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2章 魔剣カラドボルグ
19話 数年後……
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魔神リュカリオンの居城バルスヴェイル。
リュカリオンがアルスフェルト城からアルフォスを救出し、自らの居城に住まわせるようになって数年の月日が流れていた。少年だったアルフォスもいまや青年に育っている。
現在、彼はリュカリオンの右腕として魔族と敵対関係にある諸国を攻めている。しかし、それは正式に魔族軍に所属する将軍といったものではなく、あくまでも魔族に対する協力者という位置付けであった。
寝室に呼び出されたアルフォスの前には椅子に腰を沈めたリュカリオンがいる。
「マラグッタを攻め落としたそうだな。ご苦労であった」
涼やかな声でアルフォスの労をねぎらう。
「大したことのない国だ」
アルフォスはどうでもいいことのように言う。
「敵国のひとつを滅ぼしたのだぞ。少しは喜んでもよいと思うがな」
「あの程度の国も落とせないようなら、ラミーネル王国を落とすなど不可能だ」
アルフォスの目に復讐の炎が宿る。
「そうだったな。故郷であるラミーネル王国を滅ぼすことこそがおまえの悲願であったか……」
リュカリオンは静かに両瞼を閉じる。
「それで、労をねぎらうためだけに呼びつけたわけじゃないんだろ?」
アルフォスは、さっさと本題を話せと言わんばかりだ。
「フフフフフ……。相変わらずつれないな、アルフォスは。余はおまえを気に入っているのだぞ? もう少し馴れ合ってくれてもかまわぬのではないか?」
アルフォスはため息を吐く。
「そういうのが苦手なのはリュカリオンも知っているだろ」
「もちろん承知している。だがな、おまえをこの城に住まわせるようになって幾年目であろうか。その間もこうして話し相手になってもらっておるのだ。そろそろ余だけにでも慣れてくれてもよさそうなものだぞ?」
再びため息を吐くアルフォス。
「わかった、わかった。今度、改めて話し相手になってやるよ……」
「おお、そうか。それは楽しみだ」
リュカリオンは満足したように笑みを浮かべる。
「それで、いい加減に本題に入ってくれないか? 用がないなら俺は失礼するが?」
「まったく、せっかちなことだな……。しかたあるまい。本題に入るとしよう」
やっとか…といった雰囲気を醸し出しながらもアルフォスはリュカリオンの言葉に耳を傾ける。
「アルフォスよ、おまえに攻めてもらいたい場所があるのだ」
「そんなことか。リュカリオンには返しきれないほどの借りがある。次はどの国を攻める?」
アルフォスが快諾する。
「まぁ、待て。今回攻めてもらうのは国ではない。グリードという名の村だ」
「村…だと?」
怪訝な表情を見せるアルフォス。これまで幾つもの国を落としてきたのだ。今さら村ひとつを落とさせるとはどういうことなのだろうか。
「村といっても油断はせぬようにな。下手な国を相手取るより厳しいぞ」
(一国を相手取るより手強い村だと?)
