……。早く死んでしまいたい……)
「ジルバーナ様、この罪人にはこの場で死刑を執行すべきかと思われますが……」
全ての気力が消え失せ、うずくまったまま立ち上がろうともしないアルフォスを見下ろしながらジルバーナに進言するタハルジャ。
「そうだな。皆、異論はあるまいな?」
ジルバーナの問いかけに異を唱える者はいない。
「では、わたしが執行する! 覚悟したまえ!!」
タハルジャは魔力を練り上げる。
「火属性上級魔術!!」
タハルジャによって発射された炎の弾丸は床に当たり、燃え上がる。
「なっ!?」
タハルジャは困惑する。ついさっきまでうずくまっていたはずのアルフォスの姿が消えていた。
「人間とはこれほどまでに愚かな生き物なのか…」
いつの間にか部屋の奥にあるガラス扉が開け放たれていた。そして、そのさらに奥のテラスの手すりの上にアルフォスを抱き抱えた魔族が立っている。銀色の長髪が月光に美しく煌めき、夜風になびいていた。
「何者だ!?」
ジルバーナが問う。
「余の名はリュカリオン。デルモス山に封印されし魔神なり……」
魔神リュカリオンは静かな声で名乗る。
「そなたが、ウォレンが封印を解いたことで現れたという魔神だと申すか!?」
ジルバーナの問いかけにリュカリオンは鼻で笑う。
「あの男が余の封印を解いた、か。……まぁ、そんなことはどうでもよい。それよりも、この少年はもらっていくぞ」
「ま、待て! アルフォスをどこへ連れていくつもりだ!?」
ルットが魔力を練りながら訊く。
「ふっ…。貴様らに教えてやる義理などない」
「火属性中級魔術!」
ルットが攻撃魔術を撃つ。しかし、リュカリオンはアルフォスを抱いたままフワリと上昇し、難なく避けてしまう。飛空魔術だ。
「そう慌てるな。余の目的は、この少年を連れていくだけではない。人間に対して宣戦布告をする」
「宣戦布告じゃと!?」
ジルバーナは問い返す。
「そうだ。余は魔族を率いて人間と敵対することを宣言しよう。服従か滅亡か、好きな道を選択するがよい。この言葉を各国に伝えよ」
衝撃的な言葉を残し、リュカリオンは瞬間移動魔術を使い、姿を消した。
ルットは沈痛な面持ちでアルフォスを見ていた。
「ルット、俺は…」
「言い訳は見苦しいのではないかね、アルフォス君」
アルフォスの言葉を遮ってタハルジャが言う。
「タハルジャ!」
憎き相手を前にして怒りの感情を抑えきれず、飛び掛かる。
「火属性中級魔術!」
タハルジャを守るように立ちはだかったルットが放った炎の矢がアルフォスの右腕に命中する。
「うぁぁぁぁぁっ!!」
アルフォスの右腕はたちまち炎に包まれる。皮膚は焼けただれて激痛に襲われた。たまらずスモールソードを床に落とす。
フロア中にアルフォスの絶叫が響く。
「ルット……どうして!?」
苦痛に堪えながら親友を見る。ルットは哀しみをたたえた目でアルフォスを睨む。
「アルフォスよ、そなたら父子の陰謀ももはやこれまでだ。おとなしく極刑を受けるがいい」
ジルバーナは諭すように語りかける。
「俺は何もしてません!」
痛みに堪えながら懸命に無実を訴える。
「アルフォス君、もう諦めるんだ。この国に君の言うことに耳を傾ける者も、君の味方になる者もいない。君とウォレンは罪人なんだからね」
「俺と…父さんが……罪人?」
タハルジャの言っている意味がわからない。逆賊は目の前にいる宮廷魔術師だ。
「白々しいのではないかね?」
タハルジャが吐き捨てるように言った。
「黙れ! 俺も父さんも…何もしちゃいないんだ」
感覚が鈍くなり、動かなくなった右腕をダラリと垂らしながら立ち上がる。
「……メルティナ…」
最後の救いを求めるように、フラフラとした足取りでメルティナに歩み寄っていく。
「いや…来ないで……」
か細い声でメルティナが拒絶する。
「こっちに来ないで! お姉ちゃんに近づかないで!!」
ピファが片方の靴を投げつける。それにかまわず、アルフォスはメルティナに歩み寄る。
「来ないで…来ないで!!」
恐怖に抑えきれず、メルティナは隠し持っていたナイフを夢中で投げた。
「ぬぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
メルティナの手を離れたナイフはアルフォスの左目に刺さる。アルフォスは床を転げ回る。
信頼していた者たちから一斉に拒否され、完全に孤立してしまう。痛みと苦しみと悔しさが込み上げ、右目から涙が溢れ出す。タハルジャのみならず全ての者に対しての憎悪が止めどなく湧き上がってくる。
(もういい! もう、たくさんだ!! こんな国なんかどうなろうとかまわない。みんな、死んでしまえばいいんだ!!! もう…こんな世界で生きていたくない……。早く死んでしまいたい……)
「ジルバーナ様、この罪人にはこの場で死刑を執行すべきかと思われますが……」
全ての気力が消え失せ、うずくまったまま立ち上がろうともしないアルフォスを見下ろしながらジルバーナに進言するタハルジャ。
「そうだな。皆、異論はあるまいな?」
ジルバーナの問いかけに異を唱える者はいない。
「では、わたしが執行する! 覚悟したまえ!!」
タハルジャは魔力を練り上げる。
「火属性上級魔術!!」
タハルジャによって発射された炎の弾丸は床に当たり、燃え上がる。
「なっ!?」
タハルジャは困惑する。ついさっきまでうずくまっていたはずのアルフォスの姿が消えていた。
「人間とはこれほどまでに愚かな生き物なのか…」
いつの間にか部屋の奥にあるガラス扉が開け放たれていた。そして、そのさらに奥のテラスの手すりの上にアルフォスを抱き抱えた魔族が立っている。銀色の長髪が月光に美しく煌めき、夜風になびいていた。
「何者だ!?」
ジルバーナが問う。
「余の名はリュカリオン。デルモス山に封印されし魔神なり……」
魔神リュカリオンは静かな声で名乗る。
「そなたが、ウォレンが封印を解いたことで現れたという魔神だと申すか!?」
ジルバーナの問いかけにリュカリオンは鼻で笑う。
「あの男が余の封印を解いた、か。……まぁ、そんなことはどうでもよい。それよりも、この少年はもらっていくぞ」
「ま、待て! アルフォスをどこへ連れていくつもりだ!?」
ルットが魔力を練りながら訊く。
「ふっ…。貴様らに教えてやる義理などない」
「火属性中級魔術!」
ルットが攻撃魔術を撃つ。しかし、リュカリオンはアルフォスを抱いたままフワリと上昇し、難なく避けてしまう。飛空魔術だ。
「そう慌てるな。余の目的は、この少年を連れていくだけではない。人間に対して宣戦布告をする」
「宣戦布告じゃと!?」
ジルバーナは問い返す。
「そうだ。余は魔族を率いて人間と敵対することを宣言しよう。服従か滅亡か、好きな道を選択するがよい。この言葉を各国に伝えよ」
衝撃的な言葉を残し、リュカリオンは瞬間移動魔術を使い、姿を消した。
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