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夏休みは、夏期講習であったり勉強合宿があったりと中々新多に会えなかったが、それでも時間を捻出しては遊びに出かけていた。
二学期が始まる直前に、スケジュールの変更や自宅外での自習が多すぎる、と寿美子から指摘された。
なんとなく新多のことを話すのは躊躇われたので、透琉は、図書館の方が冷房の効きが良く集中できるだとか、学校のグループ課題があったとか、何かと理由をつけて、寿美子との話し合いを避け続けていた。
「どうした。ふっかーいため息なんてついて。受験生かよ」
「受験生ではあるけど、勉強の悩みじゃないよ」
後ろから抱き着かれた透琉は、顎を上げて新多を見上げる。
「嗚呼……なるほど。残念だが、身長はもう諦めな? 俺は透琉のつむじにあご乗せるの結構好きだし」
「チビで悪かったね。そうじゃなくて、最近目の奥が痛くて……。眼下に行ったんだけど、視力は落ちてないんだよね」
「ああ……やっぱ、勉強しすぎとかじゃねぇの?」
「この時期の受験生はみんなそんなものじゃない? むしろ僕らは遊びに行きすぎなくらいだと思う。新多君も卒業後は、親戚の会社に入るっていっても、少し勉強するフリくらいした方がいいんじゃないかな」
「ははっ、フリでいいのかよ。透琉もどんどん不良になってきちゃってんなぁ。俺のせい?」
「新多君のせいじゃない。僕だって元々聖人君主ってわけでもないから……」
「そこが味ってね。たまにチワワからシェパードみたいになるもんな、透琉ちゃんは」
「褒められてる気がしない……」
愉快そうな新多は、透琉の頬を撫でまわす。
新多が高校三年生の春という異例な時期に転校してきたのは、両親の離婚により親戚に引き取られたためらしい。就職先も親戚の家業を継ぐようで、新多には受験生特有の焦りが全くない。
透琉にとっては、過剰に気を遣われるよりも普通に接してもらえた方が楽だ。
正反対に見えて、性格の相性が良い。
会話もストレスがないし、新多と話すようになって、自分はここまでおしゃべりな人間だったのか、と新しい発見もあった。
しかし、一つだけ未だに慣れないことがある。
エスカレートしていくボディータッチに戸惑いながら、透琉は黙ってそれを受け入れる。
両親でさえ手を繋いだ記憶はないのに、新多は当たり前のように透琉に触れるので、ついついありのままの自分を肯定された気持ちになる。それがむず痒いのだ。
新多の隣は安心するといっても、眩暈が治まらない日はある。今がまさにそうだ。
「うっ、ごめん、眩暈が……。ちょっとトイレに……」
「悪りぃ、朝から体調悪そうだったのに。俺もついて行く」
「ありがとう……」
先ほどのスキンシップとは違い、介抱するような手つきで支えられる。
身長差もあるのに、透琉に合わせて腰を落として歩きやすいようにしてくれているようだ。
ぐわんぐわんと揺れる視界でも、それが無性に嬉しくて、透琉は、はあ、と安堵の息を吐いた。
昼休みも残りわずかとなったあたりで吐き気はなくなった。
新多が背中を撫でていてくれたおかげだろう。
トイレを出る前に手を洗っていると、目の前の鏡がピキッと音を立てた。
「えっ?」
透琉が顔を上げた瞬間、鏡に亀裂が入った――ような気がした。
音の発生源である場所を新多が手で覆っているため、確認できない。
「どうしたん、とぉーる?」
いつの間にか後ろから片腕をまわされ、密着しているため振り返ることもできない。
ただなんとなく、いつも以上に新多の声が甘く、これ以上聞いてはいけないと思った。
「な、なんでもないよ……」と答えれば、新多は「そっか」と美しく微笑む。作り物のような貼り付けた笑みは綺麗すぎて、恐ろしくもあった。
鏡越しに合う視線は、嘘を見抜かれたようで居心地が悪い。
透琉は、空気を変えようと、引きつった笑みを浮かべる。
