14 / 37
動き始める時間
しおりを挟む止まっていた時間が
ゆっくりと流れ始める……。
───────
──────────
─────────────
柚芽が休みでも、俺は違う。
週末金曜の、午前8時30分。
都心に有る高層ビル群の一角。
20階建の8階と9階に席を置く『サングリア』。
此処に俺の通う職場が有る。
『サングリア』は、230名の社員と、110名のタレントを有するプロダクションだ。
様々な部門を抱え持つ此処で、結芽はタレント、俺はマネージャーという立場にあった。
出勤すると、すれ違う皆が柚芽は?と、問い掛けてくる。
その都度、『今日はオフだよ』と答えるのが、頗る付きで面倒だ。
デスクに腰掛けて、パソコンを開いた途端、見ていたかのように鳴る電話。
俺は、深い溜め息を付きつつ、受話器を取った。
『オッハヨーサン。真紘。お前も休めば良いのにさぁ、律儀だね』
「柚芽はオフでも、俺にはやる事が、五万と有るので。で、仕事の邪魔をするつもりでしたら切りますよ。社長」
『本当、社長の私にそんな口を利くのは、お前だけだね』
「切ります」
本気で受話器を置こうとする俺の態度を察知したのか、離した受話器の向こうから慌てふためいた社長の声が聞こえる。
『ちょっと待て!! yumeの仕事の事だ。マネージャーのお前に状況を聞きたい。だから、ちょっと来てくれないかな? 』
結芽は、このプロダクションの看板タレントで、俺が担当する、『Yume』と言う名で活動している歌手だ。
彼女に歌を歌わせたら、『右に出る者は無い。』と、言われる程の実力派歌手。
彼女程の歌唱力を持つ歌手は、そう易々とは出ないだろう。
俺は、それ程の存在の女を縛り付けている。
マネージャーとしては失格だ。
商品に手を着けて、手放せないでいる訳なのだから…………。
いくら彼女とは、歌手になる前からの関係でも、今のままで良いとは到底思え無い。
俺は、思考を止めると、目前の社長室の扉を叩いた。
「どぞ~。開いてるよ」
高い声は、女のモノ。
言い忘れたが、義理母で実姉だ。
まぁ、ちょっとややこしい関係性なのだが、一応育ての母親だ。
と、言うのは社内では機密事項扱いされている。
この人、かなりふざけた性格だが、その辣腕ぶりは、内外でも一目置かれている。
そんな奴が、朝っぱらから何用なのか?
「来たぞ」
「相変わらず愛想の無い男だね。真紘、ちょっとあんた、ちゃんと御飯食べてんの? ……また、痩せてるじゃない」
「少しずつなら食べてる、これでも。柚芽のおかげでね……」
「難儀な子だねぇ。あれが死んだのは、お前のせいでは無いじゃ無いか。男の無理心中だったんだから……」
姉が、痛い所を突いて来る。
わかってる。
時間が経つに連れて、様々な事が浮き彫りになって来て、結果、俺は、全て独りで抱え込んだ。
警察に遺体を確認しに行ったのも俺だけにした。
柚芽には、何も言えなかった。
言える訳が無い。
姉には知られる所と成ったのだが、そんな姉でも、ショックでおかしくなった俺の事は救えなかった。
其れだけひどかったんだ。
「社長。そんな話をする為に、俺を呼んだのか?」
俺は、無理矢理話題を変える。
俺の事等、正直、どうでもいいからだ…………。
──── 🌸 ────── 🌸 ───── 🌸 ────
宣伝失礼します。
このお話と同時進行で、別のお話も公開しております。
『青碧の魔術師』と言うタイトルの恋愛ファンタジーです。
超絶美形が超甘々に甘やかす予定です。
其方も合わせて読んで頂けたら幸いです。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる