武装聖剣アヌスカリバー

月江堂

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第7章 それは美しき光の玉

二つの月の神殿

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「ここが、『二つの月の神殿』か」
 
 ウェックさんに遺跡までの地図を描いてもらい(さすがに案内はしてもらえなかった)、俺達は森の中にひっそりと佇む古代の遺跡の前に立つ。
 
 マチュピチュのピラミッドのように石を積み上げて作られたのだろう、四角錘状の段の上に祭壇を設けられたような形になっている、と、思うんだけど雑草と苔に覆われていて元の形もはっきりとは分からない。甚だしくは巨大な木ですらも根を張っており、知っていないとこれが元は遺跡だとは気づけないだろう。
 
 そんな誰からも忘れ去られた遺跡の名が『二つの月の神殿』と呼ばれているのは、文献に残る神殿の位置とこの遺跡が近いから、という類推に過ぎない。
 
 何のために、何が祀られている神殿なのか、今となっては誰にも分からないそうだ。
 
 そんな何があるかも分からない遺跡の位置だけ教えられて「人間が勝利したら便宜を図ってくれ」ってのも都合のいい話だよなぁ……
 
 最悪、土の上に石が積んであるだけのただの祭壇かもしれないんだから。
 
 とはいえ、そんな彼らの申し出を俺は二つ返事で了承した。なぜならば魔王を倒した後の治世の話なんか俺には何の関係もないからな。
 
「ケンジくん、こっちから中に入れるかも」
 
 小一時間遺跡の周囲を歩き回ったり、祭壇の上に登ったりしていると、随分と遺跡から離れた場所でアンススが俺を呼んだ。
 
 呼ばれて行ってみると、確かに地面が四角くくぼんでいるような場所があった。振り返って見てみると祭壇からはかなり離れてはいるものの、真っ直ぐ西の正面の位置にある。草が生え放題なのによくこんなの気付いたな。
 
「もし祭壇に内部があるなら地下だろうと思って。『月』に関連する遺跡なら太陽と対になる位置、西に入口があるかな? って」
 
 すげーな。一流冒険者みたいだ。
 
「とりあえず雑草と土を掘り起こしてみるか。おーい、アスタロウも来てくれ!」
 
 雑草を引き抜き、堆積した土砂を取り除くと地下に入る扉、というか蓋があり、それを引っぺがしてやるとなんとか人一人が通れるくらいの通路が現れた。
 
「なんか、神殿にしてはショボい参道というか、入り口も蓋みたいだし、違和感があるな……秘密の隠し通路とかか?」
 
「堆積してた土砂も、せいぜい二、三百年てところだし、ウェックさん達の情報とも合わないわね」
 
 外は昼間で明るいが、地下通路の中は当然真っ暗だ。ランタンに火を灯しながらアンススが呟く。
 
「合わないってのは?」
 
「『何の神殿かも忘れられる時間』にしては、最近すぎる」
 
 たしかに、二、三百年でそこまで記憶の風化は起こらないか。
 
「私の予想通りなら、少し進めば答えは出るわ」
 
 神殿の参道にしては曲がりくねった通路。先導するアンススに遅れないように俺とアスタロウは後をついていく。
 なんか……頼もしいぞ、このお姉さん。
 
「ここが入口ね」
 
「おお、今までと違って見事じゃのう」
 
 アスタロウの言う通りそれまでのまるで急ごしらえみたいな石の通路とは違って、少し開けた場所に大きな石扉が姿を現す。何やらレリーフが彫り込まれてはいるが、すり減ってしまってそれが何なのかは分からない。
 
「ところで『入口』って? さっきのが入口じゃないのか?」
 
 参道と建屋の入り口? とも思ったが、どうやらアンススが考えているのは違ったようだった。
 
「多分だけど、ここまで通ってきた入り口と地下道は、後の時代にここが『二つの月の神殿』と名付けられてから作られた物よ。ここは元々は、全然別の目的で作られた施設で、ここが本来の遺跡の入り口だと思うわ。この扉と、地下道に使われてる石の材質が、全然違うもの」
 
 言われてみれば、地下道は普通の石垣みたいなものが使われていたが、扉やその周りは白い石が使われている。
 
 要するに、元々古い時代の何かの神殿があって、それが時と共に堆積した土砂に埋もれてしまったと。
 
 それを後の時代に『二つの月の神殿』として誰かが今通ってきた地下道を作った。今はその地下道すらも忘れ去られて『二つの月の神殿』という名前だけが残っている、と。
 
「おまえ……アンススだよな?」
 
「え? どういうこと?」
 
 こんなに頭良かったか? こいつ。
 
 ダンジョンで穴にハマって壁尻してた奴と同一人物とは思えないんだけど。自分の特異な事の話題になると急にIQ上がるタイプか。
 
「……? どうしたの? ケンジくん」
 
 気付けばそんなことを考えながらじっとアンススの方を見つめてたみたいで、小首をかしげて問いかけてくる。なんというか、普段はあんなでも冒険者としての格の違いを見せつけられた感じだ。
 
「いや、頭いいな、って思って……」
 
「ひっ!?」
 
 よく分からないが、俺の言葉に驚いたアンススはびくんとのけ反って、その場にへなへなと座り込んでしまった。
 
「こ……腰が抜けた……そんな事、生まれてはじめて言われたから。嬉しくって……ちょっと漏れちゃった」
 
 なにが。
 
「ね、ねえ。お願い。もっかい言って。お願い」
 
 どんだけ飢えてんだコイツ。
 
「いや、そんなに何度も言うような事じゃないだろ。ちょっとそう思ったからぽろっと言っただけのことで、そんなに喜ぶなよ」
 
「本気でそう思ってくれたってこと!? ねえ、ホントお願い。もう一回だけ言ってくれたら満足するから!」
 
 まだ腰が抜けている状態らしく、生まれたての小鹿の様ながくがくした足取りで中腰で懇願してくる。確かに家族にもコンコスールにもバカ扱いされてたけど(実際バカだし)、そこまで嬉しいもんなのか?
 
「いや必死すぎだろお前。それに村の子供達に『智の巨人』とか『賢者様』とか言われてたじゃん」
 
「あれは……」
 
 少し目を伏せ、視線を逸らした。
 
「いつも思ってたけど、うっすらバカにしてる感じがするから」
 
 気付いてたか。意外と鋭いのね。
 
 一瞬湿っぽい空気にはなったがアンススは再度攻勢を仕掛けてくる。
 
「ねえお願い! もう一回言ってくれたら私の体に好きな事してくれていいから!!」
 
「それもお前の願望だろうが! 自分に都合のいいことばっかりしようとするな!!」
 
 凄まじい力で抱きしめるように縋りつくアンススを何とかして引っぺがそうとするものの、さすがはハリネズミ級冒険者。ここ一番の粘りというものが違う。俺このまま犯されるんじゃないだろうか。
 
「おお、意外と中は明るいのう」

 重い石扉を開く音。

 俺達が大騒ぎしている間にアスタロウに遺跡への一番乗りを掻っ攫われていた。
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