ただいま、魔法の授業中!

ロンメル

文字の大きさ
15 / 22
第1章 今日から君も魔法使い(見習い)

十一、飛翔する少年

しおりを挟む

 老人の「龍が騒がしい」の一言が、シュウの胸をざわつかせる。今朝の夢も頭を過ぎりこれは不幸な出来事の前触れなのではないかと、シュウは居ても立ってもいられなくなる。
 実習棟は彦根に任せ、シュウは一路運動場へと駆けていた。

 そして驚愕する。現場の惨憺さんたんたる現状に。

 人が何人も倒れていた。運動場でも、土手でも。土手の上、シュウの最寄りで介抱を受けていたのは弓だった。意識はあるようだが、顔からは生気が消え失せている。
 シュウが足早に弓へと駆け寄る。
「おい、どういう状況なんだ、これは」
 シュウの顔を見て、弓はぎろりと睨み付ける。
「…何だテメェは。今更出てきやがって…!」
 顔も見たくないと弓の顔に書いてあったので、介抱している養護教諭に尋ねる。曰く、発端は航空ショーの騎竜同士の接触事故である。土手の上で観覧していたカンナ達3名にドラゴンが次々と襲撃してきた。内1頭は弓が倒し、内1頭は運動場にて東城先生が封殺。最後の1頭はカンナを連れ去り飛んで行ったとのことだった。
「…それで、カンナは?」
 養護教諭の説明を共に聴いていた弓が、チッと舌打ちし、運動場の上空を指差す。いや、運動場の上空ではない。その先、黒森の彼方上空だ。
 シュウはすかさず立ち上がり、弓が指差す方角を『遠見』で凝視する。

 ―――……居た!

 玄守学園から西へ。悠然と舞うドラゴンと、陰になってしまい少しだけしか見えないが、女子生徒の脚。あれがカンナのものとみて間違い無いのだろう。
 因みに、運動場の隊員達は運悪く地上に降り立った直後であり、隊長不在の状態で怪我人の介抱をしつつ、本部からの指示待ちの状況の様子だった。
「…マジか。あれを追い掛けるのか」
「おま…、追い掛けるって…」弓が飛び起き、シュウに食って掛かる。
「追い掛けるしかないだろう?一刻の猶予も無いんだ」
 シュウはそう言うと、弓を尻目に土手を駆け下りた。

 まずは、運動場の端で伸びているドラゴンに駆け寄る。気絶したドラゴンの瞼を抉じ開け、診る。目立った外傷は擦り傷火傷程度だが、脳震盪を起こしているようだった。
「ユミがこれをやったのか…。なかなか…」
 黒森へ伸びた一条の光。それは運動場への道中でシュウも見ていた。
 何れにしろ、簡単に目覚めそうにも無く、即戦力にはならない。ただ、念には念を入れなければならない。
 シュウは寝そべるドラゴンに杖を振り下ろす。すると、ずぶりずぶりと下半身からドラゴンは地中に沈んでいく。翼まで地面に埋まったところでシュウは魔法を止めた。騒動終息後に掘り起こす手間を省く為、必要最低限、ドラゴンの身動きを封じる為だった。

 次に足を向けたのは、ドラゴンと対峙する東城先生。東城先生は太刀を地面に突き立てドラゴンと睨み合ったまま、依然膠着こうちゃく状態に陥っていた。刃先はドラゴンの影に食い込み、魔力を流し続けている。

 ―――もし、魔法が途切れれば?

 興奮状態のドラゴンは一瞬にして東城先生に食い掛かるだろう。非常に危険な状態であった。

「先生」シュウは、東城先生の背後から声を掛ける。
「…声を掛けないで。気が散ります」
 気にせず、シュウは続ける。
「このドラゴン、借ります」
「近付くのを止めなさい、シュウ・ガントランス」
 静かな口調。だが、怒気を孕む。
「俺がこいつを宥めます。先生は俺の合図で直ぐにここから離れてください」
「―――あのねぇ、今、私がどれだけ苦労して…!」
「分かります。そして、一刻の猶予も無いことも…」
 シュウが殺気立つドラゴンの傍らに立ち、その首元を撫でた途端―――今まで東城先生を束縛していた殺気が、嘘の様に鎮まり返る。
 東城先生は面を上げ、シュウの顔を見る。

 ―――これが、エドモンド理事長から事前に知らされていた、例の―――

「…俺、昔からドラゴンの世話をしていたので、こうやって宥めるのが得意なんですよ」

 ―――違う。本人が自覚していないだけで、これは明らかにドラゴンを上回る―――

 シュウは、いつの間にかドラゴンの背に跨っており、唖然とする東城先生を見下ろしていた。
「では、俺はカンナを助けに行きます。先生は下がってください」
 東城先生は何も言わず、ただ後退り、膝を落とす。実際は立っているのもやっとだった。

「おい!」
 土手の上から、少女の声が引き留める。弓だった。
「…ウチも、連れてけよ!」
「ダメだ、断る」弓の申し出を、シュウは一蹴した。
「杖の無い魔法使いなんて、連れて行くだけ足手まといだ。…悪いな」
 シュウはそう言い終えると、杖を横に薙ぐ。影に突き立った太刀の刀身が、真っ二つに折れた。
 呪縛から解放されたドラゴンは一度嘶くと、翼を拡げ後退し、目指すべき進路へと身を翻した。
「カンナは俺が、絶対に助ける!」
 シュウはそう宣言すると、ドラゴンを疾駆させた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

卒業パーティでようやく分かった? 残念、もう手遅れです。

ファンタジー
貴族の伝統が根づく由緒正しい学園、ヴァルクレスト学院。 そんな中、初の平民かつ特待生の身分で入学したフィナは卒業パーティの片隅で静かにグラスを傾けていた。 すると隣国クロニア帝国の王太子ノアディス・アウレストが会場へとやってきて……。

スキル素潜り ~はずれスキルで成りあがる

葉月ゆな
ファンタジー
伯爵家の次男坊ダニエル・エインズワース。この世界では女神様より他人より優れたスキルが1人につき1つ与えられるが、ダニエルが与えられたスキルは「素潜り」。貴族としては、はずれスキルである。家族もバラバラ、仲の悪い長男は伯爵家の恥だと騒ぎたてることに嫌気をさし、伯爵家が保有する無人島へ行くことにした。はずれスキルで活躍していくダニエルの話を聞きつけた、はずれもしくは意味不明なスキルを持つ面々が集まり無人島の開拓生活がはじまる。

ちゃんと忠告をしましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。  アゼット様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ? ※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

処理中です...