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1章 運命が動く建国祭
18話 魔眼と魔腕…新たな身体
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アルフォスの瞼がゆっくりと開く。
「ここはどこだ?」
豪奢な造りの部屋の寝台に寝かされている。
「気がついたか?」
傍らの椅子に腰かけていたリュカリオンが声をかける。
「あんたは?」
「余の名はリュカリオン。魔神リュカリオンである」
「魔神だと!?……ぐぁっ!」
アルフォスが飛び起きようと身体を動かした刹那、全身を激しい痛みがはしる。
「無理はするな。余はそなたに対して敵意はない。今はゆっくりと身体を癒すのだ」
「何が目的だ!?」
アルフォスは警戒心をあらわにしながら訊く。
「目的、か。余の目的は人間どもに天誅を下すことだ」
「天誅?」
リュカリオンは首肯する。
「長い歴史の中、人間どもは愚行は繰り返してきた。余はそれを止めたいのだ。アルフォスといったな。おまえをそのような身体にしたのも人間なのだぞ?」
リュカリオンは壁に設置されている鏡を指差す。
「これ…は!?」
鏡に映っていたのは真紅の左目と漆黒の右腕を持つ生物であった。
「これが……俺…なのか?……」
ショックを隠せない様子でアルフォスはフラフラと鏡に近づく。
「勝手なことをしてすまぬ……」
リュカリオンが詫びるが、アルフォスは絶句したままだ。
「その左目と右腕はおまえにとって力となろう」
「……力?……」
アルフォスの双眸に光が宿る。
「左目の魔眼は対象の動きを停止させ、右腕の魔腕は対象の生命力を奪う力がある。ただし、どちらも宿主より格上相手には大きな効果は望めぬがな。さらに、一度使えば24時間は使用不能となる。アルフォスよ、その力で何をする?」
「俺は復讐がしたい!……タハルジャもルットもジルバーナもピファも…………メルティナも! 全員を殺し、ラミーネル王国を滅亡させたい!」
激しい憎悪が胸の内から沸き上がってくるのを感じて叫ぶ。
「そうか。ならば余の軍勢に入らぬか?」
「……俺は俺個人としてラミーネルと戦う」
アルフォスはリュカリオンからの誘いをきっぱりと断る。
「アルフォスがそれを望むなら、それもよかろう。ならば、余と取引をせぬか?」
「取引?」
アルフォスは眉をひそめる。
「そうだ。余はアルフォスの復讐が果たせるようにサポートしよう。無論、ラミーネル王国と直接戦うのはおまえに任せる」
「……代わりに俺に何をさせるつもりだ?」
「アルフォスが復讐を果たすまでの間、余たちに協力してもらいたい」
「それは、人間の国を滅ぼすために協力しろということか?」
「そうなるな。だが、アルフォスにとっても悪い話ではあるまい? その新たな身体に慣れるにはいい運動になるだろう」
リュカリオンは肯定し、言葉を続けた。
「わかった」
暫くの沈黙のあと、アルフォスは承諾を決意する。
「ならば、その箱に入っている物を渡しておこう。元々おまえが持つべき物であろう」
言われて、床に置かれていた箱に気がつく。
「これは!」
箱の中を確認したアルフォスは声をあげ、中身を取り出す。
「父さんの…剣……」
ウォレンが愛用していたクレイモアを鞘から抜く。刀身が光を反射して輝きを放っている。
「おまえの父が使っていた物を回収し、手入れもしておいた」
「……母さんは! 母さんはどうしてる!?」
アルフォスは脳裏に浮かんだ疑問をぶつける。
「……あの夜……アルフォスをここに運んできた夜……、余はそなたの母のことを知らなかったのだ。そなたは混濁する意識のなかで母を呼び続けた。余はすぐにクラッツェルンに引き返したのだが間に合わなかった……。あの時、余がそなたの母のことにまで気を回しておれば、あるいは……。本当に申し訳ない。どうか赦してほしい」
リュカリオンは頭を下げて謝罪する。
「どうして、俺のためにそこまでしてくれる?」
アルフォスはリュカリオンを凝視する。
「ふっ……。余はアルフォスを気に入っている。それだけだ。他意はない」
微笑みを返すリュカリオンは偽りを言っているようには思えなかった。
「……感謝するよ……」
クレイモアを鞘に納め、今度はアルフォスが頭を下げる。
「かまわぬ。これから共闘していく者にこれくらいはしておかねばな」
「この借りは今後の活躍で返してみせる」
宣言するアルフォスの目には、人間と敵対することに対しての迷いは一切なかった。
「期待しているぞ」
差し伸べられたリュカリオンの手を力強く握り返すアルフォス。
こうして、アルフォスは人間の敵として戦いの道を歩んだ。それは祖国滅亡へ向けての第一歩であった……。
~1章 運命が動く建国祭 完~
「ここはどこだ?」
豪奢な造りの部屋の寝台に寝かされている。
「気がついたか?」
傍らの椅子に腰かけていたリュカリオンが声をかける。
「あんたは?」
「余の名はリュカリオン。魔神リュカリオンである」
「魔神だと!?……ぐぁっ!」
アルフォスが飛び起きようと身体を動かした刹那、全身を激しい痛みがはしる。
「無理はするな。余はそなたに対して敵意はない。今はゆっくりと身体を癒すのだ」
「何が目的だ!?」
アルフォスは警戒心をあらわにしながら訊く。
「目的、か。余の目的は人間どもに天誅を下すことだ」
「天誅?」
リュカリオンは首肯する。
「長い歴史の中、人間どもは愚行は繰り返してきた。余はそれを止めたいのだ。アルフォスといったな。おまえをそのような身体にしたのも人間なのだぞ?」
リュカリオンは壁に設置されている鏡を指差す。
「これ…は!?」
鏡に映っていたのは真紅の左目と漆黒の右腕を持つ生物であった。
「これが……俺…なのか?……」
ショックを隠せない様子でアルフォスはフラフラと鏡に近づく。
「勝手なことをしてすまぬ……」
リュカリオンが詫びるが、アルフォスは絶句したままだ。
「その左目と右腕はおまえにとって力となろう」
「……力?……」
アルフォスの双眸に光が宿る。
「左目の魔眼は対象の動きを停止させ、右腕の魔腕は対象の生命力を奪う力がある。ただし、どちらも宿主より格上相手には大きな効果は望めぬがな。さらに、一度使えば24時間は使用不能となる。アルフォスよ、その力で何をする?」
「俺は復讐がしたい!……タハルジャもルットもジルバーナもピファも…………メルティナも! 全員を殺し、ラミーネル王国を滅亡させたい!」
激しい憎悪が胸の内から沸き上がってくるのを感じて叫ぶ。
「そうか。ならば余の軍勢に入らぬか?」
「……俺は俺個人としてラミーネルと戦う」
アルフォスはリュカリオンからの誘いをきっぱりと断る。
「アルフォスがそれを望むなら、それもよかろう。ならば、余と取引をせぬか?」
「取引?」
アルフォスは眉をひそめる。
「そうだ。余はアルフォスの復讐が果たせるようにサポートしよう。無論、ラミーネル王国と直接戦うのはおまえに任せる」
「……代わりに俺に何をさせるつもりだ?」
「アルフォスが復讐を果たすまでの間、余たちに協力してもらいたい」
「それは、人間の国を滅ぼすために協力しろということか?」
「そうなるな。だが、アルフォスにとっても悪い話ではあるまい? その新たな身体に慣れるにはいい運動になるだろう」
リュカリオンは肯定し、言葉を続けた。
「わかった」
暫くの沈黙のあと、アルフォスは承諾を決意する。
「ならば、その箱に入っている物を渡しておこう。元々おまえが持つべき物であろう」
言われて、床に置かれていた箱に気がつく。
「これは!」
箱の中を確認したアルフォスは声をあげ、中身を取り出す。
「父さんの…剣……」
ウォレンが愛用していたクレイモアを鞘から抜く。刀身が光を反射して輝きを放っている。
「おまえの父が使っていた物を回収し、手入れもしておいた」
「……母さんは! 母さんはどうしてる!?」
アルフォスは脳裏に浮かんだ疑問をぶつける。
「……あの夜……アルフォスをここに運んできた夜……、余はそなたの母のことを知らなかったのだ。そなたは混濁する意識のなかで母を呼び続けた。余はすぐにクラッツェルンに引き返したのだが間に合わなかった……。あの時、余がそなたの母のことにまで気を回しておれば、あるいは……。本当に申し訳ない。どうか赦してほしい」
リュカリオンは頭を下げて謝罪する。
「どうして、俺のためにそこまでしてくれる?」
アルフォスはリュカリオンを凝視する。
「ふっ……。余はアルフォスを気に入っている。それだけだ。他意はない」
微笑みを返すリュカリオンは偽りを言っているようには思えなかった。
「……感謝するよ……」
クレイモアを鞘に納め、今度はアルフォスが頭を下げる。
「かまわぬ。これから共闘していく者にこれくらいはしておかねばな」
「この借りは今後の活躍で返してみせる」
宣言するアルフォスの目には、人間と敵対することに対しての迷いは一切なかった。
「期待しているぞ」
差し伸べられたリュカリオンの手を力強く握り返すアルフォス。
こうして、アルフォスは人間の敵として戦いの道を歩んだ。それは祖国滅亡へ向けての第一歩であった……。
~1章 運命が動く建国祭 完~
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