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謎の男フィロストラトス

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 路行く人を押しのけ、はねとばし、ちんちんを振り回し、メロスは黒い風のように走った。野原で酒宴の、その宴席のまっただ中を駆け抜け、酒宴の人たちを仰天させ、犬を蹴飛ばし、猫を蹴飛ばし、ホームレスを蹴飛ばし、少しずつ沈んでゆく太陽の、倍も速く走った。

 一団の旅人とさっとすれ違った瞬間、不吉な会話を小耳にはさんだ。

「今頃はあの男も、潮吹きしているよ」

 ああ、その男、そのセリなんとかのために私は、いまこんなに走ってやっているのだ。あの男さえいなければこんなにつらい思いはせずに済むのに。

 急げ、メロス。おくれてはならぬ。大人の力を、いまこそ分からせてやるがよい。風体なんかは、どうでもいい。ローマでは全裸は恥ずべきことではない。ただ、さきっぽだけは皮を被せておかねばならぬ。それがマナーだ。

 はるか向こうに小さく、シラクスの市の塔楼が見える。塔楼は、夕陽を受けてキラキラ光っている。

「ああ、メロス様」

 うめくような声が、風と共に聞こえた。

「誰だ」

 メロスは走りながら尋ねた。

「フィロストラトスでごさいます」

「フィストファック?」

「貴方のお友達セリヌンティウス様の弟子でございます」

「セリヌンティウス?」

 その若いオナホ職人も、メロスの後について走りながら叫んだ。

「もう、ダメでございます。むだでございます。走るのは、やめてください。もう、あの方をお助けになることは出来ません」

「フィロラントス、まだ陽は沈まぬ」

「フィロストラトスです。ちょうど今、あの方は手コキで連続絶頂射精しているところです。ああ、あなたは遅かった。おうらみ申します。ほんの少し、もうちょっとでも、早かったなら!」

「いや、まだ陽は沈まぬ、フィラトロトス」

 メロスは胸の張り裂ける思いで、赤く大きい夕陽ばかりを見つめていた。走るより他は無い。

「やめて下さい。フィラストロン……フィロストラトスです。いまはご自分のお命が大事です。あの方は、あなたを信じて居りました。刑場に引き出されても、平気でいました。メスガキが、さんざんあの方をからかっても、メロスは来ます、とだけ答え、強い信念を持ち続けている様子でございました」

「からかっても?」

 メロスは足を止め、フィロストラトスに尋ねた。走らなくてよいのか。

「はい。からかっても」

「どんなふうにからかったのか」

 急いでいるのではないのか。一瞬呆けていたフィロストラトスであったが、しかし決意した目を見せ、メロスに両足をそろえて立つように指導した。

「あ、メロスさんは、はい……そうです。手を広げて……」

 どうやらメロスがセリヌンティウス役をやるようである。ごほん、とフィロストラトスが咳ばらいをし、寸劇が始まった。

「ねぇ~、こんな状態になってもまぁだメロスが来るなんて思ってるのぉ?」

 くねくねと腰を揺らしながら、挑発的な笑みを浮かべてフィロストラトスがメロスに話しかける。迫真の演技であるが、ヴィジュアル的に少し、キツイ。

「今頃山賊にでも襲われて泣いてるんじゃないのお? あのおっさんよわっちそうだったしぃ♡」

「なに。なぜ山賊の事を知っている」

 村からシラクスに戻る途中の山賊との邂逅。エンカウントによるランダムバトルだと思っていたものの、しかしなぜそれをメスガキが知っているのかとメロスは思ったのだが。

「すいません、途中なので」
「あっ、はい」

 一瞬素に戻ってしまったメロスをたしなめると、フィロストラトスは再び咳払いをしてから演技に戻った。もしかして本当はオナホ職人ではなく、役者となってコロッセオで演劇でもしたかったのかもしれない。

