33 / 75
2章 魔剣カラドボルグ
32話 異世界の崩壊
しおりを挟む
絶叫のあと、守護王は仰向けに倒れる。
「アルフォス様!?」
アルフォスの身を案じたセラが駆け寄ってくる。だが、セラ自身も魔力の枯渇により激しい倦怠感に襲われていた。
「大丈夫だ。問題ない…」
アルフォスは全身の痛みを堪えて背中の鞘にクレイモアを納め、答える。
「なに…しやがっ…た…」
セラの火属性最上級魔術を受けて倒れた守護王が苦しげに訊く。
「あら、まだ生きていたとは驚きですわ。あなたが動けなかったのはアルフォス様の魔眼の力ですわ」
「魔眼…だと?……」
「そうですわ。リュカリオン様より授かったアルフォス様の力ですわ! ……アルフォス様、そろそろこの者にとどめを……」
「必要ない。放っておいても暫くは動くこともないだろ。それよりも、さっさと魔剣カラドボルグを手に入れるぞ」
アルフォスは守護王にとどめを刺さず、フロア奥の階段に向かって移動する。
「…命拾いしましたわね」
言い置いて、セラもそのあとに続いた。
◎
階段を上り、台座に置かれた魔剣を手に取る。
「これがアルフォス様の魔剣ですのね…」
隣でセラがカラドボルグを見つめる。
「俺のじゃない。リュカリオンのだ」
アルフォスは否定すると踵を返し、何もない空中を見る。
「リュカリオン! 魔剣は手に入れたぞ!!」
だが、返事はない。
(妙だな。この異世界へは入るのも出るのも創造主であるリュカリオンでなければ転送できないはずだが……)
「おかしいですわね……」
怪訝な表情を見せるアルフォスの隣では、同じことをことも思っていたセラが呟く。
ゴゴゴゴゴゴゴ……
突然、フロア全体が大きく揺らいだ。
「地震ですの!?」
セラは驚き辺りを見回す。揺れは激しく洞窟の壁にも大きな亀裂が入り、天井からはパラパラと細かな破片が落ちてくる。このままでは崩れるのも時間の問題だろう。
「ここを離れるぞ!」
アルフォスはセラに声をかけ、階段を駆け下りた。その時、フロアの唯一の出入口が崩れ落ちた。
「これはちょっとピンチですわね……」
セラが不安を口にする。
「ククククククク……。てめぇら、リュカリオンから見捨てられたみてぇだな?」
「なんですって?」
セラが守護王を睨む。だが、守護王は一切怯むことはなかった。
「そうじゃねぇか。魔剣を手に入れるためにてめぇらをここに転送したのはリュカリオンなんだろう? ……だが、目的を達してもリュカリオンは何もしねぇ。それどころか、この世界を崩壊させるつもりときた。……つまり、やつは魔剣を餌にてめぇらを送り込み、逃げ場がなくなったところをこの世界ごと消し去るつもりだったってわけさ」
「黙りなさい! リュカリオン様はそのようなお方ではありませんわ!!」
セラは怒りをあらわに反論する。
「だったら、この絶望的な状況はどう説明するんだ? てめぇらの呼び掛けには答えない、異世界は崩壊してるんだぜ?」
「それは……」
セラが口ごもる。
「それくらいにしておけ。リュカリオンの真意をこんな所で論じてもしかたないだろ。そんな暇があるなら脱出法を考えるべきだ」
(さて、どうする。この異空間はリュカリオンの魔力によって創造されたもの。創造主であるリュカリオン自身なら容易に行き来できるが……)
「わたくしの現在の魔力では空間を裂くことは無理ですわ…」
「空間を裂く?」
セラの言葉のアルフォスが反応する。
「そうですわ。このような造られた空間では強力な魔力によって空間を裂き、そこから脱出することができますの。しかし、現時点のわたくしではそれほどの魔力は……」
セラは説明し、声のトーンを落とす。
(魔剣カラドボルグには強大な魔力が宿っているはず……)
アルフォスは一筋の光明を見いだし、カラドボルグを鞘から抜き放った。紅く煌めく美しい剣身があらわれる。
「アルフォス様!?」
セラが驚きの声をあげる。アルフォスは瞼を閉じて精神を研ぎ澄ませる。
(魔剣カラドボルグ! 俺にその力を貸せ!!)
