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第5章 ソロモンの悪魔
罠
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「で、結局どういうことなの」
なんかもう、いろいろと。何が起こったんだ。
俺は椅子の上に座り、アスタロウはその辺の壁に寄りかかっている。とりあえず衣服(と言ってもいつもの下着みたいな布切れだけど)を着てもらったイルウはベッドの上で申し訳なさそうに座っている。他の奴らには帰ってもらった。狭すぎるんじゃ。
「宿代ももったいないし、ケンジは王女とずっと食堂にいたからベッド使ってもいいかな~? って、思って」
いや別にそれはどうでもいいんだよ。よくはないけど。
「そうじゃなくてなんでお前はここにいるんだよ。グラントーレも近いとはいえ、一応ここ人間の国アルトーレだぞ」
俺が訊ねると、イルウは目を伏せてゆっくりと話し始める。
「世界の多くの種族が女神と邪神に分かれた頃、私達ダークエルフは去就を決めかねていたの。でも敵対していたエルフの一族が女神側についたことで必然的に邪神側につくことになった経緯があって……」
あっ、くもんで習ったところだ。みたいな感じで状況がスルッと頭に入ってくる。こういうところはイリユース王女のチュートリアルに感謝だけど、本当に一夜漬けはやめて欲しい。実際には三夜漬けだったけど。
そうなんだよな。元々女神と邪神がそれぞれ今いる種族の創造者ってわけじゃないんだから、どちらの庇護を受けるかで迷った種族もかなりいたみたいで、ダークエルフもその手の奴らなんだな。
「だから私達の種族は魔族の中心からは遠く、逆に人間の勢力からは近い、衝突の最前線みたいな感じだったのよ。私の村も、戦争で焼かれてしまって今はもうないわ。家族もみな、殺されるか奴隷になるかして散り散りに……」
えっ、何それ。俺はアスタロウの方をちらりと見る。奴隷制度は廃止されたんじゃなかったのか?
「国民を奴隷にすることは出来んが『そうでない者』は別じゃ」
この野郎、都合の悪いところは伏せてやがったな。これだから野蛮人は信用できないんだよ。
っていうか、村を焼かれて殺されてって、いきなりガチ目の悲しき過去が出てきてちょっと引いてるんだけど。今までなんか軽いノリでお気楽にやってたのに唐突過ぎない?
それで魔王軍の四天王にまでなったって事は、やっぱり人間への恨みが原動力になってるんだろうか。そりゃそうだよな。本来ならこうやって一つの部屋で仲良くお話しするような仲じゃないはずだもんな。
そう考えて少し気分が落ち込んでいると、その様子にイルウは気付いたようで、手と首を振りながら弁解するように言葉を発した。
「あっ、勘違いしないで。そのことで別に人間を恨んでるわけじゃないから。ただ単に、この辺りが私の生まれの場所に近いって話」
そうは言われてもこっちは気にするよなあ……それはそれとしてYOUは何しに宿屋へ?
「まあ、地元って言えば地元だし、ちょうどケンジが来てるなら一緒にこの辺でも案内しようかな、と」
「でも、罠なんでしょ? それ」
「え? なんでわかったの?」
分かるよそりゃ。
さっき全員集合した時カルアミルクも邪竜メルポーザもいたしな。何の用もなく四天王の内三人がこんな片田舎に集合するなんてありえないだろ。
「まあ、実はカルナ=カルアに誘われててね……メルポーザはなんでいたのか知らないけど」
あのボッキドラゴンは本当にたまたまいただけってこと? っていうかマジでさっきの全員集合はなんやったんや。
「この辺を治めるクース辺境伯は最前線で魔族とぶつかるから、いざという時のため他領との関係性を強く持とうとして、よく夜会を開いているらしいからの。フェンネ伯爵夫人はそれに呼ばれたんじゃろう」
ホントにそれだけ? エイメとかはなんでいたんだよ。
「儂が知るわけないじゃろうそんなもん」
まあ、分からないならいいか。それはもう。アンススとかは伯爵夫人の護衛でもやってたんだろうか。
「それはそれとしてだ。俺を誘き出しに行ったまま三日も戻らないからあのカルアミルクとかいう奴は様子が気になって見に来てたんだな」
「まあ、ね」
しかし、ちょっとショックではあるな。てっきりイルウは俺の事を憎からず思ってくれているんだろうと思っていただけに、こうやって罠に嵌めてこようとするとは。もう一体何を信じたらいいのか。
「私、仕事とプライベートは分けて考えるタイプだから」
ドライだな。
とはいえ、あっさり認めてくれたのは助かるけど。こちらとしては、罠と分かってるんだから当然行くわけがない。
「この近くにね、今は使われてない古い砦があるの。ケンジは私に気を許してるだろうし、上手くそこに誘い出してくれ、って言われてたのよ」
はっきり言うけど俺はお前に全く気を許してはいないぞ。むしろ一番警戒してる、まであるからな。
何しろ他の奴は俺の持ってる聖剣を狙ってるのばっかりだけど、お前は俺のアナルを狙ってるだろう。お前が一番怖いんだよ。
「なんか魔導書を使って異世界から悪魔を召喚して戦うつもりらしいよね。何を呼び出すつもりなのかは分からないけど、呼び出すのは多分ソロモン72柱と呼ばれる悪魔のうちのどれかだと思う」
そこまで言っちゃっていいのか。いまいちこいつが敵なのか味方なのか判断に迷うな。さっきも「罠だろう」って聞いたらあっさりばらしてくれたし。
「ねえケンジ」
そう言ってイルウは前傾姿勢になっておれの両膝の上に手を置き、悪戯っぽい表情でお手の顔を覗き込んでくる。
本当に、男でさえなければなあ。
