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一章
神の膝元、アレの居る場所
しおりを挟む王太子の側近は次期宰相と、近衛士団次期団長の二名だけだった。
やけに少ない面子である。
彼等も、薔薇を背負うのが似合う美丈夫であり、それでもきさくで学生時代を共に過ごした彼等を、王太子は信頼していた。
悪友でもあり、親友でもあり、学友でもある二人は、王太子に永遠の忠誠を誓っている唯一無二の彼の手足であり、よき理解者であった。
その内の一人、次期団長と言われるジス=ヨンディオルが脳筋と思いきや、学も騎士としての能力も頗る高い男だった。
そんな彼以上に優秀なのが、次期宰相と言われる男、ノーランド=ズレイトシス公爵令息。
彼は文武両道で文官なのに剣も嗜み、その腕もかなり強い。
だからなのか、王太子にはこの二名が居れば何にしろ事足りるのだ。
そんな二人の内の片割れが仕入れてきた情報は、まさに正確で、ずば抜けて早かった。
「お帰り、ジス」
「只今戻りました。殿下」
耳に優しい低音イケボと言える声音の王太子に、膝を折って応える鎧騎士のジスは、鎧を脱ぐ事すら惜しんで王太子の元に馳せ参じたらしく、兜の覆いを跳ね上げて、王太子を見据える。
「殿下、あれは確かにアドラメレクで御座いました。それも単騎で、二千の兵を相手に怯んでおりません。あれは確かに悪魔で、その諸行で御座います」
「では、チートな能力を持ち得る人では無いのだね…… 」
王太子はあからさまに意気消沈し、溜め息を吐く。
彼は一体、何を期待したのか。
「殿下…… 」
「ジス、そうだね、うん。どちらにしろ僕は出撃する事にしたよ……。これ以上、国民や兵を無駄死にさせたくは無いからね。アドラメレクの力と僕の力、それがぶつかれば或いは、『あの場所』へ行けるかもしれないね…… 」
「殿下……、あの場所とは? 」
何か、思い詰めた王太子の言葉に、執務室の隣の扉から出て来たノーランドが、お茶のワゴンを押しつつ王太子に問い掛けた。
彼は執務机に片手を掛けて、行儀悪く頬杖を付いたまま、ノーランドを流し目で見る。
それは何故かやけに男の色気を含んでいて、そんな心此処に有らずな王太子の様子にノーランドは訝しんだ。
「神の膝元。アレが居る場所…… 」
王太子の言葉の意味を知る者は、此処では王太子本人しかいない。
まるで謎かけのようだと、ノーランドとジスは憂いを帯びた表情の、主の言葉に首を傾げた。
王太子がふふっと笑みを零す。
その真意は掴めずにいた。
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