「新多君……?」と呼びかけると「なんでもないよ」と先ほど自分が発した言葉がそのまま返って来た。
二学期が始まる直前に、スケジュールの変更や自宅外での自習が多すぎる、と寿美子から指摘された。
なんとなく新多のことを話すのは躊躇われたので、透琉は、図書館の方が冷房の効きが良く集中できるだとか、学校のグループ課題があったとか、何かと理由をつけて、寿美子との話し合いを避け続けていた。
「どうした。ふっかーいため息なんてついて。受験生かよ」
「受験生ではあるけど、勉強の悩みじゃないよ」
後ろから抱き着かれた透琉は、顎を上げて新多を見上げる。
「嗚呼……なるほど。残念だが、身長はもう諦めな? 俺は透琉のつむじにあご乗せるの結構好きだし」
「チビで悪かったね。そうじゃなくて、最近目の奥が痛くて……。眼下に行ったんだけど、視力は落ちてないんだよね」
「ああ……やっぱ、勉強しすぎとかじゃねぇの?」
「この時期の受験生はみんなそんなものじゃない? むしろ僕らは遊びに行きすぎなくらいだと思う。新多君も卒業後は、親戚の会社に入るっていっても、少し勉強するフリくらいした方がいいんじゃないかな」
「ははっ、フリでいいのかよ。透琉もどんどん不良になってきちゃってんなぁ。俺のせい?」
「新多君のせいじゃない。僕だって元々聖人君主ってわけでもないから……」
「そこが味ってね。たまにチワワからシェパードみたいになるもんな、透琉ちゃんは」
「褒められてる気がしない……」
愉快そうな新多は、透琉の頬を撫でまわす。
新多が高校三年生の春という異例な時期に転校してきたのは、両親の離婚により親戚に引き取られたためらしい。就職先も親戚の家業を継ぐようで、新多には受験生特有の焦りが全くない。
透琉にとっては、過剰に気を遣われるよりも普通に接してもらえた方が楽だ。
正反対に見えて、性格の相性が良い。
会話もストレスがないし、新多と話すようになって、自分はここまでおしゃべりな人間だったのか、と新しい発見もあった。
しかし、一つだけ未だに慣れないことがある。
エスカレートしていくボディータッチに戸惑いながら、透琉は黙ってそれを受け入れる。
両親でさえ手を繋いだ記憶はないのに、新多は当たり前のように透琉に触れるので、ついついありのままの自分を肯定された気持ちになる。それがむず痒いのだ。
新多の隣は安心するといっても、眩暈が治まらない日はある。今がまさにそうだ。
「うっ、ごめん、眩暈が……。ちょっとトイレに……」
「悪りぃ、朝から体調悪そうだったのに。俺もついて行く」
「ありがとう……」
先ほどのスキンシップとは違い、介抱するような手つきで支えられる。
身長差もあるのに、透琉に合わせて腰を落として歩きやすいようにしてくれているようだ。
ぐわんぐわんと揺れる視界でも、それが無性に嬉しくて、透琉は、はあ、と安堵の息を吐いた。
昼休みも残りわずかとなったあたりで吐き気はなくなった。
新多が背中を撫でていてくれたおかげだろう。
トイレを出る前に手を洗っていると、目の前の鏡がピキッと音を立てた。
「えっ?」
透琉が顔を上げた瞬間、鏡に亀裂が入った――ような気がした。
音の発生源である場所を新多が手で覆っているため、確認できない。
「どうしたん、とぉーる?」
いつの間にか後ろから片腕をまわされ、密着しているため振り返ることもできない。
ただなんとなく、いつも以上に新多の声が甘く、これ以上聞いてはいけないと思った。
「な、なんでもないよ……」と答えれば、新多は「そっか」と美しく微笑む。作り物のような貼り付けた笑みは綺麗すぎて、恐ろしくもあった。
鏡越しに合う視線は、嘘を見抜かれたようで居心地が悪い。
透琉は、空気を変えようと、引きつった笑みを浮かべる。
「新多君……?」と呼びかけると「なんでもないよ」と先ほど自分が発した言葉がそのまま返って来た。
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