75 / 123
第6章 スターウォーズ
トレイサー
しおりを挟む
「見ろ、エイメ、アスタロウ」
慎重に。相手は俺達よりも膂力も闘争心も上の生き物だ。
俺達が三人で森にリキシの痕跡を見つけるために入って三日目。とうとうそれを見つけることができた。
地面には二本の線がスキーのシュプールのように真っ直ぐ続いている。だが綺麗な一本の線ではなく、数十センチおきに人間の足跡のような形に足跡が重なっている。
「これはいったいなんじゃ?」
ヨルダ師匠は健康面での不安があるため里に置いてきた。
「リキシの『すり足』の跡だ」
アスタロウの質問に答える。大きな石のない平坦な森の中のけものみち。草がむしれ、土が露出し、その上に真新しいすり足の跡。
「すり足の跡があるということは、この近くにリキシが生息してるということだ」
「リキシの足跡っていうことスか?」
「足跡とは少し違う。リキシの足腰の稽古のために行う歩法だ」
「稽古? 野生動物が稽古するんスか?」
「リキシとは、そういう生き物だ。それよりも、リキシは自分のナワバリで稽古を行う。ここはすでにリキシのナワバリだってことだ」
むう、とアスタロウが唸って辺りを見回す。ここは危険領域の可能性があるということだ。恐怖を感じるのも仕方ない。
彼に倣って俺も周囲を見回す。ここがナワバリなら、他にも何か痕跡があるはずだ。しばらく周囲を見回して、少し歩くと、奇妙な大木を見つけた。
腰よりも少し高いくらいの皮が、二カ所剝げている。
「これは、リキシのナワバリを示す印ッスかね? 熊とかはこんなのやるって聞いたことあるスけど」
当たらずも遠からずと言ったところだろう。木がこうなる理由について、俺には心当たりがある。
「リキシは、丈夫な柱を見つけると『テッポウ』という行動をとる習性がある」
「テッポウ?」
アスタロウとエイメが疑問符を浮かべる。そもそもこの世界には「鉄砲」がないからな。ピンと来ないかもしれない。
俺は少し足幅のスタンスを大きくとって腰を落とし、両手を木の肌に重ねた。そのままドシドシと交互に掌底で木の幹を押す。
「これがテッポウ……なんだが……」
説明するためにテッポウの姿勢を見せてみたんだが、意外な発見というか、目で見て、口で説明するだけだと分からないことが、実際に行ってみると分かること、というものがある。
「なんか、やりにくそッスね」
そうなんだ。彼女の言う通り、木の幹は太くて安定しているんだが、これだけ太い木になると根っこの方も相当強く張っており、足場が安定しない。
このテッポウの跡をつけたリキシは、こんなやりづらい環境で稽古をしているのか。
ふと思い立って、靴を履いたままではあるが、俺はすり足をさっきの場所でやってみた。
「それがすり足ッスか。そんなに腰を深く落とすんスね」
俺は体が固いし、リキシに比べれば足腰も弱いので形は不十分だろうが、それでも日常取る姿勢からはかけ離れた腰の深さ。どっしりと重心を下げて安定した姿勢。しかし、すり足の跡のついているところは土が露出しているのでやりやすいが少し外れると雑草で滑ってやりづらい。
そもそもが柔らかい腐葉土の上ではこの稽古は向いていないんじゃないだろうか。
「それにしても、これだけ騒いでいてもリキシが出てくる気配はないのう」
考えをまとめているとアスタロウが呟いた。
言われてみればその通りだ。もしかすると、群れで生活しているということは、本来他の生物への警戒心は強いのかもしれない。
森の中、ひとり、考える。
「なんか分かったんスか、師匠?」
「ちょっと森の中は冷えるのう。そろそろ帰らんか? 勇者よ」
雑音をシャットアウトして深く思考の澱を重ねる。
俺はリキシだ。
強くなるために相撲部屋に入った新弟子だ。
今俺に必要なものはなんだ? 何が必要で、どんな行動をとる?
ゆっくりと目を開く。
木の葉の間から見えてくる柔らかな光が、俺を祝福している気がした。なんとなくだが、見えてきたぞ。
「リキシを誘き出すための罠を作る。一旦村に戻るぞ」
――――――――――――――――
俺は村に戻って以前に話を聞いた里長のカルモンドさんに話をした。リキシを誘き出すための罠を作り、そこで全ての決着をつけると。
罠はかなり大掛かりな制作物になり、作るのにはかなり時間がかかる。しかしそれは決して無駄な投資にはならないはずだ。
それはただ単に害獣を駆除するものではない。ヨルダ師匠の言っていた「スターウォーズ」を実現するための「戦い」だ。全てに向き合い、そして全てを丸く収める。
それが実現すればここ最近悩まされているリキシのスタンピード問題の根源的な解決になるはず。
俺の、勇者としての資質が試される戦いになるはずだ。
慎重に。相手は俺達よりも膂力も闘争心も上の生き物だ。
俺達が三人で森にリキシの痕跡を見つけるために入って三日目。とうとうそれを見つけることができた。
地面には二本の線がスキーのシュプールのように真っ直ぐ続いている。だが綺麗な一本の線ではなく、数十センチおきに人間の足跡のような形に足跡が重なっている。
「これはいったいなんじゃ?」
ヨルダ師匠は健康面での不安があるため里に置いてきた。
「リキシの『すり足』の跡だ」
アスタロウの質問に答える。大きな石のない平坦な森の中のけものみち。草がむしれ、土が露出し、その上に真新しいすり足の跡。
「すり足の跡があるということは、この近くにリキシが生息してるということだ」
「リキシの足跡っていうことスか?」
「足跡とは少し違う。リキシの足腰の稽古のために行う歩法だ」
「稽古? 野生動物が稽古するんスか?」
「リキシとは、そういう生き物だ。それよりも、リキシは自分のナワバリで稽古を行う。ここはすでにリキシのナワバリだってことだ」
むう、とアスタロウが唸って辺りを見回す。ここは危険領域の可能性があるということだ。恐怖を感じるのも仕方ない。
彼に倣って俺も周囲を見回す。ここがナワバリなら、他にも何か痕跡があるはずだ。しばらく周囲を見回して、少し歩くと、奇妙な大木を見つけた。
腰よりも少し高いくらいの皮が、二カ所剝げている。
「これは、リキシのナワバリを示す印ッスかね? 熊とかはこんなのやるって聞いたことあるスけど」
当たらずも遠からずと言ったところだろう。木がこうなる理由について、俺には心当たりがある。
「リキシは、丈夫な柱を見つけると『テッポウ』という行動をとる習性がある」
「テッポウ?」
アスタロウとエイメが疑問符を浮かべる。そもそもこの世界には「鉄砲」がないからな。ピンと来ないかもしれない。
俺は少し足幅のスタンスを大きくとって腰を落とし、両手を木の肌に重ねた。そのままドシドシと交互に掌底で木の幹を押す。
「これがテッポウ……なんだが……」
説明するためにテッポウの姿勢を見せてみたんだが、意外な発見というか、目で見て、口で説明するだけだと分からないことが、実際に行ってみると分かること、というものがある。
「なんか、やりにくそッスね」
そうなんだ。彼女の言う通り、木の幹は太くて安定しているんだが、これだけ太い木になると根っこの方も相当強く張っており、足場が安定しない。
このテッポウの跡をつけたリキシは、こんなやりづらい環境で稽古をしているのか。
ふと思い立って、靴を履いたままではあるが、俺はすり足をさっきの場所でやってみた。
「それがすり足ッスか。そんなに腰を深く落とすんスね」
俺は体が固いし、リキシに比べれば足腰も弱いので形は不十分だろうが、それでも日常取る姿勢からはかけ離れた腰の深さ。どっしりと重心を下げて安定した姿勢。しかし、すり足の跡のついているところは土が露出しているのでやりやすいが少し外れると雑草で滑ってやりづらい。
そもそもが柔らかい腐葉土の上ではこの稽古は向いていないんじゃないだろうか。
「それにしても、これだけ騒いでいてもリキシが出てくる気配はないのう」
考えをまとめているとアスタロウが呟いた。
言われてみればその通りだ。もしかすると、群れで生活しているということは、本来他の生物への警戒心は強いのかもしれない。
森の中、ひとり、考える。
「なんか分かったんスか、師匠?」
「ちょっと森の中は冷えるのう。そろそろ帰らんか? 勇者よ」
雑音をシャットアウトして深く思考の澱を重ねる。
俺はリキシだ。
強くなるために相撲部屋に入った新弟子だ。
今俺に必要なものはなんだ? 何が必要で、どんな行動をとる?
ゆっくりと目を開く。
木の葉の間から見えてくる柔らかな光が、俺を祝福している気がした。なんとなくだが、見えてきたぞ。
「リキシを誘き出すための罠を作る。一旦村に戻るぞ」
――――――――――――――――
俺は村に戻って以前に話を聞いた里長のカルモンドさんに話をした。リキシを誘き出すための罠を作り、そこで全ての決着をつけると。
罠はかなり大掛かりな制作物になり、作るのにはかなり時間がかかる。しかしそれは決して無駄な投資にはならないはずだ。
それはただ単に害獣を駆除するものではない。ヨルダ師匠の言っていた「スターウォーズ」を実現するための「戦い」だ。全てに向き合い、そして全てを丸く収める。
それが実現すればここ最近悩まされているリキシのスタンピード問題の根源的な解決になるはず。
俺の、勇者としての資質が試される戦いになるはずだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜
駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。
しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった───
そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。
前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける!
完結まで毎日投稿!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…
美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。
※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。
※イラストはAI生成です
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~
シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。
前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。
その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。
【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。
この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。
ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。
少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。
更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。
そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。
少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。
どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。
少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。
冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。
すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く…
果たして、その可能性とは⁉
HOTランキングは、最高は2位でした。
皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°.
でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる