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大森林の小さな家
ラスティエルとアイセンレイトの温室⑥
しおりを挟む「あら、違いますわ。其処の子は眠って居るだけですわね。魔力の無い世界で育った様ですので、彼女は今、この森に漂う魔素を吸い上げて貯めている最中なのですわ」
ラスティエルは魔樹の背後に有る咲き誇る桜を見詰め、語った。
物心付いた時からだが、ラスティエルには様々な物の心の機微が読み取れた。
特に愛情全般等は、手に取るように解る。
ならば、己に対して向けられる思いも解るのでは無いか、と、考えられがちだが、其処は其れ、お約束と言って良い位に、自分の事に関してのみ何も解らない、と言う制約が貸せられている。
うぬぬ。
歯痒い位にお約束である。
ご都合主義宜しく、取って付けたような能力だが、実は彼女にこんな力が備わっていても何ら可笑しくは無いのだ。
その理由の1つが、彼女がこの世界の創造主である弥勒菩薩と、四獣神の1人玄武との間に産まれた一人娘である事。
そしてもう一つ(コレが決定打なのだが)、彼女は愛染明王の産まれ変わりである。
愛染明王は様々な愛を司る神故に、その生まれ変わりであるラスティエルが、愛のキューピットになれると言う事はよもや、必然的と言えた。
と、まぁ、二つの事柄がそうさせているせいで、ラスティエルには愛情のベクトルの大きさや形が手に取るように解るのだ。
勿論、以前述べたように彼女には愛染明王としての記憶など無い。
そしてその記憶が、蘇る事も無い。
よって彼女は、愛染の恋人が、彼を助ける為に世界樹の苗床になった事を覚えていないし、思い出す事も無い。
ラスティエルの言葉に魔樹は訝しげに、己の桜の後ろに咲く同じ種類の小さな桜を鑑みた。
其処には、何事もなく咲く小さな桜の木が、沈黙を守り佇んでいる。
「アイセンレイト様、少し宜しいでしょうか? 」
ラスティエルが、目配せをしながらアイセンレイトを見上げた。
彼女が言いたい事などアイセンレイト取って造作もなく解る。
彼は彼女を見詰めつつ、そっとその腕の拘束を解いて、ラスティエルを自由にした。
ラスティエルはにっこりと笑って、アイセンレイトから離れた。
その足取りと醸し出す雰囲気は、魔樹ですら手を出せない。
それ程に、彼女の醸し出す雰囲気は特殊だった。
ふわりふわりと移動して、ラスティエルは小さな桜の居る場所に辿り着くと桜に向かって微笑み掛けた。
それは慈愛に満ち満ちた微笑み。
彼女はその微笑みを湛えて、桜に語り掛けた。
「力を蓄えるのはもう終わり。今度はその魔力を目覚めに使うの。わたくしが手を貸して差し上げますから頑張って…… 」
語り掛ける声は、緩くて柔らかい。
ラスティエルはそっと桜の幹に掌を触れさせた。
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