【完結】ブレイクスルートゥルー

笹川流宇

文字の大きさ
5 / 17

しおりを挟む
 夏休みは、夏期講習であったり勉強合宿があったりと中々新多に会えなかったが、それでも時間を捻出しては遊びに出かけていた。
 二学期が始まる直前に、スケジュールの変更や自宅外での自習が多すぎる、と寿美子から指摘された。
 なんとなく新多のことを話すのは躊躇われたので、透琉は、図書館の方が冷房の効きが良く集中できるだとか、学校のグループ課題があったとか、何かと理由をつけて、寿美子との話し合いを避け続けていた。
「どうした。ふっかーいため息なんてついて。受験生かよ」
「受験生ではあるけど、勉強の悩みじゃないよ」
 後ろから抱き着かれた透琉は、顎を上げて新多を見上げる。
「嗚呼……なるほど。残念だが、身長はもう諦めな? 俺は透琉のつむじにあご乗せるの結構好きだし」
「チビで悪かったね。そうじゃなくて、最近目の奥が痛くて……。眼下に行ったんだけど、視力は落ちてないんだよね」
「ああ……やっぱ、勉強しすぎとかじゃねぇの?」
「この時期の受験生はみんなそんなものじゃない? むしろ僕らは遊びに行きすぎなくらいだと思う。新多君も卒業後は、親戚の会社に入るっていっても、少し勉強するフリくらいした方がいいんじゃないかな」
「ははっ、フリでいいのかよ。透琉もどんどん不良になってきちゃってんなぁ。俺のせい?」
「新多君のせいじゃない。僕だって元々聖人君主ってわけでもないから……」
「そこが味ってね。たまにチワワからシェパードみたいになるもんな、透琉ちゃんは」
「褒められてる気がしない……」
 愉快そうな新多は、透琉の頬を撫でまわす。
 新多が高校三年生の春という異例な時期に転校してきたのは、両親の離婚により親戚に引き取られたためらしい。就職先も親戚の家業を継ぐようで、新多には受験生特有の焦りが全くない。
 透琉にとっては、過剰に気を遣われるよりも普通に接してもらえた方が楽だ。
 正反対に見えて、性格の相性が良い。
 会話もストレスがないし、新多と話すようになって、自分はここまでおしゃべりな人間だったのか、と新しい発見もあった。

 しかし、一つだけ未だに慣れないことがある。
 エスカレートしていくボディータッチに戸惑いながら、透琉は黙ってそれを受け入れる。
 両親でさえ手を繋いだ記憶はないのに、新多は当たり前のように透琉に触れるので、ついついありのままの自分を肯定された気持ちになる。それがむず痒いのだ。
 新多の隣は安心するといっても、眩暈が治まらない日はある。今がまさにそうだ。
「うっ、ごめん、眩暈が……。ちょっとトイレに……」
「悪りぃ、朝から体調悪そうだったのに。俺もついて行く」
「ありがとう……」
 先ほどのスキンシップとは違い、介抱するような手つきで支えられる。
 身長差もあるのに、透琉に合わせて腰を落として歩きやすいようにしてくれているようだ。
 ぐわんぐわんと揺れる視界でも、それが無性に嬉しくて、透琉は、はあ、と安堵の息を吐いた。

 昼休みも残りわずかとなったあたりで吐き気はなくなった。
 新多が背中を撫でていてくれたおかげだろう。
 トイレを出る前に手を洗っていると、目の前の鏡がピキッと音を立てた。
「えっ?」
 透琉が顔を上げた瞬間、鏡に亀裂が入った――ような気がした。
 音の発生源である場所を新多が手で覆っているため、確認できない。
「どうしたん、とぉーる?」
 いつの間にか後ろから片腕をまわされ、密着しているため振り返ることもできない。
 ただなんとなく、いつも以上に新多の声が甘く、これ以上聞いてはいけないと思った。
「な、なんでもないよ……」と答えれば、新多は「そっか」と美しく微笑む。作り物のような貼り付けた笑みは綺麗すぎて、恐ろしくもあった。
 鏡越しに合う視線は、嘘を見抜かれたようで居心地が悪い。
 透琉は、空気を変えようと、引きつった笑みを浮かべる。
「新多君……?」と呼びかけると「なんでもないよ」と先ほど自分が発した言葉がそのまま返って来た。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夜が明けなければいいのに(洋風)

万里
BL
大国の第三皇子・ルシアンは、幼い頃から「王位には縁のない皇子」として育てられてきた。輝く金髪と碧眼を持つその美貌は、まるで人形のように完璧だが、どこか冷ややかで近寄りがたい。 しかしその裏には、誰よりも繊細で、愛されたいと願う幼い心が隠されている。 そんなルシアンに、ある日突然、国の命運を背負う役目が降りかかる。 長年対立してきた隣国との和平の証として、敵国の大公令嬢への婿入り――実質的な“人質”としての政略結婚が正式に決まったのだ。 「名誉ある生贄」。 それが自分に与えられた役割だと、ルシアンは理解していた。 部屋に戻ると、いつものように従者のカイルが静かに迎える。 黒髪の護衛騎士――幼い頃からずっと傍にいてくれた唯一の存在。 本当は、別れが怖くてたまらない。 けれど、その弱さを見せることができない。 「やっとこの退屈な城から出られる。せいせいする」 心にもない言葉を吐き捨てる。 カイルが引き止めてくれることを、どこかで期待しながら。 だがカイルは、いつもと変わらぬ落ち着いた声で告げる。 「……おめでとうございます、殿下」 恭しく頭を下げるその姿は、あまりにも遠い。 その淡々とした態度が、ルシアンの胸に鋭く突き刺さる。 ――おめでとうなんて、言わないでほしかった。 ――本当は、行きたくなんてないのに。 和風と洋風はどちらも大筋は同じようにしようかと。ところどころ違うかもしれませんが。 お楽しみいただければ幸いです。