アルフォスが右手で魔剣カラドボルグを一閃する。凄まじい雷撃が迸り、空間が揺らぐ。次の瞬間、それまで何もなかったはずの空中に黒い穴が出現した。
「飛び込むぞ!」
アルフォスは魔剣を鞘に納めてセラに声をかけ、手を差し伸べる。もはや一刻の猶予もない。セラはアルフォスの手を取る。
「ま…待ってくれ! オレも連れていってくれ!! 頼む!!!」
ヨロヨロと立ち上がった守護王が手を伸ばす。
アルフォスは迷いなくその手を取ると、開いた黒い穴に飛び込んだ。3人の姿は穴に吸い込まれるように消えていった……。
「アルフォス様!?」
アルフォスの身を案じたセラが駆け寄ってくる。だが、セラ自身も魔力の枯渇により激しい倦怠感に襲われていた。
「大丈夫だ。問題ない…」
アルフォスは全身の痛みを堪えて背中の鞘にクレイモアを納め、答える。
「なに…しやがっ…た…」
セラの火属性最上級魔術を受けて倒れた守護王が苦しげに訊く。
「あら、まだ生きていたとは驚きですわ。あなたが動けなかったのはアルフォス様の魔眼の力ですわ」
「魔眼…だと?……」
「そうですわ。リュカリオン様より授かったアルフォス様の力ですわ! ……アルフォス様、そろそろこの者にとどめを……」
「必要ない。放っておいても暫くは動くこともないだろ。それよりも、さっさと魔剣カラドボルグを手に入れるぞ」
アルフォスは守護王にとどめを刺さず、フロア奥の階段に向かって移動する。
「…命拾いしましたわね」
言い置いて、セラもそのあとに続いた。
◎
階段を上り、台座に置かれた魔剣を手に取る。
「これがアルフォス様の魔剣ですのね…」
隣でセラがカラドボルグを見つめる。
「俺のじゃない。リュカリオンのだ」
アルフォスは否定すると踵を返し、何もない空中を見る。
「リュカリオン! 魔剣は手に入れたぞ!!」
だが、返事はない。
(妙だな。この異世界へは入るのも出るのも創造主であるリュカリオンでなければ転送できないはずだが……)
「おかしいですわね……」
怪訝な表情を見せるアルフォスの隣では、同じことをことも思っていたセラが呟く。
ゴゴゴゴゴゴゴ……
突然、フロア全体が大きく揺らいだ。
「地震ですの!?」
セラは驚き辺りを見回す。揺れは激しく洞窟の壁にも大きな亀裂が入り、天井からはパラパラと細かな破片が落ちてくる。このままでは崩れるのも時間の問題だろう。
「ここを離れるぞ!」
アルフォスはセラに声をかけ、階段を駆け下りた。その時、フロアの唯一の出入口が崩れ落ちた。
「これはちょっとピンチですわね……」
セラが不安を口にする。
「ククククククク……。てめぇら、リュカリオンから見捨てられたみてぇだな?」
「なんですって?」
セラが守護王を睨む。だが、守護王は一切怯むことはなかった。
「そうじゃねぇか。魔剣を手に入れるためにてめぇらをここに転送したのはリュカリオンなんだろう? ……だが、目的を達してもリュカリオンは何もしねぇ。それどころか、この世界を崩壊させるつもりときた。……つまり、やつは魔剣を餌にてめぇらを送り込み、逃げ場がなくなったところをこの世界ごと消し去るつもりだったってわけさ」
「黙りなさい! リュカリオン様はそのようなお方ではありませんわ!!」
セラは怒りをあらわに反論する。
「だったら、この絶望的な状況はどう説明するんだ? てめぇらの呼び掛けには答えない、異世界は崩壊してるんだぜ?」
「それは……」
セラが口ごもる。
「それくらいにしておけ。リュカリオンの真意をこんな所で論じてもしかたないだろ。そんな暇があるなら脱出法を考えるべきだ」
(さて、どうする。この異空間はリュカリオンの魔力によって創造されたもの。創造主であるリュカリオン自身なら容易に行き来できるが……)
「わたくしの現在の魔力では空間を裂くことは無理ですわ…」
「空間を裂く?」
セラの言葉のアルフォスが反応する。
「そうですわ。このような造られた空間では強力な魔力によって空間を裂き、そこから脱出することができますの。しかし、現時点のわたくしではそれほどの魔力は……」
セラは説明し、声のトーンを落とす。
(魔剣カラドボルグには強大な魔力が宿っているはず……)
アルフォスは一筋の光明を見いだし、カラドボルグを鞘から抜き放った。紅く煌めく美しい剣身があらわれる。
「アルフォス様!?」
セラが驚きの声をあげる。アルフォスは瞼を閉じて精神を研ぎ澄ませる。
(魔剣カラドボルグ! 俺にその力を貸せ!!)
アルフォスが右手で魔剣カラドボルグを一閃する。凄まじい雷撃が迸り、空間が揺らぐ。次の瞬間、それまで何もなかったはずの空中に黒い穴が出現した。
「飛び込むぞ!」
アルフォスは魔剣を鞘に納めてセラに声をかけ、手を差し伸べる。もはや一刻の猶予もない。セラはアルフォスの手を取る。
「ま…待ってくれ! オレも連れていってくれ!! 頼む!!!」
ヨロヨロと立ち上がった守護王が手を伸ばす。
アルフォスは迷いなくその手を取ると、開いた黒い穴に飛び込んだ。3人の姿は穴に吸い込まれるように消えていった……。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる