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第2章 冒険者達
壁尻
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情報をまとめるとこうだ。
フェルネッド伯エルシラはある日を境に急に悪政を敷くようになった。その「ある日」というのは町の近くに新しいダンジョンが発見された頃と重なるらしい。
どうやらダンジョンにはドッペルゲンガーという人間そっくりに化けるモンスターがいるらしい。
ついでにダンジョンの近くでアンデッドを見たという人がいて、それが魔王軍の四天王の一人じゃないのか? という情報もある。
正直なあ。これらの情報を全部繋がってるとするのはかなり希望的観測が過ぎるんじゃないのか? めんどくさそうなものを全部ひとまとめにして一気に解決したことにしちゃおうぜ、という短慮を感じる。
とは言うものの、結局俺とアスタロウはロバをギルドに預けてすぐにダンジョンに向かう事にした。まあ、他に魔族につながる情報もないしな。寄り道になるかもしれんけど、アスタロウも一緒だからいいだろ。なんかあったら全部こいつのせいにするわ。
だが、俺達はダンジョンに入って驚愕することになった。
まさかダンジョンの中であんなものと遭遇するとは思ってもみなかった。そんなものは、伝説の中か、物語の中にしか存在しないと思っていたからだ。まさか生きているうちに自分の目で目の当たりにするとは。
「これは……」
ちらりと隣を見ると、やはりアスタロウも驚愕の表情でそれを見ている。いくらファンタジーの世界と言えどもこんなものが実在するとは。
二人の前にはダンジョンの壁があり、そこから白く、丸い物が生えているような状態になっている。
「壁尻……だな」
「ああ。壁尻じゃ」
― かべ-しり 【壁尻】[名]
― 読んで字のごとく、壁から尻が生えているもの。
― 臀部のみを突き出しているもの、上半身だけが壁にめり込み、脚も含め下半身全体が壁から生えているものなど、形態は多様である。
― 単に穴に嵌っているだけのもの、転送、テレポートなどにより上半身が壁にめり込んだもの、はたまたもともとそういう生き物など、その原因も多様。
― 共通する点として、上半身が壁にめり込んで身動きが取れず、えっちなことをされても抵抗する術がない、という特徴がある。
俺達の目の前にはまごうこと無き壁尻が展開されていた。上半身が壁の中にめり込んだようになっていて、こちら側に見えているのは白い巻きスカートのようなものを纏った下半身のみ。その柔らかい輪郭は、間違いなく若い女性のそれである。
「ああ、この依頼を受けて良かった……」
「なんでじゃ」
「なんでじゃ」じゃないだろう、なんだコイツ。壁尻だぞ? えっちなことし放題だぞ。
「おぬし、それは勇者どころか人としてどうなんじゃ。ダンジョンで壁にはまってる尻があるからえっちないたずらする、って完全に犯罪者の思考じゃろう」
「犯罪者? 犯罪者と言いやがったか」
まさか勇者をとっ捕まえて犯罪者扱いをするとはな。
「そもそもじゃ。偶然ダンジョンで発見した誰のものかも分からん尻にいきなりえっちないたずらするとか飛躍しすぎじゃろう。相手が誰かもわからんのに普通そういうことするか?」
おやおや、ケツに聖剣挿入する奴に「普通」を説かれちまいましたよ。こいつはまいったな。
「とはいえ、俺達は冒険者だ」
「何言いだすんじゃこいつ」
「冒険心を無くした冒険者など、死んでいるのと同じじゃないか?」
「救いようのないクズじゃなコイツ。冒険心の話はとりあえず置いておいて、穴に嵌って身動きの取れない人がいるならまずは救助してやるのが筋というもんじゃろうが。お主には良心というもんはないのか?」
「なるほど。アスタロウの言う事ももっともだ」
俺は少し思案する。
「だが待ってほしい。俺達はダンジョンに入る前、重要な情報を得ている」
「こいつ急に喋り方変わったのう」
「ドッペルゲンガー」
ふん、アスタロウめ、ぽかんとしているな。危機意識の低い奴だ。まだ状況を飲み込めていないと見える。
「この壁尻、おかしいとは思わないのか? モンスターが徘徊するダンジョンだぞ? こんな間抜けな姿を晒していれば数刻と持たずモンスターの餌食となるだろう。だが奇妙なことにこの尻は無傷でこうして俺達の前に痴態を晒している」
「痴態?」
「よってこいつは、救助を必要としている同業者じゃない。おそらくはモンスターのお仲間。人間の尻そっくりに化けて獲物が来るのを待っているドッペルゲンガーの可能性が高い。よってえっちないたずらをしても法的な問題はない」
「阿呆かお主。百歩譲ってそうだとして、待ち構えてる罠に自分からはまりにいってどうするんじゃ」
「だから! 罠かどうかを確認するためにもじっくり調査をしないといけないんだろうが。触感とか、味とか」
「そこまでねっとり調べてただの人間だったらどうするんじゃ」
「それは不幸な事故だし、俺はドッペルゲンガーだと思って調査をしてるんだから誰も悪くないよね。敢えて言うなら領主が悪い」
「た、助けて~」
「ん?」
アスタロウと顔を見合わせる。今確かに「助けて」という声が聞こえたような気がする。凄く小さな声だったけど。
ああ、これもしかして声が小さく聞こえるのは壁の向こうで喋ってるからか。
「ほれ、助けを求めてるぞ。やっぱりただの人間じゃ。えっちなことなんかしたら強制猥褻で捕まるぞ」
「魔族の擬態に騙されるな」
「…………」
俺と尻とアスタロウ。三人の間に沈黙の時が流れる。
「……もういい、好きにせい。儂は知らん」
「!?」
「よしッ!!」
アスタロウの決断に感謝する。
しかし事態の深刻さを感じ取ったのか、壁尻は大いに焦り始めたようだった。
「た、助けて!! 誰かぁ!! 次回犯される~ッッ!!」
フェルネッド伯エルシラはある日を境に急に悪政を敷くようになった。その「ある日」というのは町の近くに新しいダンジョンが発見された頃と重なるらしい。
どうやらダンジョンにはドッペルゲンガーという人間そっくりに化けるモンスターがいるらしい。
ついでにダンジョンの近くでアンデッドを見たという人がいて、それが魔王軍の四天王の一人じゃないのか? という情報もある。
正直なあ。これらの情報を全部繋がってるとするのはかなり希望的観測が過ぎるんじゃないのか? めんどくさそうなものを全部ひとまとめにして一気に解決したことにしちゃおうぜ、という短慮を感じる。
とは言うものの、結局俺とアスタロウはロバをギルドに預けてすぐにダンジョンに向かう事にした。まあ、他に魔族につながる情報もないしな。寄り道になるかもしれんけど、アスタロウも一緒だからいいだろ。なんかあったら全部こいつのせいにするわ。
だが、俺達はダンジョンに入って驚愕することになった。
まさかダンジョンの中であんなものと遭遇するとは思ってもみなかった。そんなものは、伝説の中か、物語の中にしか存在しないと思っていたからだ。まさか生きているうちに自分の目で目の当たりにするとは。
「これは……」
ちらりと隣を見ると、やはりアスタロウも驚愕の表情でそれを見ている。いくらファンタジーの世界と言えどもこんなものが実在するとは。
二人の前にはダンジョンの壁があり、そこから白く、丸い物が生えているような状態になっている。
「壁尻……だな」
「ああ。壁尻じゃ」
― かべ-しり 【壁尻】[名]
― 読んで字のごとく、壁から尻が生えているもの。