「このままこうやっていても話が進まないし、いっそのこと罠にかかってみない?」
なんかもう、いろいろと。何が起こったんだ。
俺は椅子の上に座り、アスタロウはその辺の壁に寄りかかっている。とりあえず衣服(と言ってもいつもの下着みたいな布切れだけど)を着てもらったイルウはベッドの上で申し訳なさそうに座っている。他の奴らには帰ってもらった。狭すぎるんじゃ。
「宿代ももったいないし、ケンジは王女とずっと食堂にいたからベッド使ってもいいかな~? って、思って」
いや別にそれはどうでもいいんだよ。よくはないけど。
「そうじゃなくてなんでお前はここにいるんだよ。グラントーレも近いとはいえ、一応ここ人間の国アルトーレだぞ」
俺が訊ねると、イルウは目を伏せてゆっくりと話し始める。
「世界の多くの種族が女神と邪神に分かれた頃、私達ダークエルフは去就を決めかねていたの。でも敵対していたエルフの一族が女神側についたことで必然的に邪神側につくことになった経緯があって……」
あっ、くもんで習ったところだ。みたいな感じで状況がスルッと頭に入ってくる。こういうところはイリユース王女のチュートリアルに感謝だけど、本当に一夜漬けはやめて欲しい。実際には三夜漬けだったけど。
そうなんだよな。元々女神と邪神がそれぞれ今いる種族の創造者ってわけじゃないんだから、どちらの庇護を受けるかで迷った種族もかなりいたみたいで、ダークエルフもその手の奴らなんだな。
「だから私達の種族は魔族の中心からは遠く、逆に人間の勢力からは近い、衝突の最前線みたいな感じだったのよ。私の村も、戦争で焼かれてしまって今はもうないわ。家族もみな、殺されるか奴隷になるかして散り散りに……」
えっ、何それ。俺はアスタロウの方をちらりと見る。奴隷制度は廃止されたんじゃなかったのか?
「国民を奴隷にすることは出来んが『そうでない者』は別じゃ」
この野郎、都合の悪いところは伏せてやがったな。これだから野蛮人は信用できないんだよ。
っていうか、村を焼かれて殺されてって、いきなりガチ目の悲しき過去が出てきてちょっと引いてるんだけど。今までなんか軽いノリでお気楽にやってたのに唐突過ぎない?
それで魔王軍の四天王にまでなったって事は、やっぱり人間への恨みが原動力になってるんだろうか。そりゃそうだよな。本来ならこうやって一つの部屋で仲良くお話しするような仲じゃないはずだもんな。
そう考えて少し気分が落ち込んでいると、その様子にイルウは気付いたようで、手と首を振りながら弁解するように言葉を発した。
「あっ、勘違いしないで。そのことで別に人間を恨んでるわけじゃないから。ただ単に、この辺りが私の生まれの場所に近いって話」
そうは言われてもこっちは気にするよなあ……それはそれとしてYOUは何しに宿屋へ?
「まあ、地元って言えば地元だし、ちょうどケンジが来てるなら一緒にこの辺でも案内しようかな、と」
「でも、罠なんでしょ? それ」
「え? なんでわかったの?」
分かるよそりゃ。
さっき全員集合した時カルアミルクも邪竜メルポーザもいたしな。何の用もなく四天王の内三人がこんな片田舎に集合するなんてありえないだろ。
「まあ、実はカルナ=カルアに誘われててね……メルポーザはなんでいたのか知らないけど」
あのボッキドラゴンは本当にたまたまいただけってこと? っていうかマジでさっきの全員集合はなんやったんや。
「この辺を治めるクース辺境伯は最前線で魔族とぶつかるから、いざという時のため他領との関係性を強く持とうとして、よく夜会を開いているらしいからの。フェンネ伯爵夫人はそれに呼ばれたんじゃろう」
ホントにそれだけ? エイメとかはなんでいたんだよ。
「儂が知るわけないじゃろうそんなもん」
まあ、分からないならいいか。それはもう。アンススとかは伯爵夫人の護衛でもやってたんだろうか。
「それはそれとしてだ。俺を誘き出しに行ったまま三日も戻らないからあのカルアミルクとかいう奴は様子が気になって見に来てたんだな」
「まあ、ね」
しかし、ちょっとショックではあるな。てっきりイルウは俺の事を憎からず思ってくれているんだろうと思っていただけに、こうやって罠に嵌めてこようとするとは。もう一体何を信じたらいいのか。
「私、仕事とプライベートは分けて考えるタイプだから」
ドライだな。
とはいえ、あっさり認めてくれたのは助かるけど。こちらとしては、罠と分かってるんだから当然行くわけがない。
「この近くにね、今は使われてない古い砦があるの。ケンジは私に気を許してるだろうし、上手くそこに誘い出してくれ、って言われてたのよ」
はっきり言うけど俺はお前に全く気を許してはいないぞ。むしろ一番警戒してる、まであるからな。
何しろ他の奴は俺の持ってる聖剣を狙ってるのばっかりだけど、お前は俺のアナルを狙ってるだろう。お前が一番怖いんだよ。
「なんか魔導書を使って異世界から悪魔を召喚して戦うつもりらしいよね。何を呼び出すつもりなのかは分からないけど、呼び出すのは多分ソロモン72柱と呼ばれる悪魔のうちのどれかだと思う」
そこまで言っちゃっていいのか。いまいちこいつが敵なのか味方なのか判断に迷うな。さっきも「罠だろう」って聞いたらあっさりばらしてくれたし。
「ねえケンジ」
そう言ってイルウは前傾姿勢になっておれの両膝の上に手を置き、悪戯っぽい表情でお手の顔を覗き込んでくる。
本当に、男でさえなければなあ。
「このままこうやっていても話が進まないし、いっそのこと罠にかかってみない?」
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