武装聖剣アヌスカリバー

月江堂

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第2章 冒険者達

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「今度こそ私のこと呼びましたよね?」
 
 来やがった。
 
「呼んでねーよ、帰れ」
「いや、呼んだ」
 
 む、アスタロウの奴、このイカレ女を呼んでいったい何をしようってんだ。チュートリアルくらいしかできないぞこの女は。
 
「イリユース、お主のチュートリアルの力が必要だ。勇者に、冒険者の何たるかを教えてやれ」
 
 その言葉と共にイリユースがにんまりといやらしい笑みを浮かべる。
 



 
 なんだと? どういうことだ? この俺にチュートリアルが必要だと? 俺は間違ったことは言ってないはずだ。
 
 そもそも魔王軍の侵攻を止めるため真っ直ぐ魔国に向かい、所在のしれない魔王城の場所を突き止める。そして最短で魔王を倒してアルトーレ王国と魔族の戦争を止めるのが急務のはず。それ以外のことなどいずれも些事に過ぎん。
 
 途中立ち寄った町が悪徳領主に苦しめられてる? 知らねえよ。自分でどうにかしろよ。
 
 領主が豹変したのがダンジョンの発見時期と重なる? だから何だよ。偶然だろ。
 
 ここでもたもたしてればそれだけこの世界に平和をもたらすのが遅れるという事になるんだ。それまでに人が死んだらそいつが運が悪かっただけだって言いきれるのか? 勇者が変なところで油売ってなければ助けられたのにとか絶対言わねえだろうな?
 
 はっきりと言う。俺は何一つ間違ってはいない。
 
「それでは、チュートリアルを開始します」
 
 しかしそんな俺の言葉を一顧だにすることなくイリユースはチュートリアルを開始する。つよい。
 
 こいつは基本的に人の話というものを一切聞かない。こいつこそが魔王なのではないだろうか。
 
「まずは冒険者ギルドの掲示板を見てみましょう。ここに冒険者に解決してもらいたい依頼が張り出されています」
 
 と、言われてもなあ。
 
 俺この世界の文字読めねえから何が書いてあんのか一切分かんねえんだけど。掲示板には無数に釘が差してあり、その釘には所狭しと何やら文字らしきものが書かれた木札がぶら下げられている。
 
 掲示板の前に立って、顎をさすりながらぼうっと掲示板を眺めてはみるものの、何が書いてあるのか分からないから選びようがない。チュートリアルさん、どうすればいいの?
 
「今回はチュートリアルとしてとりあえずこちらの依頼額が一番少ない……」
「右下」
「こちらの右下の依頼を受注しましょう」
 
 おい誘導すんじゃねえよガロン。それ全然一番安い依頼じゃないだろう。数字は読めないがそれ他のと比べても桁が一つ違って高いじゃねえか。
 
 しかし突っ込む間もなくイリユースは俺の手の中に無理やり木札を押し込んでくる。ホントぐいぐい来るなコイツ。
 
「では、受注する依頼が決まったら受付のミンティアさんに依頼の受注を伝えに行きます」
 
 言われるがままに受付に移動する俺。これチュートリアルっていうかオリエンテーションじゃない?
 
 抵抗してもいいが、ぶっちゃけて言ってそんなことしても無駄だ。イリユースは基本的に人の話を聞かないし、物理的に抵抗しても今はガロンにヒュー、そしてアスタロウまでが俺の行動を矯正してくる。
 
 何なのこれ? 勇者ってこういうもんなの? なんか違くない? 百歩譲って勇者はこういうものだとしても冒険者は違うよね? 冒険者って自分の道は自分で決める、もっと自由な生き物でしょう? ぼかぁこういうのちょっと良くないと思うなぁ。
 
「なんと! 依頼者はこの町の領主フェルネッド伯エルシラの妻、フェンネさんのようですね」
 
 ほうほう、そう来ましたか。
 
 イリユースがサッと手を上げると、ギルドの職員が窓を閉め、辺りは薄暗くなった。イリユースは誰かに渡された手紙のようなものを読み始める。
 
「あの日から、私の夫、エルシラはまるで人が変わったようになってしまいました……」
 
 これアレか。回想シーンとか入るところか。
 
「そう、まるで人が変わってしまったように。全ては、あのダンジョンが町の近くに出現したことがきっかけだったように思えてならないのです。勇者様、どうか、どうか夫の身に何が起こったのかを突き止めてください」
 
 名指しかよ。強制イベントかこれ。
 
 イリユースが手紙を読み終えると職員が窓を開け放って外の光が取り入れられた。
 
「あのさあ……」
 
 口を開きかけたものの、俺は二の句を告げることができなかった。これホントになんなん? ギルドぐるみで俺にやらせようとしてるってこと? 俺はしがないフクロネズミ級の冒険者なんですけど?
 
「勇者様、クエストの基本は情報収集です。先ずは酒場で情報を集めましょう!」
 
 で、この女はなんでこんなノリノリなんだよ腹立つなあ。
 
「そういえば……」
 
 何から突っ込もうかと俺が思案していると、特に話しかけたわけでもない隣のテーブルにいたおっさんがおもむろに口を開いた。
 
「魔物の中には、人間そっくりに化ける『ドッペルゲンガー』っていう厄介な奴がいるらしいぜ」
 
 特に視線を合わせるでもなく、調子を合わせて話をするでもなく、俺はおっさんをスルーする。何故なら俺はこのおっさんに話しかけたわけじゃないからだ。今のはこのおっさんの独り言だ。
 
 すると、今度は反対側の席に座っていた妙齢のおねえさんが、またも話しかけてもいないのに喋り始める。
 
「私、この間ダンジョンの近くで歩いてる骸骨を見たのよね……四天王の一人にリッチがいるって聞いたことあるけど、もしかして……?」
 
 至れり尽くせりか。
 
「お前らホンっトにさあ……そこまで情報掴んでんならもう自分で行けや。そこまでして冒険行きたくないか。報酬いいんだろ? この案件」
 
「俺達冒険者はよ、この手の依頼はなるべくなら受けたくねえんだよ」
 
 観念したかのようにガロンが語りだす。「この手の」っていうのは、権力者からの依頼ってことか? 冒険者は権威と結びつきたくないって事か……まあ、それは分からんでもない。
 
「『真実を明らかにして』とか『何が起きたか突き止めて』とかいう結果が定量的じゃない依頼は後で絶対揉めるんだよ」
 
 プロ意識。
 
「先方も勇者様ご指定みたいだしさ」
 
 ホント何なんだこれ。
 
 どこからだ?
 
 どこから掌の上だったんだ?
 
 俺達が今日この町で冒険者登録することも予測してたのか。
 
 もういい。殺せ。殺してくれ。
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