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第7章 それは美しき光の玉
案内人
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さて、いよいよここからは人の支配の及ばない土地魔族の領域グラントーレになるらしい。それはいいんだが。
「よろしく、ケンジくん。また一緒に冒険ができてうれしいよ」
俺の前に現れたのは長身褐色腹筋系女子、ハリネズミ級冒険者のアンススだった。
「どゆこと? アスタロウ」
「うむ」
どうやらグラントーレの領域に入る地点で彼女と落ち合うように手配していたらしいが……
「やはり未踏領域であるグラントーレに我ら二人だけで向かうのは正直不安があってのう、腕利きの冒険者を手配していたんじゃ」
「だから俺最初っから言ってたよね? 普通こういうのは腕利きの冒険者とかつけるもんなんじゃないの? って。なんで勇者一人と聖剣の鞘がついてくるだけなんだよって」
「だから儂も言ったじゃろう。王宮に冒険者に詳しいものがおらんから手配がつかなかったと」
ああん? なんやこいつ生意気に反論してきやがって。聖剣の鞘のくせに。
「儂も冒険の最中人色々調べておってな、グラントーレに詳しく冒険者としての能力も高い彼女に改めて護衛と案内人を依頼したんじゃ」
くっそ……反論できないな。そのうちお前に出された唐揚げにレモン汁無断でぶっかけてやるから覚えてろ。
レモン汁はともかく、熟慮に熟慮を重ねた結果なんでよりによってえらばれたのがこのバカなんだよ。他にもっといいのいないのかよ。あとお前らが並んで立つとアスタロウとアヌスカリバーとアンススで名前が微妙にかぶってるんだよ。
「よろしく、ケンジくん。また一緒に冒険ができてうれしいよ~ッ!!」
「んぐむッ!?」
さっきと同じセリフを吐いてアンススは俺をぎゅっと抱きしめた。少し身長差があってアンススの方が大きいので、必然的に俺の顔は彼女の胸に埋められることとなる。
……まあ「何でアンススなんだよ」とは思ったけども別に嫌だとは言ってないからね。これはこれでいいと思うよ。
「ちょ、ちょっとアンスス。なんで同じセリフ二回言ってんだよ」
いかんいかん。俺は大きくなったマイ・サンを師匠仕込みの勃気術で押さえながら、後ろ髪をひかれつつも彼女と距離を取る。起力と共にあらんことを。
「何もリアクションが無かったから、もしかしたら聞こえなかったのかな? と思って」
こんな近くにいて聞こえてないわけないだろ。相変わらずのアホだな。
「それはそれとして、アンススはグラントーレに詳しいのか? 冒険者ってもしかしてグラントーレにまで遠征することもあるのか?」
「そこは一流冒険者たる私だからね。フッ」
「そんなことは無いはずじゃがのう。冒険者ギルドは一応民間じゃが、いらん刺激をせんようにグラントーレの領域に跨るような依頼は受けんように指導しとるはずじゃが」
まさか、ヤミで魔族を討伐したり、グラントーレのダンジョンを盗掘したりしてるって事だろうか? そんなことしてるなら魔族が怒るのも仕方ないと思うが……
「国境付近での依頼をしていると迷子の時にいつの間にかグラントーレに入り込んでることがよくあるのさ」
格好つけて言う事か。こいつバカなだけじゃなくて方向音痴でもあるのか。ホントにこんな奴に案内頼んで大丈夫なのか。なんか飼い主と散歩中に迷子になって自分だけ帰巣本能で家に帰ってくる犬が頭に浮かんだんだが。もちょっとマシなのいないの?
「とにかく、この少し先に歩いていくと比較的温厚な魔族の村がある。今日はそこで宿を取ろうか」
なんと、普通に村があるのか。とはいうものの、アルトーレに比べて木が少なく荒涼とした土地ではあるものの、何かが決定的に違うわけではない。魔族の集落ぐらいそりゃあるか。
いや、待てよ? なんか今重要な事言ったよな。
「宿をとるって? 金は?」
もちろんアルトーレの金は持っている。だがグラントーレの金なんか持ってないぞ。
「というか、魔族の世界にも貨幣経済があるんじゃのう」
そう。それは俺も思った。魔族なんて暴力が支配する世界でヒャッハーって感じで金持ってても「こんなのケツを拭く紙にもなりゃしねえのによ!!」とか言ってそうなイメージだったのに。
「ああ、そこは大丈夫。そもそもグラントーレに貨幣経済を持ち込んだのが私だからね。通貨もアルトーレと同じものを使っているわ」
は?
「いやあ、驚いたよ。初めて彼らの村に来た時、未だに原始人みたいに物々交換で取引してたんだからね。だから私が『お金』というものが如何に素晴らしいか教えてあげたのよ」
なになろう小説みたいな事してんだよお前。
「それにしても、フフッ、失礼だけど笑っちゃうよね? 貨幣経済もない原始的な生活をしてたなんて。まあ、そんなわけでここいらの知能の遅れた愚民からは私はちょっとした有名人なのよ」
水は低きに流れるというか……なろうチートの主人公って客観的な目で見るとこんな感じなのか。
そもそも他人の知能をどうこう言えるほどの知能の持ち主じゃないだろうがお前は。
貨幣経済は過去に生み出した先人たちの知恵であって、お前の功績でも何でもないんだぞ。
でも……
「いやあ、私の事を『賢者』とか『智の巨人』なんて呼ぶ人もいて慕われちゃっててね。私は別に大したことをしたつもりはないんだけど、なんだろう、こう……隠し切れない知性が溢れ出てるからかしらね」
多分、他人から知性を褒められたの、生まれて初めてだったんだろうな。こんなに嬉しそうにしてるアンスス初めて見た。彼女の事は、このままそっとしておいてやろうか。
コンコスールの奴にもいつもバカにされて腹を立ててるみたいな感じだったし、きっとこの先も知能を褒められることなんてないだろうからな。
「ケンジくんは魔王を討伐するよう命を受けて冒険してるらしいけど、私の目から見ると魔族の人達もとてもそんな邪悪な人たちには思えないのよね」
スターウォーズの話はアンススにはしていないけど、もし彼女が俺やヨルダ師匠の考えに賛同してくれるなら心強い。
「だって! 私の事をあんなに褒めてくれる人達だし!!」
たとえその原因に問題があるとしてもだ。
そんな話をしながら歩いていると小さな村が見えてきた。あれが、魔族の村か……
「よろしく、ケンジくん。また一緒に冒険ができてうれしいよ」
俺の前に現れたのは長身褐色腹筋系女子、ハリネズミ級冒険者のアンススだった。
「どゆこと? アスタロウ」
「うむ」
どうやらグラントーレの領域に入る地点で彼女と落ち合うように手配していたらしいが……
「やはり未踏領域であるグラントーレに我ら二人だけで向かうのは正直不安があってのう、腕利きの冒険者を手配していたんじゃ」
「だから俺最初っから言ってたよね? 普通こういうのは腕利きの冒険者とかつけるもんなんじゃないの? って。なんで勇者一人と聖剣の鞘がついてくるだけなんだよって」
「だから儂も言ったじゃろう。王宮に冒険者に詳しいものがおらんから手配がつかなかったと」
ああん? なんやこいつ生意気に反論してきやがって。聖剣の鞘のくせに。
「儂も冒険の最中人色々調べておってな、グラントーレに詳しく冒険者としての能力も高い彼女に改めて護衛と案内人を依頼したんじゃ」
くっそ……反論できないな。そのうちお前に出された唐揚げにレモン汁無断でぶっかけてやるから覚えてろ。
レモン汁はともかく、熟慮に熟慮を重ねた結果なんでよりによってえらばれたのがこのバカなんだよ。他にもっといいのいないのかよ。あとお前らが並んで立つとアスタロウとアヌスカリバーとアンススで名前が微妙にかぶってるんだよ。
「よろしく、ケンジくん。また一緒に冒険ができてうれしいよ~ッ!!」
「んぐむッ!?」
さっきと同じセリフを吐いてアンススは俺をぎゅっと抱きしめた。少し身長差があってアンススの方が大きいので、必然的に俺の顔は彼女の胸に埋められることとなる。
……まあ「何でアンススなんだよ」とは思ったけども別に嫌だとは言ってないからね。これはこれでいいと思うよ。
「ちょ、ちょっとアンスス。なんで同じセリフ二回言ってんだよ」
いかんいかん。俺は大きくなったマイ・サンを師匠仕込みの勃気術で押さえながら、後ろ髪をひかれつつも彼女と距離を取る。起力と共にあらんことを。
「何もリアクションが無かったから、もしかしたら聞こえなかったのかな? と思って」