悪役令息に転生した俺は推しの為に舞台から退場する

スノウマン(ユッキー)
BL
前世の記憶を思い出したアレクシスは悪役令息に転生したことに気づく。このままでは推しである義弟ノアが世界を救った後も幸せになれない未来を迎えてしまう。それを回避する為に、俺は舞台から退場することを選んだ。全てを燃やし尽くす事で。 そんな俺の行動によってノアが俺に執着することになるとも知らずに。

青龍将軍の新婚生活

蒼井あざらし
BL
犬猿の仲だった青辰国と涼白国は長年の争いに終止符を打ち、友好を結ぶこととなった。その友好の証として、それぞれの国を代表する二人の将軍――青龍将軍と白虎将軍の婚姻話が持ち上がる。 武勇名高い二人の将軍の婚姻は政略結婚であることが火を見るより明らかで、国民の誰もが「国境沿いで睨み合いをしていた将軍同士の結婚など上手くいくはずがない」と心の中では思っていた。 そんな国民たちの心配と期待を背負い、青辰の青龍将軍・星燐は家族に高らかに宣言し母国を旅立った。 「私は……良き伴侶となり幸せな家庭を築いて参ります!」 幼少期から伴侶となる人に尽くしたいという願望を持っていた星燐の願いは叶うのか。 中華風政略結婚ラブコメ。 ※他のサイトにも投稿しています。

『2度目の世界で、あなたと……』 ― 魔法と番が支配する世界で、二度目の人生を ―

なの
BL
Ωとして生まれたリオナは、政略結婚の駒として生き、信じていた結婚相手に裏切られ、孤独の中で命を落とした。 ――はずだった。 目を覚ますと、そこは同じ世界、同じ屋敷、同じ朝。 時間だけが巻き戻り、前世の記憶を持つのは自分だけ。 愛を知らないまま死んだ。今度こそ、本物の愛を知り、自ら選び取る人生を生きる。 これは、愛を知らず道具として生きてきたΩが、初めて出会った温もりに触れ、自らの意思で愛を選び直す物語。 「愛を知らず道具として生きてきたΩが転生を機に、 年上αの騎士と本物の愛を掴みます。 全6話+番外編完結済み!サクサク読めます。

happy dead end

瑞原唯子
BL
「それでも俺に一生を捧げる覚悟はあるか?」 シルヴィオは幼いころに第一王子の遊び相手として抜擢され、初めて会ったときから彼の美しさに心を奪われた。そして彼もシルヴィオだけに心を開いていた。しかし中等部に上がると、彼はとある女子生徒に興味を示すようになり——。

彼の想いはちょっと重い

なかあたま
BL
幼少期、心矢に「結婚してほしい」と告げられた優希は「お前が高校生になっても好きな人がいなかったら、考えてやらなくもない」と返事をした。 数年後、高校生になった心矢は優希へ結婚してほしいと申し出る。しかし、約束をすっかり忘れていた優希は二ヶ月だけ猶予をくれ、と告げる。 健全BL 年下×年上 表紙はhttps://www.pixiv.net/artworks/140379292様からお借りしました。

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

【8話完結】転生戦士に婚約者認定されましたが、冗談だったんですってば!

キノア9g
BL
普通の高校生活を送る藤宮直哉(ふじみや なおや)は、恋愛には縁がなく、平凡な毎日を過ごしていた。そんなある日、クラスメイトの神崎レオンが階段から落ちたのをきっかけに、突如として人格が激変。どうやら彼は異世界からの転生者で、前世では32歳の元戦士だったらしい。 戦場で鍛えられた包容力と責任感、そして異世界の「契りは絶対」という常識を引きずるレオンは、友人の悪ノリによる「付き合ってる発言」を真に受けてしまい―― 「責任は取る」 「いや、待って、そもそも冗談だし!?」 「契約は神聖なものだ。守らねば」 家事魔法で飯はうまいし、突然お風呂を沸かし始めるし、なんか毎日が騒がしすぎる! 自分とは正反対の価値観で動く元戦士に振り回されながらも、直哉の心には少しずつ変化が――? これは、異世界常識が現代に突っ込まれたせいで始まってしまった、「責任感強すぎ元戦士」と「お人好し一般高校生」の、嘘から始まる本気の婚約者(仮)生活。 男同士なんてありえない? でも、なんかこの人、ずるいくらい優しいんだけど――。 全8話。旧タイトル「クラスメイトが異世界転生者らしいのだが、巻き込まないでもらいたい!〜冗談から始まる婚約者生活〜」2025/07/19加筆修正済み。

処理中です...