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一年前の出会いを追想しながら朝の交通整理の仕事を終える。
自分のデスクに戻ると、先輩達から今日もご苦労様と労いの言葉をかけられた。
キーボードの横にお菓子が置いてある日もあるが、今日はずっしりと重い何かがミチミチに詰まったビニール袋が置いてあった。
「あの、これはどなたからですか?」
「俺、俺~」
スキンヘッドがトレードマークの原町課長がひらひらと手を振る。
「原町課長、オレオレ詐欺は止めてください。私からです。細井くん、先日は休日にも関わらずうちの畑の手伝いに来てくれてありがとうございました。主人も弟ができたみたいだって晩酌の度に言うもので、今日も追加で持たされました。どうか受け取ってあげてください」
「こちらこそ、いつもよくしていただきありがとうございます。こんなに頂いてしまっていいんですか?」
「ええ、もちろん。傷が入って売り物にならない玉ねぎですが、味は保証します」
「磐木先輩のお家の野菜どれも美味しくて、料理するのが楽しいです。ありがたく頂戴します」
仕事はできるがのほほんとした雰囲気のテキトーおじさんこと原町課長と、田舎町では浮きまくっている美貌の磐木先輩。
磐木先輩は黒い髪を一つに束ね、銀縁の眼鏡のリムをクイっと上げた。
「細井君、何か良いことでも? 朝の仕事から帰って来てからずっとウキウキしていませんか?」
「え? そうですね、今晩は玉ねぎサラダにしようかなとか、今年も新一年生達の顔をなんとなく覚えてきたなぁとか思っていたところで。顔に出てたなんて恥ずかしいな……」
それも本当。だけど、片思い相手の冗談投げキッスを何度も思い返していて頬が緩んでいましたなんて、ここでは言えない。
「それは良かった。最近資格試験の勉強も頑張っていますよね。ちゃんとリフレッシュできていますか?」
「はい、朝の交通整理が息抜きです」
「細井~、それも仕事だべや。あまり根を詰めるなよー」
磐木先輩に続いて、席を立った原町課長も僕の机に個包装のチョコレートを置いてくれた。
「ありがとうございます! 皆さんのおかげでなんとかやれてます」
僕がペコペコと頭を下げると、原町課長と磐木先輩はぐっと親指を立てた。
定時で退勤し、旦那さんの迎えが来るまで暇だという磐木先輩を誘って、コンビニで切らしていたポン酢を購入する。少々割高だが、退勤後にポン酢一本のためにスーパーまで行く気力はない。
玉ねぎのお礼に何でも好きなものを二つ選んでくださいと頼むと、磐木先輩は迷わず缶ビールと緑色のエナジードリンクを選んでかごに入れた。
そして僕も日下くんからの投げキッス記念に浮かれた自分用のビールを一本。
コンビニのレジ台には、ポン酢と酒とエナジードリンク。今朝のカラフルなランドセルたちとは違い、なんともどんよりした配色だ。
「袋要りますか?」
「お願いします」
初めて見る黒髪のロングヘアの男性は、名札に若葉マークを付けているが、いかにもバンドマンといった風貌で、髪は肩あたりで外に跳ねており、耳にはトゲトゲとしたピアスが付いている。研修中にしては大分攻めた外見だ。日下くんが通う大学の新入生かもしれない。
じろじろと観察しすぎたのか、店員のお兄さんとバチッと視線がぶつかる。
気まずさのあまり愛想笑いを浮かべ、互いにじっと何秒か見つめ合ってしまった。
「あー……あの、お兄さんもこの酒飲みます?」
「はい。エナドリとこっちのビールは袋に入れて、このビールとポン酢だけそのまま直接ください」
「わかりました。あの、すんませんけど、年齢確認できるもんの提示お願いします」
ああ、そっちか。この店員は僕が未成年に見えたようだ。
隣でぶふっと吹き出す磐木先輩を睨みつつ、僕は財布から免許証を取り出して提示した。
「え……。あ、あざます」
居酒屋でもスーパーでも、酒類を頼めば年齢確認をされる。日下にも童顔だと言われてしまったが、市役所に来る年配者からの受けは良いため、年齢確認くらい苦ではない。
想定していたよりも僕の年齢が上だったのか、眠そうだった彼は目をこれでもかというほど見開いていた。
自分のデスクに戻ると、先輩達から今日もご苦労様と労いの言葉をかけられた。
キーボードの横にお菓子が置いてある日もあるが、今日はずっしりと重い何かがミチミチに詰まったビニール袋が置いてあった。
「あの、これはどなたからですか?」
「俺、俺~」
スキンヘッドがトレードマークの原町課長がひらひらと手を振る。
「原町課長、オレオレ詐欺は止めてください。私からです。細井くん、先日は休日にも関わらずうちの畑の手伝いに来てくれてありがとうございました。主人も弟ができたみたいだって晩酌の度に言うもので、今日も追加で持たされました。どうか受け取ってあげてください」
「こちらこそ、いつもよくしていただきありがとうございます。こんなに頂いてしまっていいんですか?」
「ええ、もちろん。傷が入って売り物にならない玉ねぎですが、味は保証します」
「磐木先輩のお家の野菜どれも美味しくて、料理するのが楽しいです。ありがたく頂戴します」
仕事はできるがのほほんとした雰囲気のテキトーおじさんこと原町課長と、田舎町では浮きまくっている美貌の磐木先輩。
磐木先輩は黒い髪を一つに束ね、銀縁の眼鏡のリムをクイっと上げた。
「細井君、何か良いことでも? 朝の仕事から帰って来てからずっとウキウキしていませんか?」
「え? そうですね、今晩は玉ねぎサラダにしようかなとか、今年も新一年生達の顔をなんとなく覚えてきたなぁとか思っていたところで。顔に出てたなんて恥ずかしいな……」
それも本当。だけど、片思い相手の冗談投げキッスを何度も思い返していて頬が緩んでいましたなんて、ここでは言えない。
「それは良かった。最近資格試験の勉強も頑張っていますよね。ちゃんとリフレッシュできていますか?」
「はい、朝の交通整理が息抜きです」
「細井~、それも仕事だべや。あまり根を詰めるなよー」
磐木先輩に続いて、席を立った原町課長も僕の机に個包装のチョコレートを置いてくれた。
「ありがとうございます! 皆さんのおかげでなんとかやれてます」
僕がペコペコと頭を下げると、原町課長と磐木先輩はぐっと親指を立てた。
定時で退勤し、旦那さんの迎えが来るまで暇だという磐木先輩を誘って、コンビニで切らしていたポン酢を購入する。少々割高だが、退勤後にポン酢一本のためにスーパーまで行く気力はない。
玉ねぎのお礼に何でも好きなものを二つ選んでくださいと頼むと、磐木先輩は迷わず缶ビールと緑色のエナジードリンクを選んでかごに入れた。
そして僕も日下くんからの投げキッス記念に浮かれた自分用のビールを一本。
コンビニのレジ台には、ポン酢と酒とエナジードリンク。今朝のカラフルなランドセルたちとは違い、なんともどんよりした配色だ。
「袋要りますか?」
「お願いします」
初めて見る黒髪のロングヘアの男性は、名札に若葉マークを付けているが、いかにもバンドマンといった風貌で、髪は肩あたりで外に跳ねており、耳にはトゲトゲとしたピアスが付いている。研修中にしては大分攻めた外見だ。日下くんが通う大学の新入生かもしれない。
じろじろと観察しすぎたのか、店員のお兄さんとバチッと視線がぶつかる。
気まずさのあまり愛想笑いを浮かべ、互いにじっと何秒か見つめ合ってしまった。
「あー……あの、お兄さんもこの酒飲みます?」
「はい。エナドリとこっちのビールは袋に入れて、このビールとポン酢だけそのまま直接ください」
「わかりました。あの、すんませんけど、年齢確認できるもんの提示お願いします」
ああ、そっちか。この店員は僕が未成年に見えたようだ。
隣でぶふっと吹き出す磐木先輩を睨みつつ、僕は財布から免許証を取り出して提示した。
「え……。あ、あざます」
居酒屋でもスーパーでも、酒類を頼めば年齢確認をされる。日下にも童顔だと言われてしまったが、市役所に来る年配者からの受けは良いため、年齢確認くらい苦ではない。
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