こんな近くにいて聞こえてないわけないだろ。相変わらずのアホだな。
「それはそれとして、アンススはグラントーレに詳しいのか? 冒険者ってもしかしてグラントーレにまで遠征することもあるのか?」
「そこは一流冒険者たる私だからね。フッ」
「そんなことは無いはずじゃがのう。冒険者ギルドは一応民間じゃが、いらん刺激をせんようにグラントーレの領域に跨るような依頼は受けんように指導しとるはずじゃが」
まさか、ヤミで魔族を討伐したり、グラントーレのダンジョンを盗掘したりしてるって事だろうか? そんなことしてるなら魔族が怒るのも仕方ないと思うが……
「国境付近での依頼をしていると迷子の時にいつの間にかグラントーレに入り込んでることがよくあるのさ」
格好つけて言う事か。こいつバカなだけじゃなくて方向音痴でもあるのか。ホントにこんな奴に案内頼んで大丈夫なのか。なんか飼い主と散歩中に迷子になって自分だけ帰巣本能で家に帰ってくる犬が頭に浮かんだんだが。もちょっとマシなのいないの?
「とにかく、この少し先に歩いていくと比較的温厚な魔族の村がある。今日はそこで宿を取ろうか」
なんと、普通に村があるのか。とはいうものの、アルトーレに比べて木が少なく荒涼とした土地ではあるものの、何かが決定的に違うわけではない。魔族の集落ぐらいそりゃあるか。
いや、待てよ? なんか今重要な事言ったよな。
「宿をとるって? 金は?」
もちろんアルトーレの金は持っている。だがグラントーレの金なんか持ってないぞ。
「というか、魔族の世界にも貨幣経済があるんじゃのう」
そう。それは俺も思った。魔族なんて暴力が支配する世界でヒャッハーって感じで金持ってても「こんなのケツを拭く紙にもなりゃしねえのによ!!」とか言ってそうなイメージだったのに。
「ああ、そこは大丈夫。そもそもグラントーレに貨幣経済を持ち込んだのが私だからね。通貨もアルトーレと同じものを使っているわ」
は?
「いやあ、驚いたよ。初めて彼らの村に来た時、未だに原始人みたいに物々交換で取引してたんだからね。だから私が『お金』というものが如何に素晴らしいか教えてあげたのよ」
なになろう小説みたいな事してんだよお前。
「それにしても、フフッ、失礼だけど笑っちゃうよね? 貨幣経済もない原始的な生活をしてたなんて。まあ、そんなわけでここいらの知能の遅れた愚民からは私はちょっとした有名人なのよ」
水は低きに流れるというか……なろうチートの主人公って客観的な目で見るとこんな感じなのか。
そもそも他人の知能をどうこう言えるほどの知能の持ち主じゃないだろうがお前は。
貨幣経済は過去に生み出した先人たちの知恵であって、お前の功績でも何でもないんだぞ。
でも……
「いやあ、私の事を『賢者』とか『智の巨人』なんて呼ぶ人もいて慕われちゃっててね。私は別に大したことをしたつもりはないんだけど、なんだろう、こう……隠し切れない知性が溢れ出てるからかしらね」
多分、他人から知性を褒められたの、生まれて初めてだったんだろうな。こんなに嬉しそうにしてるアンスス初めて見た。彼女の事は、このままそっとしておいてやろうか。
コンコスールの奴にもいつもバカにされて腹を立ててるみたいな感じだったし、きっとこの先も知能を褒められることなんてないだろうからな。
「ケンジくんは魔王を討伐するよう命を受けて冒険してるらしいけど、私の目から見ると魔族の人達もとてもそんな邪悪な人たちには思えないのよね」
スターウォーズの話はアンススにはしていないけど、もし彼女が俺やヨルダ師匠の考えに賛同してくれるなら心強い。
「だって! 私の事をあんなに褒めてくれる人達だし!!」
たとえその原因に問題があるとしてもだ。
そんな話をしながら歩いていると小さな村が見えてきた。あれが、魔族の村か……
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