極々普通の王太子、名前すら覚えて貰えず、弟に婚約者までも奪われたので王子辞めました。でも何か思っていたのと違う方向へ行ってませんか?俺!?

黄色いひよこ

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一章

迫り来る足音

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彼が前線に出撃する2ヶ月前、偶然知ってしまった。

婚約者で幼なじみのエスリルは、王弟であったサンチェス公爵の長女である。

彼女は勿論、弟の幼なじみでもあった。

王太子は公務の合間にこっそりと裏庭で休憩するのが日課だった。

その時だけは、誰も彼を探しに来ないでいてくれる。

そんな彼が、木の陰で休憩を取っていると、近くの植木から何者かが争う声が聞こえて来た。

ぼそぼそとしていて、はっきりしない声に、彼は聞くともなく聞いてしまった。


「×××××様の事を愛しています!ですから、×××様の事は愛せませんわ…… 」


誰を愛せて誰を愛せないのだろう……。

不思議に思うも、言葉に興味は持てなかった。

その声が愛する婚約者の物だと解るまでは。

そして、彼女に詰め寄るのが親愛なる弟の物だと知るまでは。


あぁ、そうだったのか。


何だろう、確信に近い何かが心を支配する。


『彼女は、弟を愛していたのか…… 』


そうだと確信すれば、納得の行く出来事が、パズルのピースが綺麗に嵌まるように総てが当てはまっていく。


『私が居なければ、総て上手く行くんじゃないか……。弟が王になればこの国は安泰だし、エスリル嬢は大好きな弟と結婚出来て尚且つ王妃だ。私が居ないだけで丸く納まる…… 』


王太子は小さく笑った。

ははは、っと力無く笑った。

方法は有る。

自分を殺す方法が一つだけ……。

後は決断するだけだ。

王太子は、後は「己が覚悟するだけだ」と呟いた。

運命は何処までも彼を嘲笑った。

魔王が決起して、戦況はガタガタ。

魔族と人族が争わなくなって千年。

人は魔族との戦い方を忘れていたせいで、戦況は最悪を迎えていた事は王太子である彼は良く知っていた。

そしてその事態は、王太子の目論見と僅かながら一致した。


「魔王……、君達の存在を利用させて貰うよ。僕は弱い。王太子と言う立場から逃げる事自体、間違っている事は解ってる。けれど、どんなに頑張っても状況が僕の不在を求めるのなら、そうするしか無いだろう? 」


王太子はそう呟くと、すっと音も無く立ち上がった。

先ずは、もっと情報を集める。

それが専決だった。

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