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第6章 スターウォーズ
リキシの専門家
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やはりというかなんというか、少し予想はしていたものの、野生のリキシの獣害に悩んでいるのはエルフの集落だった。
森を切り開いて、という感じではない。それぞれの住居はかなりこじんまりした感じで森に寄り添うように生きている亜人の村。農業などはしておらず、狩りによって獲物を捕り、山菜を取って、工芸品や獣の皮を人間と細々と交易して暮らしているらしい。
誰だよ「エルフは葉っぱと虫しか食べない」とか言ってた奴は。
まあそこを突っ込むとまたハラキリしかねないからやめるけども。
「村が小さい理由はエルフは寿命が長い代わりに繁殖力が弱いのでな。まあ、性欲が弱いんじゃ」
じゃあなんでお前勃気術なんか使うんだよ。どういう経緯でそんな能力に目覚めたんだよ。
それは今は置いておこう。俺はエルフの里のリーダーらしい壮年の男性エルフに話を聞いた。里長なのか、族長なのか。そう紹介されたが、他の村人と変わらず、服装は麻の質素な服に装飾品もほとんどない。本当に必要最低限の装いだ。
「時代の騎士のヨルダ様がおっしゃったとおり……」
その枕詞やめろ。今後二度と言うな。
「エルフの里は人口が増えない分、今までほとんど多種族との衝突はなかったんですが……最近急に野生のリキシが増えていまして。食料の調達にも苦労する有様です。リキシのスタンピードというやつです」
リキシってスタンピードするもんなのか……それはともかくリキシはどうやって増えるんだ? 俺が前に見たのはオスだと思うけど、メスのリキシとかもいるのか? その場合、おっぱいはどうなっているんだ? いやらしい意味じゃなく、純粋な好奇心で気になる。
もしメスもオスと変わらない外見だった場合、リキシ同士の交尾はもうビジュアル的に「交尾」というよりは「取組」と言った方が正しい様な気がする。
リキシが増える……力士が増える? リキシってどうやって増えるんだ?
メスのリキシ……発情期のリキシ……リキシの求愛行動……N〇Kが世界で初めて撮影に成功した貴重なリキシの出産シーン……子育て期のリキシは凶暴になっているために注意が必要……子育て……仔リキシ……? いかん、考えすぎて頭が痛くなってきた。
「リキシの生態についてはどのくらい分かってるんスか?」
ナイス質問だエイメ。
「一般に知られてる通り、ほとんどわかりません。ただ、非常に凶暴で、里の者にはぶちかましを喰らって大怪我を負った者もいます」
凶暴なリキシかぁ……あんまり凶暴なイメージはないけどなあ。闘争心はありそうだけど。
分からないなら時間をかけて自分達で調査するしかないのかあ……いや、待てよ? これはもしかすると、「現代日本の知識で異世界無双」のパターンじゃないのか?
「師匠のいた世界にも『リキシ』はいたんスよね? そっちではどういう生態なんスか?」
来た!!
落ち着け。現代日本の知識を利用して、そして違和感なくこの異世界にフィットさせるよう思考を柔軟に保つんだ。
「リキシは……群れで生活する生き物だ……」
何を言ってるんだ俺は。
「群れ……スか?」
「しかし言われてみれば……確かに複数のリキシを一度に目撃した者もいます」
「まさかリキシの生態に詳しい者がおるとは……」
快感。
これが知識無双というものか。無知蒙昧な異世界原住民の突き刺さるような尊敬のまなざしが心地好い。こりゃあクセになるわ。
「リキシは、『部屋』と呼ばれる集団を一単位とする群れをつくる生き物だ」
「じゃあ、その部屋のボスがヨコヅナなんスね?」
「いや。『ヨコヅナ』や『オオゼキ』などのクラスは群れの枠組みとは別に強さによって与えらえるランクだ。部屋のボスは『オヤカタ』という。この『オヤカタ』は直接戦いはせず、部屋の構成リキシ……『弟子』たちの指導やかわいがりを主として行う」
愚民共から感嘆の声が漏れる。
崇めろ。もっと俺様を崇めろ。
「今まで儂のアナルから剣を引き抜くだけしか能のないヘタレだと思っておったが、まさかリキシの専門家だったとは……人は見かけによらぬものじゃ」
殺すぞアスタロウ。
とは言うものの。俺もこの世界のリキシについては詳しくない。俺は元の世界でオスの力士しか見たことないし、この世界のリキシがどうやって増えるのかも分からない。知識のすり合わせをしないといけないだろう。
「ところでさ、ずっと『野生のリキシ』とか言ってるけど『家畜のリキシ』とかもいるの?」
「え? 専門家のくせにそんなことも知らないんスか? 師匠、しょうがないッスね。教えてあげるッスよ」
うわめっちゃ知識マウント取ってくるやんけ。もしかしてこいつらの目には俺もこう映ってたのか?
「家畜のリキシもいるッスよ。食用じゃないスけど。農耕用とか力仕事に使ってるらしいッス。ワタシは見たこと無いスけど。肉は硬い上に脂身も多くて食べられないらしいスね」
「らしい」ってことは試しに食ってみた奴がいるって事か。想像しただけで気持ち悪くなる。そんなもん食わされたこと無くて本当によかった。
「家畜がいるってことは繁殖もしてるんだろ? メスのリキシとかもいるの?」
「メスのリキシなんてのは聞いたことないスね。確か繁殖はせずに、捕まえてくるんスよ。子供の状態を……なんて言うんだったスかね……」
「新弟子」
「そうッス。新弟子の状態で捕まえてきて育てて、労働力にするんスよ。この村にはいないみたいスけど」
アイヌの飼い熊とかと同じ方式だな。ということは捕まえられた新弟子を助けるために攻撃的になってる、ってセンも消えたな。
っていうかさあ。
「む……」
俺がちらりとアスタロウの方を見ると彼は気まずそうに視線をずらした。
最初の頃「奴隷なんて非人道的なものはいない」だとか「お前の世界には奴隷制があるのか」とかさんざん(俺視点で)偉そうにマウント取ってきやがって癖によ。
ちょっと聞いてみればぽろぽろぽろぽろ出てくるじゃねーか。魔族側だからオッケーだとか、リキシは人じゃないからオッケーだとか。この人権後進国が。
「私達も罠を仕掛けたりして駆除しようとはしてるんですが、存外にリキシの知能が高く、中々手を焼いているんです」
「お前らはリキシの事を何も分かっていない」
少し、俺の声は怒気を孕んでいたように思う。
だがそれも仕方ない。こいつらの話を聞いていたらだんだん腹が立ってきた。少し空気がピリリと緊張したのは気付いたが、自分の感情を押さえることができなかった。
異世界に来てみたら自分達にそっくりな生き物が獣や奴隷のような扱いを受けていたんだ。それがこの世界の理なんだと言われても、頭では理解できても納得はできない。そういうもんだろう。
森を切り開いて、という感じではない。それぞれの住居はかなりこじんまりした感じで森に寄り添うように生きている亜人の村。農業などはしておらず、狩りによって獲物を捕り、山菜を取って、工芸品や獣の皮を人間と細々と交易して暮らしているらしい。
誰だよ「エルフは葉っぱと虫しか食べない」とか言ってた奴は。
まあそこを突っ込むとまたハラキリしかねないからやめるけども。
「村が小さい理由はエルフは寿命が長い代わりに繁殖力が弱いのでな。まあ、性欲が弱いんじゃ」
じゃあなんでお前勃気術なんか使うんだよ。どういう経緯でそんな能力に目覚めたんだよ。
それは今は置いておこう。俺はエルフの里のリーダーらしい壮年の男性エルフに話を聞いた。里長なのか、族長なのか。そう紹介されたが、他の村人と変わらず、服装は麻の質素な服に装飾品もほとんどない。本当に必要最低限の装いだ。
「時代の騎士のヨルダ様がおっしゃったとおり……」
その枕詞やめろ。今後二度と言うな。
「エルフの里は人口が増えない分、今までほとんど多種族との衝突はなかったんですが……最近急に野生のリキシが増えていまして。食料の調達にも苦労する有様です。リキシのスタンピードというやつです」
リキシってスタンピードするもんなのか……それはともかくリキシはどうやって増えるんだ? 俺が前に見たのはオスだと思うけど、メスのリキシとかもいるのか? その場合、おっぱいはどうなっているんだ? いやらしい意味じゃなく、純粋な好奇心で気になる。
もしメスもオスと変わらない外見だった場合、リキシ同士の交尾はもうビジュアル的に「交尾」というよりは「取組」と言った方が正しい様な気がする。
リキシが増える……力士が増える? リキシってどうやって増えるんだ?
