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第6章 スターウォーズ
四股
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細工は流々仕上げを御覧じろ、と言いたいところではあるが、実を言うとそこまでの自信はない。
おそらくはリキシを誘き出すところまではまず上手くいくだろう。だがその先はどういう流れになるかすら分かっていない。正直言ってリキシに言葉が通じるかどうかも分からないからな。
エイメから聞いた話を総合すると、この世界のリキシは言葉は話せないんじゃないかと思っている。だってもし言葉が通じるならそれを食用に試してみた奴って頭がおかしすぎないか? まあ実際エイメとかアスタロウとか頭のおかしい奴らとさんざん会ってきてはいるものの、そういう方向性はまた違うと思うんだよね。
もしリキシが俺の元いた世界にいた力士と同じものなら日本語が通じるかもしれないが、女神もなんも言ってなかったし、そういう事もないだろう。
よく西洋風ファンタジー世界に突然サムライとかニンジャとか出てくることがあるだろう。ああいう類のものだと俺は思っている。大分様相が違うが。
とりあえずこの罠を見てくれ。予算(労働力)を抑えつつも、かなり納得のいく出来の物が仕上がった。
エルフの里から少し離れた場所。木を切り倒して整地し、綺麗にならし、開けた場所に唐突に出現する土俵。そしてオークの体当たりにも耐えられる頑丈な柱。
基本はテレビのニュースとかで見た相撲部屋を参考としながらも中央にある土俵の周りにはマス席を設置し、観覧することもできる。
切り倒した木材を使って簡易的ではあるものの屋根も設置してあるため、日々の稽古には事欠かないだろう。相撲部屋兼国技館と言ったところだ。大分規模は小さいものの。
しかしつくりにはこだわってあり、土俵の土の中には勝栗、スルメ、洗米、塩、昆布の六品が……あれ? 五品だな。あと一つなんだったっけ……分からない。まあいいや。勝栗ってのも何なのかよく分からなかったので蒸かした栗をとりあえず入れておいた。生のまま入れて芽を出したら困るし。
とりあえず手に入りそうなものは揃えた。努力は買ってほしい。
土俵もただ線を引いただけじゃない。ちゃんと稲から作った縄を使って描いている。我ながら(作業したのはエルフ達だけど)素晴らしい出来だ。
もし俺が力士で、ちょっとぶらぶらその辺散歩してる時にこんなものを森の中で偶然見つけたら「おっ、ちょっと稽古してこうかな」と思うこと請け合いだ。読者の方達とてそうだろう。
俺はあの森の中の稽古場を見て思ったのだ。
彼らに足りないのは『環境』だと。彼らは落ち着いて稽古できる環境を希求しているに違いないと。
「来てくれるッスかね、リキシ……」
不安そうにしているエイメ。しかしこれだけの高品質の物を作ったんだ。来ないはずがない。俺なら来る。
「このドヒョウとかいうのもしっかりした作りッスもんね。きっと来るッスよね」
「ああ。この縄で作ったドヒョウというのは『縄張り』の語源にもなったものだ。自分達の生息している森の中にドヒョウを作られたら黙っていられまい」
「へえ、そうなんスね。ワタシはてっきり建物を建てるときに縄を張るのが語源だと思ってたッス」
黙れそれ以上喋るな。
「自信を持つのはいいが、何事にも『絶対』はないぞ。何か『エサ』になる物が必要なんじゃないのかのう」
むう、確かにアスタロウの言う事にも一理ある。エサか。当然それも用意はしてある。
「アスタロウ、チャンコの準備を頼む」
「チャンコ?」
「リキシが主食としているものだ。オーソドックスなものは鶏ガラか昆布で出汁をとって肉や野菜をふんだんに使って土鍋で調理する。今三人しかいないからアスタロウがやってくれないか。材料はマス席の後ろに準備してある」
村人やヨルダ師匠が出てくると彼らを守ることにまでリソースが割かれるため、今回も三人で行動している。アスタロウのチャンコ番も含めて、三人全員に役割がある。
「さて、俺は俺で用意がある。エイメはここで待ってて、もしリキシが現れたら知らせてくれ」
そう声を掛けて俺は少し離れた木陰で着替えをしてくる。
できればこれはしたくはなかったんだが、ここまでリキシが来ないとなると俺自身がエサになる必要も出てくる。一人で上手くできるかどうかは不安があるが、俺はリキシの正装とも言える服装に着替える。
着替えをしていると鶏ガラ出汁のいい香りがしてきた。準備は着実に進んでいる。あとはリキシが来るのを待つだけだ。
「し、師匠、なんスか? その格好は……それってまさか」
驚くのも無理はない。木陰から戻ってきた俺が身に着けていたのは「まわし」だ。どういうものなのかよく分かんないけど前側についてるあののれんみたいな紐もちゃんとついている。あれなんなんだろう。
そして、俺が土俵を作るにあたって指示だけして自分では何もやらなかった事にもちゃんと理由がある。おれはコレを練習するために土俵の設置に参加する暇がなかったんだ。
「おお、師匠……はみ出そうッス!」
天高く右足を上げる。
そう、四股踏みだ。
「よいしょぉ!!」
エイメの掛け声と共に力強く四股を踏む。
尋常の罠ならば当然静かにしていなければ獲物は来ない。しかし今回は逆だ。出来るだけ大きな声で掛け声をかけてくれるようにエイメにも事前に打ち合わせ済み。
「よいしょぉ!!」
もう一度。今度は左足で。
俺の体重では力強い音は出ないが、雰囲気は出ている筈。この世界では、俺にしか仕掛けられない罠。力士の事を知る俺だけが仕掛けられる罠。
さあ、どうだ。
リキシの本能よ、目を覚ませ。
「ドスコイ」
その時だった。
前方の茂みの方から声が聞こえ、そして次に巨大がその姿を現したのだ。
おそらくはリキシを誘き出すところまではまず上手くいくだろう。だがその先はどういう流れになるかすら分かっていない。正直言ってリキシに言葉が通じるかどうかも分からないからな。
エイメから聞いた話を総合すると、この世界のリキシは言葉は話せないんじゃないかと思っている。だってもし言葉が通じるならそれを食用に試してみた奴って頭がおかしすぎないか? まあ実際エイメとかアスタロウとか頭のおかしい奴らとさんざん会ってきてはいるものの、そういう方向性はまた違うと思うんだよね。
もしリキシが俺の元いた世界にいた力士と同じものなら日本語が通じるかもしれないが、女神もなんも言ってなかったし、そういう事もないだろう。
よく西洋風ファンタジー世界に突然サムライとかニンジャとか出てくることがあるだろう。ああいう類のものだと俺は思っている。大分様相が違うが。
とりあえずこの罠を見てくれ。予算(労働力)を抑えつつも、かなり納得のいく出来の物が仕上がった。
エルフの里から少し離れた場所。木を切り倒して整地し、綺麗にならし、開けた場所に唐突に出現する土俵。そしてオークの体当たりにも耐えられる頑丈な柱。
基本はテレビのニュースとかで見た相撲部屋を参考としながらも中央にある土俵の周りにはマス席を設置し、観覧することもできる。
切り倒した木材を使って簡易的ではあるものの屋根も設置してあるため、日々の稽古には事欠かないだろう。相撲部屋兼国技館と言ったところだ。大分規模は小さいものの。
しかしつくりにはこだわってあり、土俵の土の中には勝栗、スルメ、洗米、塩、昆布の六品が……あれ? 五品だな。あと一つなんだったっけ……分からない。まあいいや。勝栗ってのも何なのかよく分からなかったので蒸かした栗をとりあえず入れておいた。生のまま入れて芽を出したら困るし。
とりあえず手に入りそうなものは揃えた。努力は買ってほしい。
土俵もただ線を引いただけじゃない。ちゃんと稲から作った縄を使って描いている。我ながら(作業したのはエルフ達だけど)素晴らしい出来だ。
もし俺が力士で、ちょっとぶらぶらその辺散歩してる時にこんなものを森の中で偶然見つけたら「おっ、ちょっと稽古してこうかな」と思うこと請け合いだ。読者の方達とてそうだろう。
俺はあの森の中の稽古場を見て思ったのだ。
彼らに足りないのは『環境』だと。彼らは落ち着いて稽古できる環境を希求しているに違いないと。
「来てくれるッスかね、リキシ……」
不安そうにしているエイメ。しかしこれだけの高品質の物を作ったんだ。来ないはずがない。俺なら来る。
「このドヒョウとかいうのもしっかりした作りッスもんね。きっと来るッスよね」
「ああ。この縄で作ったドヒョウというのは『縄張り』の語源にもなったものだ。自分達の生息している森の中にドヒョウを作られたら黙っていられまい」
「へえ、そうなんスね。ワタシはてっきり建物を建てるときに縄を張るのが語源だと思ってたッス」
黙れそれ以上喋るな。
「自信を持つのはいいが、何事にも『絶対』はないぞ。何か『エサ』になる物が必要なんじゃないのかのう」
むう、確かにアスタロウの言う事にも一理ある。エサか。当然それも用意はしてある。
「アスタロウ、チャンコの準備を頼む」
「チャンコ?」
「リキシが主食としているものだ。オーソドックスなものは鶏ガラか昆布で出汁をとって肉や野菜をふんだんに使って土鍋で調理する。今三人しかいないからアスタロウがやってくれないか。材料はマス席の後ろに準備してある」
村人やヨルダ師匠が出てくると彼らを守ることにまでリソースが割かれるため、今回も三人で行動している。アスタロウのチャンコ番も含めて、三人全員に役割がある。
「さて、俺は俺で用意がある。エイメはここで待ってて、もしリキシが現れたら知らせてくれ」
そう声を掛けて俺は少し離れた木陰で着替えをしてくる。
できればこれはしたくはなかったんだが、ここまでリキシが来ないとなると俺自身がエサになる必要も出てくる。一人で上手くできるかどうかは不安があるが、俺はリキシの正装とも言える服装に着替える。
着替えをしていると鶏ガラ出汁のいい香りがしてきた。準備は着実に進んでいる。あとはリキシが来るのを待つだけだ。
「し、師匠、なんスか? その格好は……それってまさか」
驚くのも無理はない。木陰から戻ってきた俺が身に着けていたのは「まわし」だ。どういうものなのかよく分かんないけど前側についてるあののれんみたいな紐もちゃんとついている。あれなんなんだろう。
そして、俺が土俵を作るにあたって指示だけして自分では何もやらなかった事にもちゃんと理由がある。おれはコレを練習するために土俵の設置に参加する暇がなかったんだ。
「おお、師匠……はみ出そうッス!」
天高く右足を上げる。
そう、四股踏みだ。
「よいしょぉ!!」
エイメの掛け声と共に力強く四股を踏む。
尋常の罠ならば当然静かにしていなければ獲物は来ない。しかし今回は逆だ。出来るだけ大きな声で掛け声をかけてくれるようにエイメにも事前に打ち合わせ済み。
「よいしょぉ!!」
もう一度。今度は左足で。
俺の体重では力強い音は出ないが、雰囲気は出ている筈。この世界では、俺にしか仕掛けられない罠。力士の事を知る俺だけが仕掛けられる罠。
さあ、どうだ。
リキシの本能よ、目を覚ませ。
「ドスコイ」
その時だった。
前方の茂みの方から声が聞こえ、そして次に巨大がその姿を現したのだ。
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