「これでわかったでしょぉ? よわよわちんぽのダメ大人が約束なんて守るわけないって♡ セリちゃんもあたしのちんぽ奴隷になっちゃえばいいのよ♡」

 そう言いながらメロスの乳首をつんつんとつつきながら陰部をぎゅっと握る。念のため記すが、フィロストラトスは男である。

「きゃはは♡ なっさけなぁ~い♡ こんなにバカにされながらでも、こっちは固くなっちゃうんだぁ♡ あたしがなんかしなくても、生まれついてのちんぽ奴隷じゃん♡」

 メロスは、天を仰いだ。両足に力がみなぎってくるのを感じた。メスガキが、待っている。大地を力強く踏みしめた両足から力が昇ってきて、その力が股間に集中するように感じられた。メスガキを、分からせねば、ならぬ。

「それだから、走るのだ。大人だから、走るのだ。間に合う、間に合わぬは問題ではないのだ。寸劇をしている間に陽は沈んでしまったが問題ではないのだ。人の命も問題でないのだ。私は、なんだか、もっと恐ろしく大きいもののために走っているのだ。ついて来い! フィロントロス」

「フィロストラトスです。あなたは気が狂ったか。それでは、うんと走るがいい。ひょっとしたら、間に合わぬものでも、あっ、いやもうだめだな。完全に陽が落ちてるわこれ」

 言うにや及ぶ。もう陽は沈んでいる。だが最後の死力を尽くして、メロスは走った。メロスの頭は、生まれつきからっぽだ。何一つ考えていない。ただ、わけのわからぬ大きな性欲にひきずられて走った。

 陽は、すでに地平線に没し、まさに最後の一辺の残光もこの地上には残っていないのだが、メロスはそよ風の如く刑場に突入した。間に合わなかった。

 刑場では、まさにセリヌンティウスが十字架に磔にされ、丸裸でメスガキにちんちんを弄ばれている最中であった。

「きゃははは♡ セリちゃん情けなぁ~い♡ とんでもない早漏じゃぁん!」
「うう、メスガキウス様、今敏感になっているので、手を止めてください」
「ねえ、セリちゃん、男の潮吹きって見てみたくない? 男も射精した後連続でしごき続けると潮吹いちゃうんだよぉ♡」

 どうやらまさにセリヌンティウスがメスガキに限界手コキをされているようである。これが間に合わなかったのか、それとも間に合ったのか、メロスにはその判断がつかなかったが、普通に考えればどう考えても間に合っていない。

 「待て。その人を殺してはならぬ。メロスが帰って来た。約束のとおり、いま、帰って来た」と大声で刑場の群衆に向かって叫ぼうかとも思ったが、もうちょっと見ていることにした。

「ほらほらぁ♡ やっぱりメロスなんてこないじゃない。男の友情なんてそんなもんよぉ♡ あんたも早く降参して私のちんぽ奴隷になっちゃいなさい!」

 唐突に自分の名が出て、メロスは少しぎくりとしたが、しかしそれでも見守り続ける。もうちょっと。もうちょっと。

「メロス様、行かなくてよろしいので?」
「フィラストロトス。まだいたのか」
「あなたがついて来いと言ったから来たのですが。あと、フィロストラトスです。おしい」
「よいか、フィーちゃん。物事には好機というものがある。慎重にそれを見極めねばならぬ」

 どうやら正確に名前を呼ぶのはもうあきらめたようである。

「ふふん♡ 意外と強情な奴♡ こうなったら絶対に自分の口から奴隷にしてください、って言わせてあげるわ♡」

 そう言いながらメスガキはキャミソールの裾に手をかけ、少しずつそれをめくりあげる。ゆっくりと顔を覗かせる奥ゆかしいちっぽけなへそ。その周りを彩る控えめな起伏を構成する腹筋。全てが完璧な造形を持っており、そして一様に白く、美しい。

 そのまま裾はせり上がり、やがて少女の柔らかなふくらみと、その頂上にぷっくりと鎮座する薄桃色の乳首をあらわにした。

「なんと、パフィーニップル且つ陥没乳首だと」

 メロスは驚愕した。手のひらに収めるにはいささか足りない、未成熟なふくらみはじめの乳房の先についているものは柔らかく膨らんだ乳輪であり、同時にその先は突起が陥没していたのだ。

「なるほど。なぜ市民がメスガキの圧政に立ち向かわぬのか。それが分からなかったが、確かにあれでは敵う筈もあるまい。やはり俺が分からせねばならぬ」

 メロスはようやく群衆を掻き分け、前に出た。
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