メスのリキシ……発情期のリキシ……リキシの求愛行動……N〇Kが世界で初めて撮影に成功した貴重なリキシの出産シーン……子育て期のリキシは凶暴になっているために注意が必要……子育て……仔リキシ……? いかん、考えすぎて頭が痛くなってきた。
「リキシの生態についてはどのくらい分かってるんスか?」
ナイス質問だエイメ。
「一般に知られてる通り、ほとんどわかりません。ただ、非常に凶暴で、里の者にはぶちかましを喰らって大怪我を負った者もいます」
凶暴なリキシかぁ……あんまり凶暴なイメージはないけどなあ。闘争心はありそうだけど。
分からないなら時間をかけて自分達で調査するしかないのかあ……いや、待てよ? これはもしかすると、「現代日本の知識で異世界無双」のパターンじゃないのか?
「師匠のいた世界にも『リキシ』はいたんスよね? そっちではどういう生態なんスか?」
来た!!
落ち着け。現代日本の知識を利用して、そして違和感なくこの異世界にフィットさせるよう思考を柔軟に保つんだ。
「リキシは……群れで生活する生き物だ……」
何を言ってるんだ俺は。
「群れ……スか?」
「しかし言われてみれば……確かに複数のリキシを一度に目撃した者もいます」
「まさかリキシの生態に詳しい者がおるとは……」
快感。
これが知識無双というものか。無知蒙昧な異世界原住民の突き刺さるような尊敬のまなざしが心地好い。こりゃあクセになるわ。
「リキシは、『部屋』と呼ばれる集団を一単位とする群れをつくる生き物だ」
「じゃあ、その部屋のボスがヨコヅナなんスね?」
「いや。『ヨコヅナ』や『オオゼキ』などのクラスは群れの枠組みとは別に強さによって与えらえるランクだ。部屋のボスは『オヤカタ』という。この『オヤカタ』は直接戦いはせず、部屋の構成リキシ……『弟子』たちの指導やかわいがりを主として行う」
愚民共から感嘆の声が漏れる。
崇めろ。もっと俺様を崇めろ。
「今まで儂のアナルから剣を引き抜くだけしか能のないヘタレだと思っておったが、まさかリキシの専門家だったとは……人は見かけによらぬものじゃ」
殺すぞアスタロウ。
とは言うものの。俺もこの世界のリキシについては詳しくない。俺は元の世界でオスの力士しか見たことないし、この世界のリキシがどうやって増えるのかも分からない。知識のすり合わせをしないといけないだろう。
「ところでさ、ずっと『野生のリキシ』とか言ってるけど『家畜のリキシ』とかもいるの?」
「え? 専門家のくせにそんなことも知らないんスか? 師匠、しょうがないッスね。教えてあげるッスよ」
うわめっちゃ知識マウント取ってくるやんけ。もしかしてこいつらの目には俺もこう映ってたのか?
「家畜のリキシもいるッスよ。食用じゃないスけど。農耕用とか力仕事に使ってるらしいッス。ワタシは見たこと無いスけど。肉は硬い上に脂身も多くて食べられないらしいスね」
「らしい」ってことは試しに食ってみた奴がいるって事か。想像しただけで気持ち悪くなる。そんなもん食わされたこと無くて本当によかった。
「家畜がいるってことは繁殖もしてるんだろ? メスのリキシとかもいるの?」
「メスのリキシなんてのは聞いたことないスね。確か繁殖はせずに、捕まえてくるんスよ。子供の状態を……なんて言うんだったスかね……」
「新弟子」
「そうッス。新弟子の状態で捕まえてきて育てて、労働力にするんスよ。この村にはいないみたいスけど」
アイヌの飼い熊とかと同じ方式だな。ということは捕まえられた新弟子を助けるために攻撃的になってる、ってセンも消えたな。
っていうかさあ。
「む……」
俺がちらりとアスタロウの方を見ると彼は気まずそうに視線をずらした。
最初の頃「奴隷なんて非人道的なものはいない」だとか「お前の世界には奴隷制があるのか」とかさんざん(俺視点で)偉そうにマウント取ってきやがって癖によ。
ちょっと聞いてみればぽろぽろぽろぽろ出てくるじゃねーか。魔族側だからオッケーだとか、リキシは人じゃないからオッケーだとか。この人権後進国が。
「私達も罠を仕掛けたりして駆除しようとはしてるんですが、存外にリキシの知能が高く、中々手を焼いているんです」
「お前らはリキシの事を何も分かっていない」
少し、俺の声は怒気を孕んでいたように思う。
だがそれも仕方ない。こいつらの話を聞いていたらだんだん腹が立ってきた。少し空気がピリリと緊張したのは気付いたが、自分の感情を押さえることができなかった。
異世界に来てみたら自分達にそっくりな生き物が獣や奴隷のような扱いを受けていたんだ。それがこの世界の理なんだと言われても、頭では理解できても納得はできない。そういうもんだろう。
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