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第1章 今日から君も魔法使い(見習い)
十一、飛翔する少年
しおりを挟む老人の「龍が騒がしい」の一言が、シュウの胸をざわつかせる。今朝の夢も頭を過ぎりこれは不幸な出来事の前触れなのではないかと、シュウは居ても立ってもいられなくなる。
実習棟は彦根に任せ、シュウは一路運動場へと駆けていた。
そして驚愕する。現場の惨憺たる現状に。
人が何人も倒れていた。運動場でも、土手でも。土手の上、シュウの最寄りで介抱を受けていたのは弓だった。意識はあるようだが、顔からは生気が消え失せている。
シュウが足早に弓へと駆け寄る。
「おい、どういう状況なんだ、これは」
シュウの顔を見て、弓はぎろりと睨み付ける。
「…何だテメェは。今更出てきやがって…!」
顔も見たくないと弓の顔に書いてあったので、介抱している養護教諭に尋ねる。曰く、発端は航空ショーの騎竜同士の接触事故である。土手の上で観覧していたカンナ達3名にドラゴンが次々と襲撃してきた。内1頭は弓が倒し、内1頭は運動場にて東城先生が封殺。最後の1頭はカンナを連れ去り飛んで行ったとのことだった。
「…それで、カンナは?」
養護教諭の説明を共に聴いていた弓が、チッと舌打ちし、運動場の上空を指差す。いや、運動場の上空ではない。その先、黒森の彼方上空だ。
シュウはすかさず立ち上がり、弓が指差す方角を『遠見』で凝視する。
―――……居た!
玄守学園から西へ。悠然と舞うドラゴンと、陰になってしまい少しだけしか見えないが、女子生徒の脚。あれがカンナのものとみて間違い無いのだろう。
因みに、運動場の隊員達は運悪く地上に降り立った直後であり、隊長不在の状態で怪我人の介抱をしつつ、本部からの指示待ちの状況の様子だった。
「…マジか。あれを追い掛けるのか」
「おま…、追い掛けるって…」弓が飛び起き、シュウに食って掛かる。
「追い掛けるしかないだろう?一刻の猶予も無いんだ」
シュウはそう言うと、弓を尻目に土手を駆け下りた。
まずは、運動場の端で伸びているドラゴンに駆け寄る。気絶したドラゴンの瞼を抉じ開け、診る。目立った外傷は擦り傷火傷程度だが、脳震盪を起こしているようだった。
「ユミがこれをやったのか…。なかなか…」
黒森へ伸びた一条の光。それは運動場への道中でシュウも見ていた。
何れにしろ、簡単に目覚めそうにも無く、即戦力にはならない。ただ、念には念を入れなければならない。
シュウは寝そべるドラゴンに杖を振り下ろす。すると、ずぶりずぶりと下半身からドラゴンは地中に沈んでいく。翼まで地面に埋まったところでシュウは魔法を止めた。騒動終息後に掘り起こす手間を省く為、必要最低限、ドラゴンの身動きを封じる為だった。
次に足を向けたのは、ドラゴンと対峙する東城先生。東城先生は太刀を地面に突き立てドラゴンと睨み合ったまま、依然膠着状態に陥っていた。刃先はドラゴンの影に食い込み、魔力を流し続けている。
―――もし、魔法が途切れれば?
興奮状態のドラゴンは一瞬にして東城先生に食い掛かるだろう。非常に危険な状態であった。
「先生」シュウは、東城先生の背後から声を掛ける。
「…声を掛けないで。気が散ります」
気にせず、シュウは続ける。
「このドラゴン、借ります」
「近付くのを止めなさい、シュウ・ガントランス」
静かな口調。だが、怒気を孕む。
「俺がこいつを宥めます。先生は俺の合図で直ぐにここから離れてください」
「―――あのねぇ、今、私がどれだけ苦労して…!」
「分かります。そして、一刻の猶予も無いことも…」
シュウが殺気立つドラゴンの傍らに立ち、その首元を撫でた途端―――今まで東城先生を束縛していた殺気が、嘘の様に鎮まり返る。
東城先生は面を上げ、シュウの顔を見る。
―――これが、エドモンド理事長から事前に知らされていた、例の―――
「…俺、昔からドラゴンの世話をしていたので、こうやって宥めるのが得意なんですよ」
―――違う。本人が自覚していないだけで、これは明らかにドラゴンを上回る―――
シュウは、いつの間にかドラゴンの背に跨っており、唖然とする東城先生を見下ろしていた。
「では、俺はカンナを助けに行きます。先生は下がってください」
東城先生は何も言わず、ただ後退り、膝を落とす。実際は立っているのもやっとだった。
「おい!」
土手の上から、少女の声が引き留める。弓だった。
「…ウチも、連れてけよ!」
「ダメだ、断る」弓の申し出を、シュウは一蹴した。
「杖の無い魔法使いなんて、連れて行くだけ足手まといだ。…悪いな」
シュウはそう言い終えると、杖を横に薙ぐ。影に突き立った太刀の刀身が、真っ二つに折れた。
呪縛から解放されたドラゴンは一度嘶くと、翼を拡げ後退し、目指すべき進路へと身を翻した。
「カンナは俺が、絶対に助ける!」
シュウはそう宣言すると、ドラゴンを疾駆させた。
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