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朱色の欠片
閑話~月光、主に会う~
しおりを挟む「あ~っ、漸く着いたぁ~」
「お帰り、月光。あの子は息災でしたか? 」
間延びした声を上げる月光に、背後から掛かる優しそうな声音。
高すぎず低すぎない声音は、この家の主の声だ。
月光と呼ばれた青年はふっと唇に笑みを刻み顔を主へと向けた。
ついさっきまで顔を突き合わせて、あーだ、こーだと言い合いながら、とある男に一緒になって義手と義足を取り付けていた青年と、同じ顔が目前にある。
ただ、彼とはっきり違うと言い切れるのは、髪の色と瞳の色、そして、長く生きてきた者の落ち着きが目の前の主にはあった。
「アイセンレイトの相手、ご苦労様でした。彼はどうしていました? 今頃は、きっと番の彼女と仲睦まじくやっているのでは無いですか? 親としてはその辺が気になる所ですけれども…… 」
「あ~それね。色々と大変そうですけど貴方並みには、お嬢ちゃんを溺愛されてましたよ。事有る如にラスティエル嬢に気絶されて凹んでましたけど…… 」
「は? 気絶? 」
「ねんねのお嬢ちゃんってば、坊ちゃんの、あのだだ漏れの色気と艶やかさに当てられて、安全装置が働いちゃうんでしょうね…… 」
肩をすくめて見て来た事を語る月光に、砂ネズミのように目を眇める彼の主が、明後日の方を見上げて呟いた。
極小さな声だったが、月光にはハッキリと聞こえた。
「不憫な子だ…… 」と。
けれど彼は気を取り直したのか、月光を一瞥して歩き出した。
さも『付いて来い』と言う雰囲気を醸し出しながら。
そして辿り着いた先は、この屋敷のリビング。
主に促されて入れば、其処には相方の日光がソファで寛ぎ、茶をしばいていた。
大きめの湯呑みは、ゴツゴツとした形で指の跡さえ有る濃い茶の焼き物で、手作り感満載の、歪な漢字で日光と書かれている代物であった。
指の跡は小さな子供の物で、高台にはわざわざ切れ込みが入っている。
その高台の輪の中に『あ』と記されていて、コレが幼少期のアイセンレイトの作品だと家族には知られていた。
勿論、月光、日光、お父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃん、フィー、自分、と書かれた色違いと大きさ、形違いの湯呑みが存在している。
これがまだこの家に存在して、大切に使われていた。
「あ~っ、良いなぁ……、俺も茶ぁ、しばきたい」
と、月光が呟けば、
「其処に急須が有ります。セルフですよ、月光」
などと、ケチな返事が相方から帰って来た。
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