武装聖剣アヌスカリバー

月江堂

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第7章 それは美しき光の玉

ダーク人間

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「ダーク人間……?」
 
 アンスス以外の全員が首を捻る。何を言い出すんだコイツ。元から頭がおかしいとは思っていたけども。
 
「私のこの肌を見て分からない? エルフにダークエルフがいるように、人間にとっての敵対者、それがダーク人間よ」
 
 唐突に来たな。
 
 確かにイルウの話だとダークエルフは女神側と邪神側のどちらにつくかで迷っていたが、敵対種族だったエルフが女神側についたのでなし崩し的に邪神側についたみたいな話があった。
 
 あったからなんだっつう話だけど。
 
「いや、聞いたことないぞダーク人間なんて」
 
 そりゃそうだろ。俺も初めて聞いた。
 
「無理もないわ。人間にとって邪神に与する同族がいるなんて恥ずべき部分はずっと伏せられてきたからね。存在すらも否定されて、虐げられてきた種族。それが私達ダーク人間よ」
 
 こいつこんなスラスラ嘘が言える人間だったのか。
 
「いやそれなら我ら魔族が知らないのはおかしいだろうが! 我ら魔族もダーク人間なんて聞いたことも見たこともないぞ。本当に存在するのかそれ」
 
「じゃあ聞くけど、ダーク人間が存在しない証拠があるの?」
 
 うお、『悪魔の照明』だ。こいつ意外と賢いな。魔族はこれにどう対応するんだ?
 
「そんな『悪魔の照明』出せるわけがないだろう!」
 
 この世界でもやっぱりこういう詭弁に対する認識はあるんだな。もちろんアンススはそんなもの分かった上で言ってるんだろうけど。
 
「あく……なに? ダーク人間よ?」
 
 分かってなかったわ。
 
 しかしこうなると水掛け論になるな。もし強権発動して取り押さえようとするならこっちも抵抗しなきゃならない。俺はアスタロウの後ろに控えていつでもアヌスカリバーを抜ける姿勢に入る。
 
「分かった。仮にそういう種族がいるとしてだ。その二人はどう見ても普通の人間だろう。肌白いし」
 
 うっ、こっちに矛先が向かった。
 
「エルフとダークエルフもぶっちゃけ肌の色が違うだけで違いなんてないしな」
 
 そうだよな。島根と鳥取みたいなもんだよな。
 
「この二人は……」
 
 どうする? とてもアドリブが効くタイプには見えないんだが、この状況にアンススはどう答えるんだ? そろそろ知恵熱が出てぶっ倒れる頃じゃないだろうな。
 
「私の性奴隷よ!!」
 
 なんだと。
 
「性奴隷だと!?」
 
 魔族の男もいきり立つ。そりゃ、いくら何でもいきなり「性奴隷」はないだろう。突飛すぎる。というか「奴隷」で良かったんじゃないのか? 明らかに「性」の部分はいらんかったやろ。めちゃめちゃ訝しがられてるぞ。
 
「そんな……女が男を性奴隷に……? そんな、えっちなこと、あるはずが……エロ漫画じゃないんだから……」
 
 おや、何か様子がおかしいぞ。というか強い勃気を感じるぞ。アンススの言葉を信じられない自分と、そして心の奥底で「信じたい」と思っている自分で葛藤しているようだ。
 
 だが俺にはその気持ちも分かる。
 
 正直言って、俺は「女性の性欲」というものはファンタジーじゃないかと思っている。
 
 俺が日本で十七年の間生きてきて、女性が性欲を発露させた瞬間になど立ち会ったことが無かった。それはいつもエロ漫画と、AVの中にしか存在しなかったんだ。
 
 では、仮にそれが本当に存在したとして、いつもいつも俺のいないところでだけそれが存在していたということだろうか。答えはノーだ。俺がいないところでだけ女性は性欲を持て余していたなんて、それじゃまるで俺がモテない男みたいじゃないか。
 
 だとすれば「女性の性欲」……そんなものは理論上は存在するが実際には存在しない。そう結論付けるのが論理的思考というものだろう。それはきっと男の妄想が生み出したファンタジーなのだ。
 
 だがこのファンタジー世界にて、それは覆されるというのだろうか。
 
 いや、この世界に於いても、この魔族のリアクションを見るに同じ事に違いない。
 
「しょ、証拠を見せてみろ!」
 
 やはり魔族は信じられないようで、徹底的に抗弁の構えだ。
 
「フフフ、いいだろう」
 
「!?」
 
 証拠を!? 見せるのか? 今、ここで!!
 
 あかんめっちゃドキドキしてきた。アンススはゆっくりと、見せつけるように体を左右に振りながら俺に近づき、隣に並んで立った。
 
 ど、どうするつもりだ? 同じ向きに隣に立ったが……こんな体勢でえっちなことを? と、俺が戸惑っていると、すっ……と、アンススの右手の指が俺の左手に絡みついてきた。
 
 肉体労働をしているだけに、決して滑らかな肌ではない。剣ダコができていて、少しカサカサしていて、守ってあげたくなるような小ささもない。それでも……
 
 勃〇した。
 
 俺達は今……結ばれたんだ。
 
「なにしとんねんお前ら」
 
 なにって……なにがや?
 
「いや二人して何充実した目をしてるんだよ」
 
 ちっ、無粋な奴め。どうせ学校のフォークダンスくらいでしか女の子の手を握ったことのない童貞野郎なんだろう。この尊さが分からないなんて。
 
「だから『性奴隷』だっつってんのに何手を繋いだだけで満足してんだよ!! 手ぐらい俺だってフォークダンスで繋いだことあるわ!!」
 
 ふん、やっぱりそんなこったろうと思ったぜ。
 
「よく見ろ」
 
 俺は空いてる右手でアンススと繋いでいる左手を指差す。その先には各指を互い違いに組んだ二人の手がある。
 
「恋人つなぎだ」
 
「だからなんだっつうんだよ! そうじゃねえんだよ!! 俺が見たいのはもっとグチャグチャドロドロの!! そんなことしたら一発でR-18送りになっちゃうよ!? っていう感じのインモラルな絡みが見てーんだよ!! 別にお前のヤるところなんざ見たくねーけど! 見てーんだよッ!!」
 
 おやおや逆切れですか。童貞は怖い怖い。きっと心に余裕が無いせいだろうね。
 
「いいか童貞野郎。魔王討伐の命を帯びた勇者が、仲間との冒険の果てに互いを意識するようになり、二人きりの時に気持ちを確かめ合うように静かに指を絡ませ合うんだ! これはもうセックスといっても過言ではない!!」
 
「魔王討伐?」
 
「そこは今どうでもいいだろ」
 
 やべ、変な事口走っちゃった。
 
「だいたいお前らなあ、この若いのは分かったけどこっちの中年男性はなんなんだよ!! こっちも性奴隷なのかよ!!」
 
 そう言って魔族はアスタロウの肩を鷲掴みにしてぐいっと引っ張った。どうやら急に自分に話の矛先が向かうと思っていなかったアスタロウは完全にバランスを崩してしまい、思わず転んで地面に四つん這いになった。
 
 それと同時にマントがめくれあがって彼の尻があらわになった。
 
「あっ……」
 
「ああ~」
 
「あ、すいません、性奴隷ですね」
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