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第6章 スターウォーズ
ごっつぁんです
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琴エルフ関は静かに語りだした。
「ある日、狩りで森の奥深くに侵入した時に出会ってしまったのだ。圧倒的な強さの顕現たる存在、リキシに」
琴エルフ関とエルフの里の人々の体格は明らかに違っていた。身長は高めではあるもののそれほどまで高いわけではない。
しかしその四肢と鍛えこまれた体幹の筋力は圧倒的な差がある。痩せていて、せいぜいが五、六十キロくらいしかないエルフ達に比べて琴エルフ関のそれは百キロは軽く越えている。
よくよく見てみれば元の世界で見た平均的な力士の顔立ちとは違うが……というか、なんだ、リキシの平均的な顔って。
まあ、外見的な違いと言えば耳と、後は髪の色みたいなものか。琴エルフ関は煤で髪の毛を黒く染めていたみたいだけど。他のエルフと比べるとやはり耳が少し短い様な感じはする。
しかしよくよく考えてみれば現地の人間が力士になるんだからその土地の顔つきをしているのは当たり前と言えば至極当たり前の話なんだけど。
「俺は打ち震えた。彼らの持つ圧倒的な存在感に。そして『俺もこうなりたい』と、心の底から思ったのだ」
エルフ達からは「ええ……」とか「マジか」とか、彼の正気を疑う呟きが溢れ出た。
それも仕方ないとは思う。彼の今の姿を見て、仮に髪を染めていなかったとしてもエルフだと分かる者はいまい。
元々小柄で痩せているのが特徴のエルフ族。涼やかな顔立ちの優男風の外見が彼らの種族的特徴であり、そして美的感覚とも一致するのだろう。
そして今の琴エルフ関の外見はその美的感覚に真っ向から立ち向かうようなものだ。非難の声が上がるのも分かる。
「だからってリキシになる事なんてないだろう……」
「あまりにも醜い。まるでオークのようだ」
たしかに、オークっぽいかもしれない。俺も正直彼らの意見には同意する。美男美女ぞろいのエルフの持って生まれた外見を捨てて、なんでよりによってリキシに?
「そんな言い方は無いんじゃないんスか」
しかしこの非難の声に反論したのは何故かエイメだった。
「強い者に憧れを抱くのがそんなにおかしいことスか? 誰もが小さい頃は、純粋な強さに憧れたことがあるんじゃないんスか?」
その言葉に、誰もが身に覚えがあったのだろう。彼女を否定する者はいなかった。
「ワタシは、常々思っていたんス」
まさに多様性というものであろうか。少々特殊な趣味を持つ彼女の意見は、この凝り固まったエルフの里という閉じた世界で生きてきた人々の頭をほぐすことができるのかもしれない。
「女よりも男の方が、より『強さ』に惹かれるものなんス。レディコミと男性向けエロ漫画を読み比べてみても、女よりもむしろ男の方が巨根が大好きなのは明らかッス」
「ごめんちょっと黙っててくれるかな」
多様にも限度があるんだよバカ。
「彼女の言う通りだ」
琴エルフ関が再び口を開く。
「やっぱり琴エルフ関もデカ〇ンが……」
「だから黙ってろって」
俺はエイメの口を手で塞いで琴エルフ関の言葉の先を促す。
「俺はただ『強さ』に憧れて、自分もああなりたいと思ってこのエルフ山部屋の門をたたいただけだ。ただスモウが取りたいだけなんだ」
エルフ山部屋って言うのかこの相撲部屋。まあいい、とにかく。それならば、そもそもエルフとリキシが衝突する必要なんて無いはずだ。満を持して、俺は口を開く。
「ここを、国技館にする」
みなが、ポカンと口を開けている。だがエルフ山一門の弟子達は高揚した顔を浮かべる者達もいた。
「ここをエルフ山一門の本拠地として、それと同時に世界中のリキシが集まり、技を競い合う聖地にするんだ。このドヒョウを」
「俺達に、戦いの場を提供してくれるというのか!?」
エルフの里の人達が、了承してくれるなら、の話したが。だからこそ俺は出来る限りの本格的な土俵と、マス席まで拵えさせたんだ。
「そして国技館の運営は、里の人達に頼みたい。ここで相撲が行われれば、それを見に訪れる旅人も出てくるだろう。決してエルフの里にも悪い話じゃないはずだ」
すぐには決断できない事だろう。里長のカルモンドは「む……」と呻き声を上げて考え込んでしまった。
「良い話ではないか、カルモンド」
そんな彼に後ろから声を掛けたのはさんざん脳内会話で俺の頭の中を蹂躙しやがったヨルダ師匠だった。今更出てきて美味しいところもってかれるのはすこし癪だが、カルモンドも彼の後押しがあれば決断しやすいだろう。
「わかりました、勇者様。出来る限りのことはやってみましょう。ヨルダ様も同じ考えのようですし……」
少々のアクシデントはあったものの、俺の描いた絵図通りに作戦は実行できた。この後が上手くいくかは分からないが。
それにしても、リキシの正体が強さに憧れて相撲部屋の門をたたいた元人間やエルフだったとは。
いや考えてみれば当たり前っちゃあ当たり前なんだが。
「部屋の兄弟子たちはあまりにも長く角界で暮らしたためにもはやスモウジンクでしか喋れない者も多いです。この琴エルフが両者の橋渡し役となりましょう」
きっとうまくいく。
人間とリキシは共存共栄していける関係のはずなんだ。日本ではそうやって暮らしていたんだから。
「さすがは儂の見込んだ勇者じゃ、ケンジよ。お主のその気高い精神と、勃〇があれば、きっとこの世界を救えることじゃろう」
「ヨルダ師匠……」
「うむ、勇者よ。おぬしと共に冒険できることを、儂も誇りに思うぞ」
「アスタロウ……」
「さすが師匠ッス。ナニは小さいけど心はでっかいッスね」
「死ね」
ここから、このエルフ山部屋から、この世界のスモウの歴史が始まるんだ。
「ゴッツァンデス」
エルフ山部屋のリキシ達も感謝の意を表してくれた。俺はこのやり方で、魔族と人間の間も上手く取り持ってみせる。
「これにて免許皆伝じゃ。お主の活躍を祈っておるぞ、ケンジよ」
「行ってきます、師匠」
師匠と別れの言葉を交わす。これで、俺も勃気術のマスター……ん? なんかおかしいな? なんで俺は勃気術のマスターなんかに?
「起力とともにあらんことを」
いや、おかしいだろ。
俺は勃気の探知能力の消し方を求めてヨルダ師匠に師事したはず……なのになんで勃気マスターになってんだ?
「ある日、狩りで森の奥深くに侵入した時に出会ってしまったのだ。圧倒的な強さの顕現たる存在、リキシに」
琴エルフ関とエルフの里の人々の体格は明らかに違っていた。身長は高めではあるもののそれほどまで高いわけではない。
しかしその四肢と鍛えこまれた体幹の筋力は圧倒的な差がある。痩せていて、せいぜいが五、六十キロくらいしかないエルフ達に比べて琴エルフ関のそれは百キロは軽く越えている。
よくよく見てみれば元の世界で見た平均的な力士の顔立ちとは違うが……というか、なんだ、リキシの平均的な顔って。
まあ、外見的な違いと言えば耳と、後は髪の色みたいなものか。琴エルフ関は煤で髪の毛を黒く染めていたみたいだけど。他のエルフと比べるとやはり耳が少し短い様な感じはする。
しかしよくよく考えてみれば現地の人間が力士になるんだからその土地の顔つきをしているのは当たり前と言えば至極当たり前の話なんだけど。
「俺は打ち震えた。彼らの持つ圧倒的な存在感に。そして『俺もこうなりたい』と、心の底から思ったのだ」
エルフ達からは「ええ……」とか「マジか」とか、彼の正気を疑う呟きが溢れ出た。
それも仕方ないとは思う。彼の今の姿を見て、仮に髪を染めていなかったとしてもエルフだと分かる者はいまい。
元々小柄で痩せているのが特徴のエルフ族。涼やかな顔立ちの優男風の外見が彼らの種族的特徴であり、そして美的感覚とも一致するのだろう。
そして今の琴エルフ関の外見はその美的感覚に真っ向から立ち向かうようなものだ。非難の声が上がるのも分かる。
「だからってリキシになる事なんてないだろう……」
「あまりにも醜い。まるでオークのようだ」
たしかに、オークっぽいかもしれない。俺も正直彼らの意見には同意する。美男美女ぞろいのエルフの持って生まれた外見を捨てて、なんでよりによってリキシに?
「そんな言い方は無いんじゃないんスか」
しかしこの非難の声に反論したのは何故かエイメだった。
「強い者に憧れを抱くのがそんなにおかしいことスか? 誰もが小さい頃は、純粋な強さに憧れたことがあるんじゃないんスか?」
その言葉に、誰もが身に覚えがあったのだろう。彼女を否定する者はいなかった。
「ワタシは、常々思っていたんス」
まさに多様性というものであろうか。少々特殊な趣味を持つ彼女の意見は、この凝り固まったエルフの里という閉じた世界で生きてきた人々の頭をほぐすことができるのかもしれない。
「女よりも男の方が、より『強さ』に惹かれるものなんス。レディコミと男性向けエロ漫画を読み比べてみても、女よりもむしろ男の方が巨根が大好きなのは明らかッス」
「ごめんちょっと黙っててくれるかな」
多様にも限度があるんだよバカ。
「彼女の言う通りだ」
琴エルフ関が再び口を開く。
「やっぱり琴エルフ関もデカ〇ンが……」
「だから黙ってろって」
俺はエイメの口を手で塞いで琴エルフ関の言葉の先を促す。
「俺はただ『強さ』に憧れて、自分もああなりたいと思ってこのエルフ山部屋の門をたたいただけだ。ただスモウが取りたいだけなんだ」
エルフ山部屋って言うのかこの相撲部屋。まあいい、とにかく。それならば、そもそもエルフとリキシが衝突する必要なんて無いはずだ。満を持して、俺は口を開く。
「ここを、国技館にする」
みなが、ポカンと口を開けている。だがエルフ山一門の弟子達は高揚した顔を浮かべる者達もいた。
「ここをエルフ山一門の本拠地として、それと同時に世界中のリキシが集まり、技を競い合う聖地にするんだ。このドヒョウを」
「俺達に、戦いの場を提供してくれるというのか!?」
エルフの里の人達が、了承してくれるなら、の話したが。だからこそ俺は出来る限りの本格的な土俵と、マス席まで拵えさせたんだ。
「そして国技館の運営は、里の人達に頼みたい。ここで相撲が行われれば、それを見に訪れる旅人も出てくるだろう。決してエルフの里にも悪い話じゃないはずだ」
すぐには決断できない事だろう。里長のカルモンドは「む……」と呻き声を上げて考え込んでしまった。
「良い話ではないか、カルモンド」
そんな彼に後ろから声を掛けたのはさんざん脳内会話で俺の頭の中を蹂躙しやがったヨルダ師匠だった。今更出てきて美味しいところもってかれるのはすこし癪だが、カルモンドも彼の後押しがあれば決断しやすいだろう。
「わかりました、勇者様。出来る限りのことはやってみましょう。ヨルダ様も同じ考えのようですし……」
少々のアクシデントはあったものの、俺の描いた絵図通りに作戦は実行できた。この後が上手くいくかは分からないが。
それにしても、リキシの正体が強さに憧れて相撲部屋の門をたたいた元人間やエルフだったとは。
いや考えてみれば当たり前っちゃあ当たり前なんだが。
「部屋の兄弟子たちはあまりにも長く角界で暮らしたためにもはやスモウジンクでしか喋れない者も多いです。この琴エルフが両者の橋渡し役となりましょう」
きっとうまくいく。
人間とリキシは共存共栄していける関係のはずなんだ。日本ではそうやって暮らしていたんだから。
「さすがは儂の見込んだ勇者じゃ、ケンジよ。お主のその気高い精神と、勃〇があれば、きっとこの世界を救えることじゃろう」
「ヨルダ師匠……」
「うむ、勇者よ。おぬしと共に冒険できることを、儂も誇りに思うぞ」
「アスタロウ……」
「さすが師匠ッス。ナニは小さいけど心はでっかいッスね」
「死ね」
ここから、このエルフ山部屋から、この世界のスモウの歴史が始まるんだ。
「ゴッツァンデス」
エルフ山部屋のリキシ達も感謝の意を表してくれた。俺はこのやり方で、魔族と人間の間も上手く取り持ってみせる。
「これにて免許皆伝じゃ。お主の活躍を祈っておるぞ、ケンジよ」
「行ってきます、師匠」
師匠と別れの言葉を交わす。これで、俺も勃気術のマスター……ん? なんかおかしいな? なんで俺は勃気術のマスターなんかに?
「起力とともにあらんことを」
いや、おかしいだろ。
俺は勃気の探知能力の消し方を求めてヨルダ師匠に師事したはず……なのになんで勃気マスターになってんだ?
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