武装聖剣アヌスカリバー

月江堂

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最終章 手を取り合って

普通スね

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「もういいです。ごめんなさい。勃〇してましたッ!!」
 
 鬼龍院アキラは剣を再び取り落とし、その場にうずくまって泣き出した。情緒不安定だなこいつ。勃〇なんて皆するんだからそんなに落ち込まなくてもいいのに。
 
「む、私の魅了チャームにも耐える精神力の勇者を、一度ならず二度までも無力化するとは、おぬしいったい何者だ」
 
 勇者ですけど。
 
「もしかしたら私が前に会ったのはやっぱりアキラではなくおぬしだったかもしれん」
 
 都合のいいこと言ってんじゃねえよぶんなぐるぞ魔王。
 
 それにしても空気が冷えっ冷えだな。アキラはもう剣を拾うこともなくさめざめと泣いてるし、女性陣はそんな彼を冷ややかな目で見ている。
 
 勃〇ってそんなダメかな? うちのパーティーならそのくらいなら全然気にしないと思うぞ。
 
「なにか……」
 
 そんなお通夜ムードの空気の中、すぐそばにいたアスタロウがぼそりと口を開く。
 
「なにか、なにか気の利いた一言を……この場を丸く収める珠玉のセリフを」
 
 そんなこと急に言われても、こんな状況を想定してなかったからうまい言葉が思い浮かばないよ。と、思っていたらエイメが一歩前に出た。
 
「勃〇の何がいけないっていうんスか」
 
 俺のカンでは、基本こいつにしゃべらせたらいけないと思う。でも今回はちょっと面白いので見守ろう。
 
「男っていうのはッスね……勃〇してる姿が、一番カッコイイんスよ!!」
 
 やっぱダメだわ。エイメを押しのけて俺が前に出る。
 
 とはいうものの、いったい何をしゃべったらいいのか。いや別に勃〇してるのはいいんだよ。生理現象なんだから仕方ない。「言葉」が必要なのはもっと、根本的なところだ。
 
 好戦派の勇者が戦えなくなったから、じゃあ融和政策で行きましょうね~、とはならない。正直言って魔族側も人間側も蛮行に及んでいると知ってしまった今、俺にも本当にそれでいいのかと思ってはいるんだ。
 
 本当に、融和政策をとるべきなのか。この状態で魔族と人が交じり合っても、混乱が増すばかりじゃないのか。
 
「……人は、分かり合えるはずだ」
 
 とりあえず脳内に用意していた元々吐く予定だったセリフを絞り出す。
 
「そんな風に考えていた時期が俺にもありました」
 
 だがそんなお題目で場が収まらないのは分かっている。互いに譲れない正義があって、命を取り合おうとしてるんだから、こんな綺麗事じゃすまないだろう。
 
 辺りが静まり返る。みなが俺に注目している。
 
 魔王も、アスタロウ達も。意気消沈して戦う意思は失ったとはいえ、好戦派のアキラ達ももちろん注目している。
 
 中途半端な答えを出せばだれも納得しないだろう。きれいな建て前や、お飾りじゃない、それでいて現実的な言葉を。
 
「人は、分かり合える時もあるし、分かり合えない時もある」
 
「普通ッスね」
 
「いや聞いてくれ!!」
 
 勢いで乗り切る。エイメの素朴な突っ込みだけで打ち切って、他の奴がぎゃーぎゃー騒ぎ出す前に俺は次の言葉を紡ぐ。
 
「実際人が他人のことを完全に理解することなんてできないだろ。それを無理やり『理解できる』なんて強弁するから本当に理解できない奴に出会ったときに今度は攻撃し始めたりするんだよ」
 
LGBTは許されても、ロリコンは許されない。「弱者救済」を謳っているはずのリベラルが自分たちに反対する人達を「社会的弱者」と罵る。そんな例は枚挙に暇がない。
 
 どんな崇高な思想を掲げている人間も、助けるのは自分の理解の及ぶ人間だけで、それ以外については助けないどころか攻撃してきたのが人間の歴史だ。
 
「じゃあ理解できないなら殺しあうしかないのか? それも違う」
 
 前にも言った通り、それじゃどちらかが滅びるまで殺しあうしかなくなる。
 
「じゃあ……どうしろっていうんだよ」
 
 すっかりやさぐれた表情で床に座り込んだ状態のアキラが尋ねる。もはやその姿に世界を救う勇者の面影はない。俺の考えにいちゃもんをつけたくて仕方ないんだろう。そんな顔をしている。
 
「何事もやりすぎは良くないって話だよ……国境をしっかり策定して、ほどほどに交易でもして、あとは……まあ、仲良く喧嘩しな」
 
「ふざけるなッ!!」
 
 やっぱキレたか。
 
「君はいったい何しにこの世界に来たんだ! それが勇者の出す答えか!? そんなもんいなくても一緒じゃないか!!」
 
 まあ、我ながら酷い結論だとは思う。ってか結論出てねえし。でもね? 現実の地球でも結論が出てない問題をこんなふざけたファンタジー世界で「これが答えだ」なんて出せるわけねえだろ。無責任だよ。
 
「アルトーレからここに来るときにな? 国境も関所もなかっただろ? そういうとこちゃんとした方がいいよ。同じ場所にいたら喧嘩しちゃうんだから住み分けはやった方がいいって。国境って大事だなぁ……って思った」
 
「普通スね」
 
 だってその普通のことができてないんだもん。そりゃ争いになるよ。
 
「普通って大事だよ。エイメいいこと言ってると思うよ。普通のことをちゃんと普通にしようよ」
 
「私も! 普通だなって思った!!」
 
 急にでかい声を出すなアンスス。
 
「こう、ケンジくん、さすが勇者だな、めちゃくちゃ普通だなって思ったよ、私も。だってケンジくん、こう……すごく普通だもん」
 
 多分エイメが出張ってきて存在感薄くなってきてたから慌ててポイント稼ごうと「なんか発言しなきゃ」って思ったんだろうけど、お前それ全然褒めてねえからな。どっちかっていうとけなし気味の発言だからな。
 
「ケンジくん私いいこと言ってる!?」
「ああ言ってる言ってる」
「やったーだいすき!!」
 
 人間がみんなこんな簡単ならいいんだけどな。
 
 でもな、普通のことを地道にやってくことが、結局は一番の近道なんだよ。確かにこの世界のどっかに悪の大魔王がいて、そいつを倒しさえすればなんもかんも全部よくなるってんなら楽だけどさ。そんなのありえねーよ。
 
「というわけで、帰ったらまずは協議してアルトーレとグラントーレの国境を決めよう。ほいでそれが終わったら協力して地獄の大公爵アスタロトとドラゴンカーセックス生命体の対策会議だ」
 
向き合わなきゃ。現実と。
 
『よくぞ言った。人の子よ』
 
「うわっ!?」
 
 まさか、第三……いや、四か。第四の直接脳内会話野郎か。
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