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2章 魔剣カラドボルグ

34話 魔剣の使い手

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 コンコン…

 リュカリオンの部屋の扉をノックする。

 「アルフォスか。入ってくるがよい」

 中から聞こえてきた声に従って扉を開ける。声の主リュカリオンはいつものように椅子に腰を落ち着かせていた。

 「うぉぉぉぉぉ!!」

 創造主の姿を見た瞬間、弾かれたように守護王ガーディアン・ロードは室内に飛び込み、リュカリオンの美しく端正な顔面に向けてメイスを振るった。

 ブンッ

 メイスが虚空を裂く音だけが静かな部屋に鳴る。

 「ちぃ!」

 ブンッ…ブンッ…ブンッ…ブンッ……

 不意打ちをあっさりとかわされた守護王ガーディアン・ロードは続け様に幾度もメイスを振りかざすが、リュカリオンは涼やかな顔で避け、掠りもしない。

 守護王ガーディアン・ロードが不意打ちをすることも、リュカリオンが全て避けきることも、予想していたアルフォスは慌てる様子もなく部屋に入ると扉を閉める。

 「……く…そ……」

 守護王ガーディアン・ロードは息づかいも荒く、悔しさを滲ませている。

 「守護王ガーディアン・ロードよ、少しは落ち着いたかね?」

 肩で息をする守護王ガーディアン・ロードの傍らでリュカリオンが静かに問う。

 「ぬうぉぉ!」

 守護王ガーディアン・ロードは渾身の力でメイスを一閃する。

 ブゥゥンッ

 守護王ガーディアン・ロードの全てを込めた一撃も空を裂く。跳躍してかわしたリュカリオンがフワリと着地する。

 (ちくしょう……。やつに攻撃が当たる気が全くしねぇ……)

 守護王ガーディアン・ロードは、リュカリオンに一撃を加えることを諦めざるを得なかった。

 「ふむ。どうやら気が済んだようだな。では、話を訊こうか」

 リュカリオンは再び椅子な腰を落ち着かせる。



 「てめぇ、オレを異世界に閉じ込めて魔剣を護らせ続けたのはどういうことだ! オレをそれだけのために創造したのか!?」

 棚から酒瓶とグラスを3つ取り出し、それぞれに酒を注ぎ入れるリュカリオンに守護王ガーディアン・ロードが語気を荒げて訊く。

 「おまえの怒りはもっともだが、おまえを創造したのは魔剣カラドボルグを護らせることだけが目的ではない」

 「だったら、なんのためだってんだ! 今すぐ答えろ!!」

 守護王ガーディアン・ロードは怒鳴る。

 「主な理由は2つ。1つはカラドボルグを持つに相応しい者が現れるまで魔剣を護ってもらうため。そのためにはあの女から干渉されることのない場所に魔剣カラドボルグと共に移ってもらう必要があったのだ」

 「つまり、魔剣カラドボルグを光の女神から隠すために異世界を造り、守護王ガーディアン・ロードとガーディアンを住まわせ、護らせることにした……ということか」

 リュカリオンはアルフォスの言葉に首肯する。

 「2つ目の理由。それは魔剣カラドボルグの主が現れたなら、その者を護らせるためだ」

 「どういうことだ!?」

 守護王ガーディアン・ロードはリュカリオンを睨む。当然だった。長い年月を異世界に閉じ込められ、ようやく解放されたと思ったら、今度は魔剣の主を護らされるとなれば黙ってはいられない。

 「全てはある大いなる目的を達成するため……」

 「大いなる目的?」

 今度はアルフォスが訊く。

 「それはいずれ話すとしよう……」

 「てめぇ!」

 守護王ガーディアン・ロードは納得できず感情をむき出しにする。だが、リュカリオンに話す気がないのは感じ取ることができる。そして、自分には口を割らせる実力もないことも理解していた。

 「では、異世界が崩壊した件についてはどうだ?」

 「ふむ…。あれは余も予測していなかった」

 「ということは、何者かの仕業か?」

 「何者かというより、余が創造した異世界を崩壊させられる者は一人しかおらぬだろうがな」

 「光の女神か……」

 「うむ。あの時、アルフォスの呼び掛けに応じてこちらの世界に引き戻そうとしたのだが、強力な魔力によって阻害されてしまったのだ。だが、アルフォスの活躍は知っておるぞ。おまえたちが異世界でどんな行動していたかは映像として見ておったからな」

 言って、机の片隅に置かれた水晶玉を指し示す。

 「冷静な思考と判断力、そして魔剣の魔力を引き出した能力……。実に見事であったぞ」

 「たまたまだ。次もうまくいくとは限らない」

 カラドボルグを差し出すアルフォスに、リュカリオンは微笑する。

 「たまたまで魔剣を扱えるものではない。おまえは紛れもなく魔剣の使い手だ。よって、その剣はアルフォスにやろうではないか。元よりそのつもりであったが…」

 「魔剣を…俺に?……」

 「うむ。ただし、魔剣を振るうのは必ず右腕で扱わねばならんぞ。人間の腕では扱えぬからな」

 「……わかった」

 アルフォスは、強大な魔力を有する魔剣の使い手となることに対しての重圧を感じつつも受け入れた。
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