にわかには信じがたい話だ。しかし、リュカリオンが冗談や脅しを言っている感じはしない。
「……その村に何があるんだ? あんたが何もない村を無意味に襲わせるとは思えない」
「ふむ…。この村からある物を持ち帰ってもらいたい」
「ある物?」
聞き返すアルフォスにリュカリオンは首肯する。
「そのある物とは、魔剣カラドボルグだ」
「魔剣カラドボルグ!? あの、伝説の?」
「そうだ。ただし、さっきも言ったように楽には手に入らんぞ。グリード村は魔剣カラドボルグを守るために存在する村だ。そして、ここに住まう者たちは守護者と呼ばれる猛者……。いかにアルフォスでも油断すれば無事ではすまぬであろう。充分に気をつけることだ」
リュカリオンの言葉に気を引き締める。
「了解だ。グリード村はどこにある?」
「場所、か。それは自分で調べるのだな。……心配するな。場所を特定できれば余自ら転送してやろう」
「わかった。じゃあな…」
話が終わり、アルフォスは踵を返し、リュカリオンの寝室をあとにした。
リュカリオンがアルスフェルト城からアルフォスを救出し、自らの居城に住まわせるようになって数年の月日が流れていた。少年だったアルフォスもいまや青年に育っている。
現在、彼はリュカリオンの右腕として魔族と敵対関係にある諸国を攻めている。しかし、それは正式に魔族軍に所属する将軍といったものではなく、あくまでも魔族に対する協力者という位置付けであった。
寝室に呼び出されたアルフォスの前には椅子に腰を沈めたリュカリオンがいる。
「マラグッタを攻め落としたそうだな。ご苦労であった」
涼やかな声でアルフォスの労をねぎらう。
「大したことのない国だ」
アルフォスはどうでもいいことのように言う。
「敵国のひとつを滅ぼしたのだぞ。少しは喜んでもよいと思うがな」
「あの程度の国も落とせないようなら、ラミーネル王国を落とすなど不可能だ」
アルフォスの目に復讐の炎が宿る。
「そうだったな。故郷であるラミーネル王国を滅ぼすことこそがおまえの悲願であったか……」
リュカリオンは静かに両瞼を閉じる。
「それで、労をねぎらうためだけに呼びつけたわけじゃないんだろ?」
アルフォスは、さっさと本題を話せと言わんばかりだ。
「フフフフフ……。相変わらずつれないな、アルフォスは。余はおまえを気に入っているのだぞ? もう少し馴れ合ってくれてもかまわぬのではないか?」
アルフォスはため息を吐く。
「そういうのが苦手なのはリュカリオンも知っているだろ」
「もちろん承知している。だがな、おまえをこの城に住まわせるようになって幾年目であろうか。その間もこうして話し相手になってもらっておるのだ。そろそろ余だけにでも慣れてくれてもよさそうなものだぞ?」
再びため息を吐くアルフォス。
「わかった、わかった。今度、改めて話し相手になってやるよ……」
「おお、そうか。それは楽しみだ」
リュカリオンは満足したように笑みを浮かべる。
「それで、いい加減に本題に入ってくれないか? 用がないなら俺は失礼するが?」
「まったく、せっかちなことだな……。しかたあるまい。本題に入るとしよう」
やっとか…といった雰囲気を醸し出しながらもアルフォスはリュカリオンの言葉に耳を傾ける。
「アルフォスよ、おまえに攻めてもらいたい場所があるのだ」
「そんなことか。リュカリオンには返しきれないほどの借りがある。次はどの国を攻める?」
アルフォスが快諾する。
「まぁ、待て。今回攻めてもらうのは国ではない。グリードという名の村だ」
「村…だと?」
怪訝な表情を見せるアルフォス。これまで幾つもの国を落としてきたのだ。今さら村ひとつを落とさせるとはどういうことなのだろうか。
「村といっても油断はせぬようにな。下手な国を相手取るより厳しいぞ」
(一国を相手取るより手強い村だと?)
にわかには信じがたい話だ。しかし、リュカリオンが冗談や脅しを言っている感じはしない。
「……その村に何があるんだ? あんたが何もない村を無意味に襲わせるとは思えない」
「ふむ…。この村からある物を持ち帰ってもらいたい」
「ある物?」
聞き返すアルフォスにリュカリオンは首肯する。
「そのある物とは、魔剣カラドボルグだ」
「魔剣カラドボルグ!? あの、伝説の?」
「そうだ。ただし、さっきも言ったように楽には手に入らんぞ。グリード村は魔剣カラドボルグを守るために存在する村だ。そして、ここに住まう者たちは守護者と呼ばれる猛者……。いかにアルフォスでも油断すれば無事ではすまぬであろう。充分に気をつけることだ」
リュカリオンの言葉に気を引き締める。
「了解だ。グリード村はどこにある?」
「場所、か。それは自分で調べるのだな。……心配するな。場所を特定できれば余自ら転送してやろう」
「わかった。じゃあな…」
話が終わり、アルフォスは踵を返し、リュカリオンの寝室をあとにした。
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