― 臀部のみを突き出しているもの、上半身だけが壁にめり込み、脚も含め下半身全体が壁から生えているものなど、形態は多様である。
― 単に穴に嵌っているだけのもの、転送、テレポートなどにより上半身が壁にめり込んだもの、はたまたもともとそういう生き物など、その原因も多様。
― 共通する点として、上半身が壁にめり込んで身動きが取れず、えっちなことをされても抵抗する術がない、という特徴がある。
俺達の目の前にはまごうこと無き壁尻が展開されていた。上半身が壁の中にめり込んだようになっていて、こちら側に見えているのは白い巻きスカートのようなものを纏った下半身のみ。その柔らかい輪郭は、間違いなく若い女性のそれである。
「ああ、この依頼を受けて良かった……」
「なんでじゃ」
「なんでじゃ」じゃないだろう、なんだコイツ。壁尻だぞ? えっちなことし放題だぞ。
「おぬし、それは勇者どころか人としてどうなんじゃ。ダンジョンで壁にはまってる尻があるからえっちないたずらする、って完全に犯罪者の思考じゃろう」
「犯罪者? 犯罪者と言いやがったか」
まさか勇者をとっ捕まえて犯罪者扱いをするとはな。
「そもそもじゃ。偶然ダンジョンで発見した誰のものかも分からん尻にいきなりえっちないたずらするとか飛躍しすぎじゃろう。相手が誰かもわからんのに普通そういうことするか?」
おやおや、ケツに聖剣挿入する奴に「普通」を説かれちまいましたよ。こいつはまいったな。
「とはいえ、俺達は冒険者だ」
「何言いだすんじゃこいつ」
「冒険心を無くした冒険者など、死んでいるのと同じじゃないか?」
「救いようのないクズじゃなコイツ。冒険心の話はとりあえず置いておいて、穴に嵌って身動きの取れない人がいるならまずは救助してやるのが筋というもんじゃろうが。お主には良心というもんはないのか?」
「なるほど。アスタロウの言う事ももっともだ」
俺は少し思案する。
「だが待ってほしい。俺達はダンジョンに入る前、重要な情報を得ている」
「こいつ急に喋り方変わったのう」
「ドッペルゲンガー」
ふん、アスタロウめ、ぽかんとしているな。危機意識の低い奴だ。まだ状況を飲み込めていないと見える。
「この壁尻、おかしいとは思わないのか? モンスターが徘徊するダンジョンだぞ? こんな間抜けな姿を晒していれば数刻と持たずモンスターの餌食となるだろう。だが奇妙なことにこの尻は無傷でこうして俺達の前に痴態を晒している」
「痴態?」
「よってこいつは、救助を必要としている同業者じゃない。おそらくはモンスターのお仲間。人間の尻そっくりに化けて獲物が来るのを待っているドッペルゲンガーの可能性が高い。よってえっちないたずらをしても法的な問題はない」
「阿呆かお主。百歩譲ってそうだとして、待ち構えてる罠に自分からはまりにいってどうするんじゃ」
「だから! 罠かどうかを確認するためにもじっくり調査をしないといけないんだろうが。触感とか、味とか」
「そこまでねっとり調べてただの人間だったらどうするんじゃ」
「それは不幸な事故だし、俺はドッペルゲンガーだと思って調査をしてるんだから誰も悪くないよね。敢えて言うなら領主が悪い」
「た、助けて~」
「ん?」
アスタロウと顔を見合わせる。今確かに「助けて」という声が聞こえたような気がする。凄く小さな声だったけど。
ああ、これもしかして声が小さく聞こえるのは壁の向こうで喋ってるからか。
「ほれ、助けを求めてるぞ。やっぱりただの人間じゃ。えっちなことなんかしたら強制猥褻で捕まるぞ」
「魔族の擬態に騙されるな」
「…………」
俺と尻とアスタロウ。三人の間に沈黙の時が流れる。
「……もういい、好きにせい。儂は知らん」
「!?」
「よしッ!!」
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